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診療報酬改定セミナー2024 看護モニタリング

医学部の「地域枠」の定義を明確化し、受験生や医学部生に「誤解」が生じないように―医師需給分科会(2)

2020.9.8.(火)

医学部入学定員における「地域枠」「地元枠」の内容は大学によって区々で、受験生に分かりにくくなっている。現在の高等学校2年生が主な受験生となる2022年度から、地域枠については▼一般の入学枠とは「別枠」で選抜する▼卒直後から特定の都道府県内で9年間以上従事する▼都道府県のキャリア形成プログラムに参加する―などの定義づけを行う—。

また都道府県は、地域枠の受験生・入学生に対して「地域枠からの離脱が可能なケース」(例えば、退学、死亡、その他の当該地域で就業することが特に困難であると考えられる事由など)を明示するなどし、誤解や安易な離脱が生じないように努めることが求められる―。

8月31日に開催された「医師需給分科会」(「医療従事者の需給に関する検討会」の下部組織)では、こういった方針も固められています。

なお、医師需給分科会では「2022年度の医学部入学定員については、20年度・21年度と同水準とする」「2023年度以降に、臨時増の在り方を考えていく」方針も決まっています。

地域枠の定義を明確化し、受験生や入学生の「誤解」が生じないように

医師需給分科会は、名称どおり「医師の需要と供給について科学的な分析を行い、医師養成数を考える」検討会です。将来的に医療需要がどう変化するのかを科学的に推計し、ニーズに対し過不足なく医療サービスが提供されるように医師養成数(つまり医学部入学定員)を調整していく必要があるのです。

ところで、我が国の医療提供体制には「医師偏在」(都市部、とりわけ東京圏に医師が過度に集中している)という課題が従前からあります。医師偏在は、医療機関の機能分化や医師の働き方改革を阻んでしまうため、医師需給分科会では、その解消に向けて「都道府県に医師確保計画・外来医療計画の作成を求め、段階的に医師偏在を解消していく」方向を打ち出しています(現在、各都道府県で計画を作成中、関連記事はこちらこちらこちら)。

この医師偏在解消に向けて、非常に有効な方策の1つに「大学医学部における地域枠の設定」があります。地域枠出身医師は、大学医学部の所在する都道府県への定着率が、その他の医師に比べて高いことが分かっています。

もっとも「地域枠」と一口に言っても、さまざまなタイプがあることが文部科学省・厚生労働省の調査で分かっています。例えば、「従事要件」(卒業後に一定の都道府県等で一定期間勤務するなど)については、8%(文科省調査)から32%(厚労省調査)で特段の要件が課されてない」、「卒業後に一定の都道府県での勤務・従事要件が課されていても、その年限はばらばらである」(厚労省調査)、「奨学金の設定内容はばらばらである」(厚労省調査)ことなどが明らかになりました。

地域枠の内容がばらばらであれば、受験生・入学した学生の「誤解」を招く可能性が高くなります。「特定地域での従事要件がない」と誤解して地域枠に入学した医師が、卒業後に「特定地域での勤務・従事」を命じられて驚き、それを拒否するケースなどが散見される背景には、こうした「内容がばらばら→誤解」がある可能性もあります。

そこで医師需給分科会では、「地域枠」「地元枠」「大学独自枠」を明確に定義づける方針を決定。そのポイントは次のように整理できます。

【地域枠】
▽一般の入学枠とは「別枠」で選抜する
▽卒直後から特定の都道府県内で9年間以上従事する
▽都道府県のキャリア形成プログラムに参加する
▽出身地や奨学金貸与については問わない

地域枠の定義(医師需給分科会(2)4 200831)



【地元枠】
▽地元出身者(一定期間、当該都道府県に住所を有した者)より先発する
▽従事要件や奨学金貸与、選抜方法は問わない

【大学独自枠】
▽地域枠・地元枠以外

地元枠・大学独自枠の定義(医師需給分科会(2)4 200831)



医師需給分科会では、こうした定義づけの内容は了承されましたが、名称に関する意見がいくつか出ています。権丈善一構成員(慶應義塾大学商学部教授)は「かつて、地域枠とは『地元出身者枠』というイメージであった。現在の地域枠は、特定の都道府県で一定期間以上、地域医療に貢献することを求めるものであり、例えば『地域医療貢献枠』『地域医療従事枠』などの名称にしたほう方が良いのではないか」と指摘。

