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GemMed塾 新制度シミュレーションリリース

大腸内視鏡検査前の「腸管洗浄剤」使用による死亡事例が頻発、リスク認識し、慎重な適応検討を―医療安全調査機構の提言(10)

2020.3.18.(水)

日本で唯一の医療事故調査・支援センター(以下、センター)である日本医療安全調査機構は3月16日に、10回目・11回目の「医療事故の再発防止に向けた提言」として『大腸内視鏡検査等の前処置に係る死亡事例の分析』『肝生検に係る死亡事例の分析』を作成・公表しました。

本稿では10回目の提言「大腸内視鏡検査等の前処置に係る死亡事例の分析」に焦点を合わせ、11回目の提言「肝生検に係る死亡事例の分析」は別稿でお伝えしましょう。

大腸内視鏡検査の前処置である「腸管洗浄剤」使用による死亡事故は2015年10月以降、12例発生しています。腸管洗浄剤使用にはリスクがあることを医療現場が十分に認識するとともに、X線撮影などを活用してハイリスクの「腸管狭窄が疑われる患者」を把握し、腸管洗浄方法や検査方法なども含めた慎重かつ十分な適応検討が求められるとセンターは提言しています。

腸管狭窄疑いなどのハイリスク患者、前処置や検査の方法を慎重に検討せよ

2015年10月より、医療機関の管理者(院長など)には「予期しなかった『医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産』」のすべてをセンターに報告することが義務付けられました【医療事故調査制度】。この制度は「医療事故の再発防止」を目的としたもので、事故事例を集積・分析する中で「具体的な再発防止策などを構築」していくことがセンターに課せられた重要な役割の1つとなっています(関連記事はこちら)。

センターは、今般、「大腸内視鏡検査等の前処置に係る死亡事例の分析」に係る死亡事例を分析し、10回目の医療事故再発防止策として提言を行いました。

◆過去の提言に関する記事
(1)中心静脈穿刺合併症に係る死亡の分析―第1報―
(2)急性肺血栓塞栓症に係る死亡の分析
(3)注射剤によるアナフィラキシーに係る死亡事例の分析
(4)気管切開術後早期の気管切開チューブ逸脱・迷入に係る死亡事例の分析
(5)腹腔鏡下胆嚢摘出術に係る死亡事例の分析
(6)栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析
(7)一般・療養病棟における非侵襲的陽圧換気(NPPV)及び気管切開下陽圧換気(TPPV)に係る死亡事例の分析
(8)救急医療における画像診断に係る死亡事例の分析
(9)入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例の分析(関連記事はこちら



大腸がん罹患率の上昇に伴い、大腸内視鏡検査の件数は増加の一途をたどっています。今や検査件数は年間500万件にのぼります。大腸内視鏡検査では、前処置である「腸管洗浄剤の使用」に関連する死亡事例が12例報告されており(事例数そのものからは「稀」なケースと言える)、センターでは今般、事故の原因等を分析し、再発防止に向けて次の5項目の提言を行いました。

(1)大腸内視鏡検査等の前処置として使用する下剤・腸管洗浄剤の服用により「腸管内圧が急激に上昇し、腸閉塞、腸管穿孔、敗血症などが惹起され、検査に至る前に死亡するリスクがある」ことを認識する

(2)日常の排便状態、服用薬、腹部手術の既往などから「腸管の通過障害」の有無を評価し、検査方法に対する患者の理解度などを考慮したうえで、適応および前処置の方法を慎重に判断する

(3)遠位大腸(S状結腸から直腸)に狭窄が疑われる場合は、前処置により腸閉塞、腸管穿孔を惹起する可能性がある。まず、直腸指診▼単純X線検査▼腹部・骨盤CT検査―などで閉塞状態を確認することが望ましく、そのうえで、低残渣食の併用、浣腸などの代替処置を検討する

(4)下剤を服用しても反応便がない場合は、腸管の通過障害を疑って診察を行い、必要に応じて単純X線検査などを考慮する。そのうえで、腸管洗浄剤の服用のステップに進むか否かを判断する

(5)腸管洗浄剤を服用しても想定した反応便がなく、腹痛、嘔吐、冷汗などの症状が出現した場合は、まず服用を中断して速やかに診察を行う。必要に応じて画像検査などを実施し、腸閉塞、腸管穿孔の有無を診断する



