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診療報酬改定セミナー2024 2024年度版ぽんすけリリース

小児への薬剤投与量誤り防止など、現時点では「医療現場の慎重対応」に頼らざるを得ない―医療機能評価機構

2019.1.7.(月)

 昨年(2018年)7-9月に報告された医療事故は1093件、ヒヤリ・ハット事例は7654件となった。医療事故のうち9.4%・103件では患者が死亡しており、11.5%・126件では死亡にこそ至らなかったものの、障害残存の可能性が高い—。

 こういった状況が、日本医療機能評価機構が12月27日に公表した「医療事故情報収集等事業」の第55回報告書から明らかになりました(機構のサイトはこちら)(前四半期(2018年4-6月)の状況はこちら)。

 また報告書では、(1)小児へ投与する薬剤(2)院内で調製している薬品の管理(3)検査や治療・処置時の左右の取り違え―に関連する医療事故を詳細に分析し、改善策を提示していますが、(1)の「小児への薬剤投与」については、現時点では「医療現場での慎重な対応」に頼らざるを得ない状況が示されています。

2018年7-9月、医療事故による死亡が増加し、事故事例の9.4%

 昨年(2018年)7-9月に報告された医療事故1093件を、事故の程度別に見ると、「死亡」が103件(事故事例の9.4%、前四半期に比べて2.1ポイント増)、「障害残存の可能性が高い」ものが126件(同11.5%、前四半期に比べて2.0ポイント減)、「障害残存の可能性が低い」ものが294件(同26.9%、前四半期に比べて4.0ポイント減)、「障害残存の可能性なし」が274件(同25.1%、前四半期に比べて1.7ポイント減)などとなっています。「死亡」や「障害残存の可能性が高い」事故が、前々四半期・前四半期に比べて大きく増加しており、今後の動向に注意する必要があるでしょう。

 医療事故の概要を見ると、最も多いのは「療養上の世話」で352件(同32.2%、前四半期に比べて1.3ポイント減)、次いで「治療・処置」317件(同29.0%、前四半期に比べて0.2ポイント増)、「薬剤」90件(同8.2%、前四半期に比べて3.2ポイント減)、「ドレーン・チューブ」86件(同7.9%、前四半期に比べて0.4ポイント減)などと続いています。前四半期に続いて、より広範な医療行為において事故が発生しているようです。
医療事故情報収集等事業 第55回報告書1 181227
 

依然、幅広い場面でヒヤリ・ハット事例が発生、4割が薬剤関連

 次にヒヤリ・ハット事例に目を移してみると、昨年(2018)年7-9月の報告件数は7654件でした。

内訳を見ると、「薬剤」関連の事例が最も多く3055件(ヒヤリ・ハット事例全体の39.9%、前四半期と比べて0.5ポイント増)、次いで「療養上の世話」1354件(同17.7%、前四半期と比べて0.7ポイント減)、「ドレーン・チューブ」961件(同12.6%、前四半期と比べて2.3ポイント減)などとなっています。医療事故と同じく広範な場面でヒヤリ・ハット事例が発生しており、院内のチェック体制を再確認(ダブルチェック、トリプルチェックなど)する必要性はやはり減じていません。
 
ヒヤリ・ハット事例のうち4724件について患者への影響度を見てみると、「軽微な処置・治療が必要、もしくは処置・治療が不要と考えられる」事例が96.3%(前四半期と比べて1.2ポイント減)とほとんどを占めています。しかし、「濃厚な処置・治療が必要と考えられる」ケースも2.9%・136件(同0.8ポイント増)、「死亡・重篤な状況に至ったと考えられる」ケースも0.8%・38件(同0.4ポイント増)あります。一歩間違えば重大な影響の出る事例が少数とはいえ生じており、前四半期に比べて増加している点は重く受け止めなければなりません。全ての医療機関において院内のチェック体制を再度、点検しなおす必要があります。
医療事故情報収集等事業 第55回報告書2 181227
 
なお、メディ・ウォッチでも再三お伝えしていますが、「個人が気を付ける」だけでは医療事故やヒヤリ・ハット事例は防止できません(効果はゼロではありませんが)。どれだけ気を張って業務に携わっていても、人はミスを犯します。とりわけ多忙な医療現場では、ミスが生じやすくなっています。つまり「ミスが生じる」という前提で、「必ず複数人でチェックする」「ミスが生じる前に、あるいは生じた場合には、すぐに気付けるような仕組みを構築する」「院内のルール遵守が当然という風土を作り上げる」など、医療機関全体で「我が事である」と捉えて対策を講じることが必要です。

