医療事故調、「事故の定義」など19の論点―厚労省、施行前に整理
2014.11.26.(水)
「医療事故調査制度」が始まる来年秋に向けて厚生労働省は、関係省令の制定に向けた本格的な検討を開始しています。26日には「医療事故調査制度の施行に係る検討会」の2回目の会合を開き、医療現場の関係者らと法律家らとの間で議論が平行線をたどっている「医療事故の定義」など19項目の論点(検討事項)を提示しました。
まず、「医療事故調査制度」の概要について確認しておきましょう。
この制度では、すべての病院、診療所、助産所といった医療機関で医療事故が発生した場合に、医療事故調査・支援センター(第三者機関、以下「センター」)に報告します。
これに合わせて医療機関では院内での調査を行い、結果を遺族に説明し、さらにセンターに報告します。
センターは、医療機関からの報告内容を整理・分析し、医療事故の再発防止に向けた普及啓発を行います。
さらに、医療機関または遺族からセンターに依頼があった場合には、センターが調査を行い、その結果を医療機関と遺族に報告します。センターが行う調査は「医療機関がセンターに報告したもの」のうち、医療機関または遺族が調査を依頼したものに限定されますので、医療機関からの報告がなければ遺族がセンターに調査を依頼することはできません。
制度の施行に向けたスケジュールは、概ね次のようになっています。
●14年11月14日 に「医療事故調査制度の施行に係る検討会」開催
●15年2月をめどに検討会が意見取りまとめ(5-6回の審議を予定)
●検討会の意見を踏まえて、厚労省が関係省令案を作成
●15年4月に省令を公布し、医療機関などによる報告ガイドラインなども作成
●15年4月以降に「センターの申請受付開始」「センターの厚生労働大臣指定」
●15年10月に、「医療事故調査制度」施行
14日に開かれた検討会の初会合では、「報告しなければならない医療事故の範囲をどう考えるのか」をめぐって早くも白熱した議論が行われました。
医療事故調査制度の根拠法となる医療介護総合確保推進法では、事故の範囲について「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったものとして厚生労働省令で定めるもの」と規定しています(法第6条の10)。
小田原良治委員(日本医療法人協会常務理事)は、「死亡・死産を予期しなかったもの」という法律上の文言を重視し、「過誤・過失のある医療行為による死亡・死産」は対象外ではないかと主張しています。こうした見解は、医法協が10月4日に発表した「日本医療法人協会医療事故調ガイドライン」でも述べられています。
こうした主張に対し、法律家の委員らは「過誤・過失のある医療行為による死亡・死産を対象にしないという解釈はすべきでない。『予期しなかった』医療事故による死亡・死産の原因を探る中で、医療行為に過誤・過失があったかどうかが明らかになる」などと反論しています。
厚労省では、「過誤・過失のある医療行為による死亡・死産を除外することは想定していない」との見解を明らかにしていますが、医療現場がきちんと納得した上で制度を運用するために、今後も引き続き議論していく必要があります。
26日の2回目の会合で示された論点は、次のような19項目です。
(1)医療事故の定義
(2)医療機関からセンターへの事故の報告
(3)医療事故の遺族への説明事項等
(4)医療機関が行う医療事故調査(院内調査)
(5)支援団体の在り方
(6)医療機関からセンターへの調査結果報告
(7)医療機関が行った調査結果の遺族への説明
(8)センター業務
(1)の「医療事故の定義」については、前述の通り「医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産」であることと、「当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかった」ことという2段階で制度の対象を限定しています(医療法第6条の10)。
前者の「医療に起因し、又は起因すると疑われる」という限定については、「医療の範囲に含まれるものとして、手術、処置、投薬およびそれに準じる医療行為(検査、医療機器の使用、医療上の管理など)が考えられる」「施設管理等の医療に含まれない単なる管理は制度の対象にならない」「医療機関の管理者が判断するもので、ガイドラインでは判断の支援のための考え方を示す」との考え方が整理されました。
