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GemMed塾 新制度シミュレーションリリース

大阪府での病院機能分化・連携の推進に向け、自治体病院対象の勉強会「せやCoM」を開催

2014.12.9.(火)

 これからの病院運営は、病院単独のスタンドアローンではなく、地域での連携・統合を考慮しなければならない―こうした視点に立って、GHCは各地で自治体病院を中心とした勉強会を開催しています。東海地方で開催する「ToCoM(Tokai Consortium for Municipal Hospitas )」、北海道で開催する「DoCoM」に続き、今般、初めて大阪で「大阪府公立病院ベンチマーク勉強会(通称:せやCoM)」を開催しました。「せや」は大阪弁の「せやねん」からきています。

 GHCは各地での会合を定期的に開き、地域医療の質向上に向けた取り組みを支援します。

 「せやCoM」の初会合は8日に大阪市北区梅田のハービスOSAKAで開かれ、(1)市立池田病院(2)市立枚方病院(3)箕面市立病院(4)東大阪市立総合病院(5)八尾市立病院(6)市立柏原病院(7)市立岸和田市民病院-から院長らが出席しました。

 会合の冒頭にご挨拶いただいた「せやCoM」幹事である八尾市立病院の佐々木洋病院長は、「DPC病院をめぐる環境も厳しくなっており、大学病院でも苦労していると聞く。自治体病院が連携し、今後の地域医療ニーズに応えていく必要がある」と強調されました。

八尾市立病院の佐々木洋病院長

八尾市立病院の佐々木洋病院長

病院の集約化が進み「医療の質」を競う時代へ

 GHC代表取締役社長の渡辺幸子は、日本の医療の将来を展望した上で、今後の病院運営で考えるべきポイントを整理しました。

GHC代表取締役社長の渡辺幸子

GHC代表取締役社長の渡辺幸子

 日本とOECD(経済協力開発機構)の加盟諸国と比較すると、日本の医療には人口あたり病院数と急性期病床数が多く、平均在院日数が長いなどの特徴があります。

 平均在院日数に着目すると、日本の一般病床では約18日ですが、OECDの平均では1週間程度です。この背景として渡辺は「日本では機能分化が遅れているのではないか」と分析します。

 平均在院日数が長いことにはどのような問題があるのでしょう。渡辺は、医療費だけではなく、医療の質という面でも問題があると指摘します。在院日数が長くなれば院内感染が発生する確率が高まり、高齢者では日常生活動作(ADL)も著しく低下してしまいます。渡辺は「医療の質の面から見ても、平均在院日数が長いことは好ましくない」と話しました。

 この点、厚労省も同じ考えに立って「病院・病棟の機能分化」を進めており、病床機能報告制度や地域医療構想の策定、診療報酬による誘導などの方策が実行されています。特に7対1の施設基準は今後、さらに厳格になっていくとことは確実でしょう。いわば「急性期らしい病院の選別」です。

 このように、病院の機能分化が進めば、一病院で医療を完結することはできませんから、ほかの病院や診療所、介護との連携を密にし、シームレスなケアを提供する必要性が増します。渡辺は「自治体病院でも今後はスタンドアローンでは厳しくなる。地域での連携を進めなければならない」と強調します。さらに、ここで重要になってくるのが、「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の定義です。現在は定性的な基準ですが、厚労省は「医療資源投入量(出来高点数)に着目した定義付けを検討しています。

 さらに、14年6月に成立した医療介護総合確保推進法では、地域医療構想の実現に向けて都道府県知事に強大な権限を与えており、その対象はもっぱら公立・公的病院となると考えられています。地域の中で過剰とみなされる医療機能に転換しようとする自治体病院には、中止を命令することも認められていて、渡辺は「病院側は反論するためのデータを持つことが重要になってくる」こともあわせて強調しました。

 ところで、日本の医療の特徴である「病院数・病床数の多さ」には、医療へのアクセスが確保されるというメリットもありますが、医療の質の担保が難しくなるというデメリットもあると渡辺は説明します。

 米国有数の病院であるメイヨークリニックとGHCが人工膝関節置換術を対象に行った共同研究(n=549病院)では「症例数が少ない病院では合併症発症率が高い」傾向にあることがわかりました(グラフ)。

