15年度介護報酬改定に向けて運営基準を集中討議―パブコメ募集へ
2014.11.26.(水)
2015年度の介護報酬改定に向けた論議が進んでいます。26日に開かれた社会保障審議会・介護給付費分科会では、運営基準などをめぐり集中討議を行いました。
厚生労働省からは、これまで個別サービスごとに示された論点の中から、運営基準などに関する部分を抜き出した「改正案」を提示しました。
介護サービスの運営基準の取り扱いは、地方分権推進の一環で市町村の条例に委譲されているため、改正に当たっては条例改正が必要となります。このため、報酬(単位数)に先行して見直しの内容を固める必要があるのです。
こうしたことから、改正案中には委員からの反発が強いものもありますが、厚労省は原案をパブリックコメント(意見募集)に掛け、ここで寄せられた意見や、分科会による審議結果を踏まえて年明けに最終案を固め、諮問・答申を行うこととなりました。
次回の会合は12月19日の開催を予定していて、報酬(単位数)の見直し案取りまとめに向けた議論が行われる模様です。
運営基準の見直し案や、それらへの委員の意見を見ていきましょう。
居宅介護支援(ケアマネジメント、介護予防を含む)の見直しについては、次の2点が提案されています。
(1)ケアマネ事業所とサービス事業所の意識共有を図るために、ケアマネはケアプランに位置付けたサービスなどの担当者から個別サービス計画の提出を求めることとする
(2)今般の医療介護総合確保推進法に盛り込まれた「地域ケア会議」で、個別ケアマネジメント事例の提供を求められた場合には、これに協力する努力義務を負う
いずれも、ケアマネとサービス提供事業者の連携を推進し、質が高くて効率的なケアプラン策定やサービス提供を目指すものです。
訪問介護については、次の3点の見直しが提案されました。
(1)「複数のサービス提供者が共同して利用者に関わる体制が整備されている場合」や「利用者情報の共有など、サービス提供責任者(「サ責」)が行う業務の効率化が図られている場合」には、「サ責」の配置基準を「利用者50人に対し1人以上」に緩和する(現在は利用者40人に対して1人以上)
(2)「訪問介護」と「介護予防・日常生活支援総合事業(「総合事業」)における第一号訪問事業」を同一事業所で一体的に実施する場合、人員、設備および運営の基準について、訪問介護などのサービスを一体的に実施する場合の現行基準に準ずるものとする
(3)介護予防訪問介護が総合事業に移行する際に、必要な経過措置を設ける
(1)については、厚労省老健局の高橋謙司・振興課長が「『サ責』が訪問介護に費やす時間は平均で1か月当たり2.1時間に過ぎないという調査結果がある。もっぱら『サ責』が管理業務に就いている場合には、配置基準を緩和することができるのではないか」との考えに立った提案であることを説明しました。
しかし、複数の委員からこれへの明確な反対意見が出されました。内田千惠子委員(日本介護福祉士会副会長)は「『サ責』はヘルパーの教育など重要な業務を担っており多忙だ。配置基準の緩和によりきちんとした業務を行えなく可能性が高い」と主張。また平川則男委員(日本労働組合総連合会総合政策局生活福祉局長)も「『サ責』の業務が過多になり好ましくない」と述べています。
厚労省老健局の迫井正深・老人保健課長は「異論が多いことは理解した。最終案に委員の意見を踏まえたものを出したい」と述べ、再検討の余地がある考えを示しています。
(2)と(3)は、医療介護総合確保推進法の「要支援者への訪問・通所介護について、介護保険給付から市町村の総合事業に移管する」という内容を踏まえ、訪問介護事業所の運営基準を見直すものです。通所介護でも同様の内容が提案されました。
通所介護については、次のような見直し案が示されました。
(1)「地域密着型通所介護」が16年度に創設されるのに伴い、地域との連携や運営推進会議の設置など、新たな基準を設ける
(2)小規模な通所介護事業所が「小規模多機能型居宅介護のサテライト事業所」に移行するに当たって、17年度末までの経過措置を設ける