また後者の「予期しなかった」については、厚労省令やガイドラインで整理することが確認されています。
もっとも、医療事故の定義については委員の間でも意見が大きく異なるため、今後も引き続き議論していくこととされました。
(2)の「医療機関からセンターへの事故の報告」については、厚労省から報告事項案(医療機関名、患者情報、医療事故の内容、医療事故調査の実施計画概要など)が示されましたが、委員の意見は分かれています。
小田原委員をはじめとする医療提供側は「事故を把握した時点では詳細は不明で、まず『事故が発生した』ことを迅速に報告することが重要だ。事案の詳細について(の報告)は不要とすべき」と主張。
一方、宮澤潤委員(宮澤潤法律事務所弁護士)や、永井裕之委員(患者の視点で医療安全を考える連絡協議会代表)らは、「事故が認識された最初の時点でも、可能な限り概要報告を求めるべきだ。その後の調査で医療機関の見解が変わってくることは当然、あり得るが、当初の見解こそが医療事故再発防止に向けて重要」などと述べています。
このほかに「報告の期間」をめぐっては具体的にどの程度迅速な報告が必要なのかなどがまだあいまいで、引き続き検討されます。
(4)の「院内調査」に関して、厚労省は「カルテ、画像、検査結果などを確認する」「当該医療従事者のヒアリングは必ず実施する」ことを提案。加えて「その他の関係者からのヒアリングを行う」「解剖、Ai(死亡時画像診断)については、必要性や遺族の同意の有無等を考慮して行う」ことも示しています。
(5)の支援団体は、医療機関による院内調査などを支援する学術団体などです。厚労省は医師会、歯科医師会、看護協会、助産師協会、病院団体、大学病院、各医学会などを提示しています。これらの団体が、センターとどう役割分担していくのかを今後、具体化することになりそうです。
(6)の「医療機関からセンターへの調査結果報告」については、医療機関名や患者情報、臨床経過(客観的事実の経過)などを記載した報告書を提出することになります。この報告書は医療事故の再発防止を目的に作成するもので、「個人の責任追及のためのものではない」ことが通知などで明確にされる模様です。
また(7)の「医療機関が行った調査結果の遺族への説明」については、院内調査報告書を遺族に公開すべきかどうかをめぐり意見が分かれました。
加藤良夫委員(南山大学大学院法務研究科教授)は、「医療事故調査制度を検討してきた『医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会』では、報告書を遺族に開示すべきとの結論をまとめた。この趣旨に沿って、報告書は遺族に開示されるべき」と強調しました。
しかし、松原謙二委員(日本医師会副会長)らは「省令やガイドラインは法律に沿って定められるべきで、の検討会の意見などを金科玉条にしてはいけない」などと反論しています。
(8)のセンター業務に関しては、「院内調査との関係」で議論が行われています。
医療介護総合確保推進法では「センターは、調査の依頼があったときは、必要な調査を行うことができる」(法第6条の17第1項)と規定されており、「院内調査の後にセンター調査が行われる」とは規定されていません。
この点、加藤委員は「院内調査は全医療機関に義務付けられるが、体制の整わない所では十分に行うことができない可能性もある。院内調査に時間がかかる場合などには、遺族がセンターへ調査を依頼できると理解せざるを得ない」との見解を示しました。
また、大磯義一郎委員(浜松医科大学医学部教授)は「院内調査が無意味にならないよう、院内調査を医療機関が理由なく行わないなど、限定された場合にのみ、院内調査の終了を待たずにセンターが調査を行えると解釈すべき」と提案しています。
厚労省では「院内調査よりも前にセンター調査が行われることもある」としています。これは、医療事故における遺族側の強い要望を反映させたもので、センター調査に大きな限定を掛けるのは難しいかもしれません。
さらに大磯委員は、「医療安全に資するために院内調査を行う医療機関にも、何らかの費用補てんを行うべきではないか」とも要望しました。
検討会では医療事故の定義など意見の隔たりが大きな部分を中心に今後、議論を詰めていく模様で、次回会合は12月11日の予定です。