薬剤師が患者とコミュニケーションとり、既往歴や入院予定を把握して医療事故防止―医療機能評価機構
2019.9.6.(金)
薬剤師が患者とコミュニケーションをとり、処方医が把握していなかった「既往歴」や「他医療機関への入院予定」を聞き出し、医薬品による事故等を未然に防いだ―。
日本医療機能評価機構は9月2日に、保険薬局(調剤薬局)からこのようなヒヤリ・ハット事例が報告されたことを公表しました(機構のサイトはこちら)。
「薬袋の確認が疎かになりがち」な点に留意を
日本医療機能評価機構は、医療安全を確保する取り組みの1つとして、患者の健康被害などにつながる恐れのあったヒヤリ・ハット事例(「ヒヤリとした、ハッとした」事例)を薬局から収集する「薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業」を実施しています。さらに収集事例の中から医療安全対策にとりわけ有益な情報を「共有すべき事例」として公表もしています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。9月2日には新たに3つのヒヤリ・ハット事例が紹介されました。
1つ目は、服用について患者に口頭で指導したものの、薬袋等への記載がなく、患者が誤った服用方法をとってしまった事例です。
ある患者は、以前から合成副腎皮質ホルモン剤の「プレドニゾロン錠1mg」を服用していましたが、あるときの処方箋で「隔日投与」の記載があったため、薬剤師が「1日おきに服用する」よう説明しました。しかし薬袋には「1日1回朝食後1回1錠14日分」と印字されたのみで、「隔日に」あるいは「1日おきに」などの記載をしていませんでした。患者は従前どおり「毎日服用」してしまい、後に「次の受診日までの薬が足りない」と電話があったといいます。
機構では、「調剤の過程で『薬袋の確認』が疎かになりやすい」「患者の記憶は時間とともに薄れていく」点を注意した上で、▼特に、前回の処方から変更があった場合は、変更内容が薬袋に反映されているか確認する▼患者が処方通りに服用できるよう、薬袋を適切に作成するための具体的な対策を講じる―よう求めています。
2つ目は、薬剤師が「患者の既往歴から、処方薬については禁忌である」ことに気付いて疑義照会を行い、処方変更が行われた事例です。
ある患者には、以前から緑内障、高眼圧症の治療に用いる「ラタノプロスト点眼液0.005%」が処方されていましたが、眼圧が高いため同じ効能効果を持つ「エイベリス点眼液0.002%」へ変更となりました。その際、薬剤師は患者から「数年前に別の病院で白内障の手術を受けた」ことを聞きました。この点、「エイベリス点眼液」は▼無水晶体眼▼眼内レンズ挿入眼―の患者では「禁忌」となっていることから、処方医に疑義照会。その結果、「従前の薬剤『ラタノプロスト点眼液』に戻すこと(処方変更)」「再度処方を見直すため近日中に受診してほしいこと」との患者への指示が行われました。
機構では、▼現病歴や既往歴などの患者情報を丁寧に聴取し、その情報と照らし合わせて処方監査を行う▼新薬や薬局で初めて取り扱う薬剤を調剤する際は、薬剤の基本情報を必ず確認する―ことを提案しています。
今般の事例は、医療機関で既往歴の確認漏れがあったと思われ、薬剤師による患者とのコミュニケーションが非常に重要なことを再確認できる好事例と言えます。
3つ目は、薬剤師が、薬剤の添加物(エタノール)までも十分に把握した上で、患者のアレルギー情報を確認し、薬剤アレルギー発現を防止した事例です。
ある薬局で、患者に薬剤を交付する際、「検査のために他医療機関に入院する予定があり、手術を行うかもしれない」ことを聞きました。患者が服用している薬剤の中には術後における血栓・塞栓形成の抑制等に用いる「タケルダ配合錠」(アスピリンとランソプラゾールの配合剤)があり、薬剤師は「出血を伴う検査であれば、入院前からタケルダ配合錠の服薬を中止する必要があるのではないか」と考えました。処方医へ疑義照会した結果、休薬期間を設けることとなり、処方日数が変更となりました。併せて、患者には一包化調剤した薬剤を渡していたため、飲み間違いがないように分包紙に「日付」を印字したといいます。
事例の背景には、「医療機関が、患者の他医療機関への入院情報を把握していなかった」「入院医療機関で患者の医薬品情報を十分に把握していなかった」ことが考えられます。日本医療機能評価機構では、「医療機関内で観血的医療行為前に中止する取り決めがある薬剤を把握していなかったことや中止指示を出さず、予定した手術や検査が延期になった」事例を別に紹介しています。
なお、本事例について「休薬期間を設ける場合、患者にとっては薬剤の管理が複雑になる。分包紙に服薬日を入れるなどの対応は、飲み間違いを防止し、患者が安全に治療を受けるための支援となる」との評価も行っています。すべての薬局で参考にすべき取り組みでしょう。
2015年10月にまとめられた「患者のための薬局ビジョン」では、かかりつけ薬局が(1)服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導(2)24時間対応・在宅対応(3)かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化—を持つべきと提言されています(関連記事はこちら)。
また2018年度の前回調剤報酬改定では、▼薬剤師から処方医に減薬を提案し、実際に減薬が行われた場合に算定できる【服用薬剤調整支援料】(125点)を新設する▼【重複投薬・相互作用等防止加算】について、残薬調整以外の場合を40点に引き上げる(残薬調整は従前どおり30点)—など、「患者のための薬局ビジョン」や「高齢者の医薬品適正使用の指針」を経済的に支援する基盤が整備されてきています(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
「疑義照会が即座に点数算定に結びつく」わけではありません(要件・基準をクリアする必要がある)が、事例のような薬剤師の取り組みが積み重ねられることで、「かかりつけ薬局・薬剤師」の評価がさらに高まり、それが報酬の引き上げ論議などに結びついていきます。薬剤師の専門家の立場、患者に比較的身近な立場を活用した、積極的な疑義照会に期待が集まります。
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