(3)いわゆる「お泊りデイ」を実施している事業所について、利用者保護の観点から届け出制を導入し、事故報告の仕組みを設ける
医療介護総合確保推進法では、通所介護サービスを整理し、1か月当たりの平均利用延べ人数が300人以内の小規模な事業所について、「地域密着型通所介護(新類型)となる」「利用人数を拡大して通常規模型の通所介護に移行する」「小規模多機能型居宅介護のサテライト事業所になる」という3つの選択肢を用意しています。
(1)と(2)は、この法改正に伴って運営基準を見直すものです。
特に(2)では、「本体の小規模多機能型居宅介護の宿泊設備を利用できる」ことや「将来的に宿泊設備を整備できる」ことなどを条件に、「宿泊設備を備えずとも小規模多機能型居宅介護のサテライト事業所」となることを17年度末まで認めています。
また(3)のお泊りデイについては、「事業所の電話番号」「宿泊サービスの利用定員や提供時間」「宿泊サービスの人員配置状況」「宿泊室の状況(個室かどうかなど)」「消防設備の設置状況」などの届け出が15年度から義務付けられる方向です。認知症対応型通所介護でも同様の内容が提案されています。
訪問サービスと通所サービスに共通の見直し内容として、厚労省は次の3点を提案しています。
(1)リハビリは「心身機能」「活動」「参加」などの生活機能の維持・向上を図るものでなければならないことを、訪問・通所リハの基本方針に規定する(訪問看護、通所介護、認知症対応型通所介護でも同様)
(2)訪問・通所リハを同一事業所が提供する場合の運営効率化を推進するため、リハ計画、利用者の同意書、サービス実施状況の診療記録への記載などを効果的・効率的に実施できるよう基準を見直す
(3)ケアマネやサービス担当者らがリハカンファレンスに参画し、利用者主体の日常生活に着目した支援方針や目標、計画を共有する努力義務を訪問・通所リハを提供する事業者に課す
これまで、ややもすると「身体機能の維持」に偏りがちだった高齢者リハについて、活動や社会参加を目標とする新たな体系に再構築することを目指すものです。
短期入所生活介護(ショートステイ)では、次の2つの見直し案が示されました。
(1)利用者の状態や家族などの事情によって、ケアマネが「緊急やむを得ない」と認めた場合など一定の条件下で、専用の居室以外の静養室での受け入れを認める
(2)基準該当短期入所生活介護について、一定の条件で静養室での実施を容認し、小規模多機能型居宅介護事業所への併設実施を可能とする
これらは、短期入所生活介護の重要な役割の一つである「緊急時の受け入れ」を拡大することを目指しています。この点、東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は、「緊急時受け入れが常態化する危険性もある。できる限り早期の退所を求めるような要件を設定するべきではないか」と提案しています。
特定施設入所者生活介護関連では、「介護職員・看護職員の配置基準について、要支援2の基準(現行3対1)を、要支援1の基準(10対1)を参考に見直す」ことなどが提案されました。
この見直しにより要支援2の報酬(単位数)は引き下げられますが、重度の要介護者を受け入れた場合の加算(「サービス提供体制強化加算」や「認知症専門ケア加算」)の創設が別途、検討されています。
福祉用具貸与・特定福祉用具販売に関しては、「現に従事している福祉用具専門相談員に対し、福祉用具貸与(販売)に関する知識の修得・能力向上に向けた自己研さんの努力義務を課してはどうか」と提案されました。
福祉用具貸与(販売)を行う事業所には、相談員の資質向上に向けた研修機会の確保に向けた努力義務が既に課されていますが、これのより実効性を高めるために、相談員自身にも努力義務を課す内容です。
12年度に創設された定期巡回・随時対応型訪問介護看護(定期巡回・随時対応サービス)については、次の3つの見直しを行ってはどうかと提案されました。