小児への薬剤投与誤りなど、現時点では「医療現場の慎重な対応」に頼らざるを得ない

 報告書では毎回テーマを絞り、医療事故の再発防止に向けた詳細な分析を行っています。今回は、(1)小児へ投与する薬剤に関連した事例(2)院内で調製している薬品の管理に関連した事例(3)検査や治療・処置時の左右の取り違えに関連した事例―の3テーマについて、詳細に分析しています。

このうち(1)の小児(ここでは0-14歳)への薬剤は、第54回報告書でも取り上げられており、そこに注目してみましょう。

 分析の対象は、小児2015年1-6月に報告された医療自事故、2018年1-6月に報告されたヒヤリ・ハット事例のうち、「薬剤」に関連する(薬剤管理などは除く)、患者の年齢が0-14歳の事例で、医療事故136件、ヒヤリ・ハット事例は486件です。

 事故等の発生段階をみると、医療事故では▼処方・指示:33.8%▼調剤:4.4%▼準備・調整:22.1%▼投与:39.7%―、ヒヤリ・ハット事例では▼処方・指示:20.4%▼調剤:8.4%▼準備・調整:8.2%▼投与:63.0%―となっており、医療事故では「処方・指示」段階での対策、ヒヤリ・ハットでは「投与」段階での対策は最重要と言えそうです。

 このうち比較的多い「準備・調整」段階の事故では、「投与量間違い」が63.3%と大半を占めています。特に目立つのは「注射薬の過量投与(薬剤量の間違い)」で、ほか「希釈に使う液量の過量・過少」が多くなっています。さらに、「薬剤量の間違い」事例の詳しく見ると、▼「mg」と「mL」の見間違い▼「g」と「mg」の換算間違い▼製剤に含まれる薬剤量の誤認▼薬剤の規格量と指示量の見間違い―などとなっています。
医療事故情報収集等事業 第55回報告書3 181227
医療事故情報収集等事業 第55回報告書4 181227
 
また「希釈に使う液量の間違い」については、▼希釈に使う液量と調製後の総量を誤認した▼希釈に使う液量の指示を見落とし、希釈液全量で希釈した▼溶解後希釈に使う液量を間違えた▼溶解後希釈すべきところしなかった―などが多くなっています。
医療事故情報収集等事業 第55回報告書5 181227
 
 
次に「投与」段階におけるヒヤリ・ハット事例を見てみましょう。内訳は、▼内服薬の無投与:27.8%▼注射薬の速度間違い:13.7%▼注射薬の無投与:10.1%―などが目立ちます。
医療事故情報収集等事業 第55回報告書6 181227
 
「無投与」の背景としては、内服薬では「指示を見落とし配薬し忘れた」「1剤だけ一包化されておらず、見落とした」「他部署からの応援の看護師が受け持ったため、小児科病棟での配薬に慣れていなかった」「2人の患者に同じ薬剤の指示があり、1人には飲ませたが、もう1人にも飲ませたと勘違いした」などが、注射薬では「投与時、三方活栓の向きを間違えた」「投与時刻にミルクの注入や他患者の点滴確保を担当していたため、投与を失念した」ことなどがあります。また、小児患者では、家族が内服薬を投与することもあり、失念などによる「無投与」事例も少なからず存在します。
医療事故情報収集等事業 第55回報告書7 181227
 
 ダブルチェックやトリプルチェックでこれら医療事故・ヒヤリ・ハット事例の相当程度が防止できると思われますが、一方で「多忙な医療現場でどうダブルチェック等の体制を構築するか」が重要な課題となります。今後、各医療機関でどういった工夫がなされているのか、好事例の共有などに期待が集まります。

 なお、小児においては「微量な薬剤」投与が必要となることから、「処方・指示」「準備・調製」段階の医療事故やヒヤリ・ハット事例が生じやすくなります。この点について、今回(第55回)と前回(第54回)の報告書では、「指示入力の際に、年齢や体重により処方量のチェックがかかるシステムがあれば望ましいが、リアルタイムな体重の設定、処方アラートをどのように設定するかなど、一律のルールを決めるのは難しく、オーダシステムへの反映は容易ではない」「処方を入力すると、投与量や希釈液の量が自動計算されて希釈方法が表示されるシステムになれば、人による計算に頼ることなく正しい量を知ることができ、調製時の作業も簡易になると思われるが、即座の対応は現実的に難しい」と分析しており、現時点では「医療現場での慎重な対応」に頼らざるを得ないのが実際です。オーダリングシステム等のベンダーにおいて、早急な対応を期待したいところです。

 
 
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