人工膝関節置換術における症例数と術後合併症の関係

人工膝関節置換術における症例数と術後合併症の関係

 さらに、海外では「年間70症例を確保しなければ、医療の質は担保できない」とされていますが、本分析対象549の病院の中、70症例以上を確保できている病院は10%程度に過ぎないことがわかりました。ここから渡辺は「病院数の多さはアクセスの良さである反面、1施設当たりの症例数がバラけて少なくなり、その結果医療の質に悪い影響を与えている可能性がある。機能分化・連携の次には病院の集約化が待っている。今後は、同地域に多数の病院が類似の患者構成で医療を提供している実態から、いかに病院を集約して1施設あたりの症例数を多くするかが重要。今後、日本では医療の質で競争する時代になる」との見通しを示しました。

自治体病院でも1-2病棟は地域包括ケア病棟の導入で経営好転

 次いで、GHCコンサルタントの八木保が、DPCデータを活用して今後の病院運営戦略を考えるうえでの重要ポイントを整理しました。

GHCコンサルタントの八木保

GHCコンサルタントの八木保

 DPCデータを適切に活用すれば、自病院が提供する医療の内容だけではなく、ほかの病院と比べることで自病院の優れた点や改善すべき点も明確化できます。八木は実際のDPCデータの分析結果をベースに、次のような留意点を挙げました。

●DPCの期間II(診断群分類ごとの平均在院日数)を超える症例の割合は3割未満に抑え、在院日数のコントロールとともに、ベッド稼働率を高めていくことが重要

●救急入院率は病院間で差が大きいが、救急受入体制の差だけでなく、本来は救急医療入院としてカウントできる症例が様式1に正確に記載されていない可能性もあるので、十分なチェックが必要

●「急性期らしい病院」として生き残るために、手術症例をいかに確保するかが重要となる。特に、患者ニーズが高く、単価も高いがんの手術をどの程度行っているかや、整形外科ではどれだけ関節置換術に力を入れているかが手術単価の差となって現れる

●医療の質を高めるためにチーム医療の推進は欠かせない。例えば薬剤管理指導料をパスに導入することなどを目指して、薬剤部と連携することが必要

●「市中肺炎」を例にとると、抗生剤のファーストチョイスの明確化、退院調整加算の算定などをベンチマークして自院の状況を分析する必要がある

 また八木は、今後の急性期医療を考える上で「稼働率を重視すれば、どうしても重症度、医療・看護必要度が下がってしまうため、自治体病院でも機能分化、特に地域包括ケア病棟の導入を検討してはどうか」と述べます。

 具体的には、患者ごとの「重症度、医療・看護必要度」「DPCデータから得られる資源投入量と包括点数」を細かく分析することで、一般病棟から地域包括ケア病棟への適切な転棟タイミングを試算できます。この延長線には「適切な地域包括ケア病棟の病床数」算出も可能で、八木は「簡易シミュレーションでは、どの参加病院も1~2病棟を地域包括ケア病棟に転換し、重症度の低い、急性期後の患者を転棟させることが好ましい」と提言しました。具体的には、2型糖尿病や肺炎など内科系の症例が転棟患者の候補として挙げました。

 実際、ある病院で地域包括ケア病棟を導入(1病棟)し、これら患者の転棟を促進したところ、一般病棟の重症度、医療・看護必要度を満たす患者の割合は0.5ポイント上昇し、1日あたり単価も約4000円増加したといいます。

参加病院は国に対する早期の情報公開等を要望

 この日の会合では、「地域包括ケア病棟の導入」や「病床機能分化」「平均在院日数の短縮」をテーマに、参加者同士で議論しました。

 そこでは、「地域包括ケア病棟にはさまざまな疾病の患者が混在することになる。こうした患者を適切に処遇できるのか懸念する声が院内にある」「既に全病棟で疾病が混在している病院では、地域包括ケア病棟を比較的導入しやすいようだ」「在院日数の短縮が必要なのは理解できるが、稼働率を考慮すると一部の病院以外では経営が困難になるのではないか」といった声が挙がりました。

 また、医療提供の再編をめぐる国の対応には、「地域医療構想を策定する『協議の場』には、病院から誰が出席するのかが明確にされていない。早期に示すべきだ」「自治体病院も非営利ホールディングカンパニー型の新型医療法人に参加できるようだが、その場合は独立行政法人化が要件になるのだろうか。国はその辺りも明確にしてほしい」などの意見が数多く出されました。

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