(1)一体型事業所による訪問看護サービスの一部を、ほかの訪問看護事業所に行わせることを可能とする
(2)夜間(午後6時-午前8時まで)のオペレーターとして充てることができる施設・事業所の範囲について、「併設する施設・事業所」に加えて、「同一敷地または隣接する施設・事業所」を追加する
(3)事業所自らがサービスの質の評価を行い、これを地域包括支援センターなど公正・中立な立場の第三者らによる介護・医療連絡推進会議に報告した上で公表する仕組みにする(小規模多機能型居宅介護や複合型サービスでも同様)
(1)と(2)は、定期巡回・随時対応サービスの普及促進を目指すものですが、齋藤訓子委員(日本看護協会常任理事)は、「(1)の訪問看護事業所との連携は、制度の本来の趣旨とずれているのではないか。今回はこの案で行くとしても、将来的には自らが訪問介護と訪問看護を一体的に提供する一体型事業所を増やす方向に進めるべきだ」との見解を示しています。
小規模多機能型居宅介護については、次のような見直し案が示されました。
(1)登録定員を29人以下(現在は25人以下)とし、これに併せて登録定員が26人以上の事業所では、居間と食堂を合計した面積が「機能を十分に発揮し得る適当な広さ」の場合、通い定員を18人以下(現在は15人以下)とする。泊まり定員は現行の9人以下を維持する
(2)小規模多機能型居宅介護の看護職員が兼務可能な施設・事業所の範囲に「同一敷地内または隣接する施設・事業所」を加え(現行は併設の施設・事業所のみ)、兼務可能な施設・事業所の種別に特別養護老人ホームや老人保健施設を加える(現行は地域密着型特養ホームや介護療養型医療施設など)
(3)小規模多機能型居宅介護事業所がグループホームを併設している場合の夜間の職員配置について、入居者の処遇に影響がないことを前提に、「泊まり定員とグループホームの1ユニット当たり定員の合計が9人以内であり、かつ両者が同一階に隣接している」場合、夜間の職員配置は兼務を可能とする
これらは「柔軟な運営」を一定程度可能とするものですが、鈴木邦彦委員(日本医師会常任理事)は、「小規模多機能型は宅老所から発展してきたものと理解しているが、進化を続けている。包括報酬であり、通所定員の撤廃などより柔軟な対応を可能とする仕組みを検討すべき」と主張しています。
鈴木委員はまた、(1)の「機能を十分に発揮し得る適当な広さが確保されている」場合について、かつての基準である「通所利用者一人当たり3平方メートルの確保」を明記すべきだとも述べており、内田委員や山際淳委員(民間介護事業推進委員会代表委員)らも同調しています。
厚労省老健局の高橋課長は「運用の中で利用者一人当たり3平方メートルを確保する」と明確にしています。
複合型サービスは、12年度改定で新設された小規模多機能型居宅介護に訪問看護を組み合わせたサービスですが、こうしたサービス内容を分かりやすくするために「介護小規模多機能型居宅介護」に名称変更してはどうかと提案されました。
また、定員について小規模多機能型居宅介護と同様(登録定員を29人以下に拡大するなど)の見直し案も示されています。
認知症対応型共同生活介護(グループホーム)に関しては、現行「1または2」とされているユニット数の標準について、新たな用地確保が困難などの事情がある場合に「3ユニットまで差し支えない」ことを明確にしてはどうかと提案されています。
また、認知症対応型通所介護(いわゆる「認デイ」)については、「利用定員を、1ユニット3人以下に見直す(現行は1事業所3人以下)」「16年度から運営推進介護の設置を義務付ける」などの見直し案が提示されました。
認知症対策の充実は、高齢化が進む中で最重要課題の一つに位置付けられており、質の高いサービスをより効率的に提供できる体制を目指すものと言えます。
このほか、サテライト型の地域密着型介護老人福祉施設(地域密着型特養ホーム)の本体施設として、地域密着型特養護ホームを追加する(現行は特養ホーム、老健康施設、病院、診療所のみ)ことも提案されました。