頷ける部分のある見解ですが、北村聖構成員(東京大学名誉教授)は「『地域医療貢献枠』などとした場合、他の学生に『自分は地域医療に貢献しなくともよい』との誤解を与える嫌いもある」と、弊害が出る可能性にも言及。名称に関しては、今後も検討が続けられる見込みです。

この定義づけは、現在の高等学校2年生が主な受験生となる「2022年度の入学試験」から適用され、各大学の医学部入試要綱において「地域枠」等の名称を用いる場合には、上記の定義に沿うことが求められます(2021年度の入学試験に適用すれば、現在の高等学校3年生の進路に影響する可能性がある)。

地域枠医師等の「キャリア形成プログラム」、多様なニーズに対応できるコース設置を

ところで、地域枠に関しては「医師としてのキャリアを十分に詰めるのか」「専門医の資格は取得できるのか」「学位は取得できるのか」「海外留学などは一切認められないのではないか」などの不安もあるようです。こうした不安も「地域枠からの離脱」要因の1つになっていると指摘されます。

地域枠では、「専門医研修への従事を認めない」「海外留学は認めない」などということはありませんが、厚労省では医学部学生や受験生の不安を払拭する必要性を強く感じ、各都道府県に「キャリア形成プログラム」を作成することを求めています。地域枠医師などを対象に「海外留学をする場合の勤務プログラム例」「学位を取得する場合の勤務プログラム例」などを作成・提示し、上記の不安を解消して、地域医療への積極的な貢献を求めるものです。

しかし、厚労省の調査では、▼一部の都道府県では、キャリア形成プログラムが1コースしかない(多様なニーズに応えることが困難)▼どのような専門医資格を取得できるかを明示していないコースが一部にある▼専門医の研修プログラムと整合的でないケースがある—などの課題も浮上しています。都道府県サイドは「幅広いキャリア形成プログラムを作成しており、1コースで様々なニーズに対応できるようになっている」と反論していますが、学生の不安や誤解を解消するために、より明確化することが求められます。

キャリア形成プログラムの課題(その1)(医師需給分科会(2)1 200831)

キャリア形成プログラムの課題(その2)(医師需給分科会(2)2 200831)

地域枠からの離脱は、「介護や結婚などやむを得ない事情に限られる」旨を明示へ

地域枠に関しては、一部の学生・医師が「離脱」してしまうという問題点も指摘されています。例えば、卒業後に「A都道府県で一定期間勤務する」ことが義務付けられているにもかかわらず、それを無視して別の都道府県で勤務する事例などです。

これを放置すれば、地域枠の存在意義が滅失してしまうため、これまでに▼県や大学に十分に確認せずに、地域枠からの離脱が認められていない医師を採用した臨床研修病院では、補助金の減額を行い(2019年度から開始)、定員の原因や指定取り消しを行う▼都道府県の同意を得ずに専門研修を開始した者については、原則、日本専門医機構の専門医の認定を行わない―などの方向が固まっています。

さらに、医師需給分科会では、次のような方向性を固めつつあります。都道府県の対応が、あまりに区々である場合には、医師の間に「不信感」「不公平感」が生じ、地域医療に従事・貢献する医師の確保に支障が出てしまうと考えられる点への対応です。

▽都道府県は、地域枠入学の契約時に、次の点を明示することが望ましい
▼離脱を認める事由(退学・死亡・その他の猶予期間を設定しても当該地域で就業することが特に困難であると考えられる事由(介護、体調不良、結婚など)など等)
▼離脱する際には「都道府県・大学・本人・保護者もしくは法定代理人の同意が必要である」旨

▽都道府県は、地域枠離脱があった際には「地域枠学生・医師のサポート体制の見直しを定期的に行う」ことが望ましい

このほか、家族の介護や子育てなどで、一時的に地域従事要件を満たせない場合でも、「子育てが落ち着いた後に、当該地域で地域医療に従事してもらう」などの柔軟な対応をとることも都道府県で検討すべきテーマの1つとなります。

都道府県は、地域枠医師に事前に「地域枠から離脱可能な事由」などを明示しておく必要がある(医師需給分科会(2)5 200831)



こうした「離脱事由の明示」そのものへの異論は出ていませんが、「地域枠で学ぶ学生の意思・権利を強力に縛る仕組みとしないことが重要である」(森田朗構成員:津田塾大学総合政策学部教授)などの指摘も出ています。細部についてさらに詰め、こちらも現在の高等学校2年生が主な受験生となる「2022年度の入学試験」から適用されることになります。

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