まず(1)は、検査実施者が「リスクを認識する」ことの重要性を強調するものです。かねてより、腸管洗浄剤に関連する死亡事例が報告されており、今般の分析対象である12例でも「前処置に使用した下剤・腸管洗浄剤が契機となり、腸管内圧が急激に上昇し、腸閉塞、腸管穿孔、敗血症などが惹起された可能性がある」と指摘しています。

腸管洗浄剤の使用によるリスクの評価(その1)(医療安全調査機構提言(10)2 200316)

腸管洗浄剤の使用によるリスクの評価(その2)(医療安全調査機構提言(10)3 200316)



次いで、(2)として「(1)のリスクを次のように評価する」ことが重要です。

▽腸管の通過障害の有無を評価するために、問診で日常の排便状態を確認する(腸管狭窄や腸蠕動運動の低下などの「通過障害」がある患者では、腸管内容の肛門側へのスムーズな運動が障害され、排便異常(便秘や繰り返す下痢など)を訴えることがある)

▽基礎疾患の有無、服用薬の確認、意思疎通の状況、ADLの状況などを確認する

ここで「リスクあり」と評価された患者に対しては、前処置や検査の方法を慎重に検討することが求められます。例えば、▼「大腸内視鏡検査の実施が困難」と思われる場合でも、低残渣食、大腸内視鏡検査専用検査食の摂取を併用した「計画的な塩類下剤」の服用により、安全に内視鏡検査が実施できることもある▼前処置に伴う食事制限や排便コントロールなどで脱水が引き起こされる可能性があり、前処置「前」から水分補給を行う▼前処置を、入院も含め医療従事者の注意深い観察のもとに行う―ことなどを検討する必要があります。なお、経管栄養チューブから前処置薬を投与する方法は「誤嚥のリスク」が高いことから、センターでは「勧められない」と強調しています。



また、遠位大腸(S状結腸-直腸)に腫瘍や壁肥厚などの狭窄が疑われる場合には、「便の通過が物理的に障害され、便塊となって腸管内に貯留する」ことがあります。その状態で下剤・腸管洗浄剤を服用すれば、「腸蠕動運動の亢進や腸管内圧の上昇により、腸閉塞、腸管穿孔をきたす可能性がある」ことを十分に認識しなければなりません(一見反応便があったように見えるものの、それは「想定する反応便ではない」可能性がある)。

センターでは、「遠位大腸の狭窄の有無は、直腸指診や腹部単純X線検査、腹部・骨盤CT検査で診断できる可能性がある」ことを紹介し、▼狭窄が確認された時点で、大腸内視鏡検査等の適応および前処置の方法、検査の範囲をより慎重に検討する▼遠位大腸に狭窄が疑われる場合は、前処置「前」から塩類下剤の服用や低残渣食の併用など、計画的に排便コントロールをしておく▼消化器科や消化器病専門医が在籍している医療機関に相談する―などの対策を考慮するよう要請しています。



一方、(4)は、対象12例のうち8例で「下剤服用後に反応便がない、または反応便の確認が不明のまま腸管洗浄剤服用のステップに進んでいた」ことを重視するものと言えます。

下剤服用後に反応便がない場合は「腸管の通過障害」が疑われます(また、上述のように「一見反応便があったように見えるものの、それは『想定する反応便ではない』可能性がある」ことも考慮する)。必要に応じて単純X線検査などを考慮し、「腸管洗浄剤の服用のステップ」に進むべきかどうかを検討することが求められます。



また(5)では、腸管洗浄剤を服用しても想定した反応便がなく、▼腹痛▼嘔吐▼冷汗―などの症状が出現した場合には、「服用を中断し、速やかに聴診、触診で腸蠕動や腹壁の硬さ、便塊やガスの貯留状況などを確認し、患者の状態把握に努める」「必要に応じて単純X線検査、腹部・骨盤CT検査などの画像検査を実施し、腸閉塞、腸管穿孔の有無を確認する」ことを強く求めています。その際、「注意が必要な症状が出現した際には、躊躇なく医療従事者に伝える」よう、患者や家族に説明し、協力を得ておくことが求められます。



このほかセンターでは、学会や企業等に対し、▼前処置薬の安全な使用の普及啓発▼「より負担の少ない前処置」方法の検討―を行うよう要請しています。

上述のとおり、大腸がん等が増加する中で「大腸内視鏡検査と、その前処置である腸管洗浄剤の使用」ニーズが高まっていきます。より安全な検査実施のためには、産業界や学会の協力が欠かせず、非常に重要な視点と言えるでしょう。



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