1加算のみで年間300万円増収、経営改善の風土醸成、日病データ分析システムで事例発表
2017.7.11.(火)
「日本病院会」が6月29日に開催した経営分析システムの勉強会で、事例紹介が行われました(関連記事『「今厳しい病院は3年以内に消える」、経営分析システム勉強会で大道日病副会長』)。日本病院会が提供する経営分析システム「JHAstis」を用いることで救急医療管理加算の算定状況を見直し、年間300万円の増収につながった事例などを紹介。データ分析を各種重要会議で活用することで、役職者の経営に対する意識が変わり、院内に経営改善の風土が醸成されつつある事例などが報告されました。
自病院と他病院のデータを比較
日本病院会が展開する経営分析システムは「JHAstis」(Japan Hospital Association Strategy Tactics Information System=日本病院会戦略情報システム)。2016年度・17年度の重点施策に掲げる「病院の経営支援」を具現化したサービスで、出来高病院に特化した自病院の経営状況を見える化するためのシステムです。
JHAstisに参加すると、(1)主要経営指標の分析や加算取得など経営指南書を毎月配信する「月次レポート」(2)他院とのベンチマーク分析など有益な分析情報を提供する「定期レポート」(3)回復期病棟ならではの切り口でデータ分析する「回復期レポート」(4)同時改定の重要論点と自病院の影響に絞って徹底解説する「臨時レポート」―の4つのレポートを受け取れるとともに、分析を担当するGHCの専門コンサルタントによる講演や、JHAstis参加で経営改善した事例などを学べる「無料勉強会」に参加できます。
救急医療管理加算、最適化3つの取り組み―小林病院
最初に事例紹介を発表した「小林病院」は、神奈川県西地区に位置する163床(一般56床=うち地域包括ケア6床、回復期リハビリテーション47床、療養60床)のケアミックス病院。登壇した小林病院の事務次長兼医事課長の市川信英氏は、救急医療管理加算算定と病棟単価低額解消をテーマに、「現場がどう動いたか」について説明しました。
救急医療管理加算は、濃厚な検査・治療が必要な入院初期の救急患者に対する医療機関の負担を考慮したもので、入院から7日間に限り、加算1では1日につき900点、加算2では同じく300点を算定できます。
加算1を算定できる患者は、▽吐血、喀血または重篤な脱水で全身状態不良の状態▽意識障害または昏睡▽呼吸不全または心不全で重篤な状態▽急性薬物中毒▽ショック▽重篤な代謝障害(肝不全、腎不全、重症糖尿病など)▽広範囲熱傷▽外傷、破傷風などで重篤な状態▽緊急手術、緊急カテーテル治療・検査またはt-PA療法を必要とする状態―に限定され、これらに「準ずる重篤な状態」である患者については加算2を算定します。
JHAstisの加算レポートでは、加算2を多く算定している医療機関に対して「加算1を算定できる患者が隠れていないか」が示されています。しかし小林病院はそもそも救急医療管理加算の算定件数がとても少ないという状況でした。その原因を探った結果、▽算定をすべて医師任せにしていた▽医事課職員が加算の意味を理解していない――の2点が明らかになりました。
そこで、▽「救急医療管理加算指示書」の作成▽医局会で医師への周知▽医事課職員の教育――の3つの取り組みを開始。「救急医療管理加算指示書」を医師に記載してもらい、同時に「救急患者」と判断した「臨床的根拠」を指示書に記載してもらう運用としました。また、医事課職員への教育は特に注力し、医事課サイドから医師へ積極的に「加算算定を逃していませんか」と提言できる環境が醸成されていきました。その結果、2016年度におけるは救急医療管理加算の実績は前年度比1.5倍となり、年間約300万円の収益増に貢献することとなりました。
また病棟単価の低額を解消するための取り組みでは、1日単価のベンチマーク分析の定期レポートを活用。ベンチマーク分析では、全国の同規模病院と1日単価を比較して、改善の余地の有無をデータで知ることができます。小林病院では、整形外科、泌尿器科、リハビリテーション科を除く診療科の単価が他病院と比較して低いことが分かり、この解消に向けて院内で地域包括ケア病床のワーキンググループを立ち上げることになりました。毎月2回のワーキンググループ開催を4か月続けた後に地域包括ケア病床を稼働させたことで、こちらも収益増を達成しています。
主要会議で積極活用、人事評価にも―平病院
続いて発表した「平病院」は岡山県南東部の和気町に位置する90床(一般32床=うち地域包括ケア11床、療養30床、結核28床)のケアミックス病院。講演した事務部長である高取敬修氏は、主にJHAstisの活用の場面、院内にもたらした影響などについて解説しました。
同院では、JHAstisを経営管理会議(月1回、部長以上)、部長会議(月1回、常勤医師、部長以上)、部署運営会議(月1回、各課所属長)など主要な会議で活用しています。主にベンチマーク分析の結果、自病院が現状、どのような立ち位置にあるのかなどを報告しています。例えば、他病院と比較して単価が低い場合は、どのようにして単価を増加させていけばいいのかなどが検討されていきます。
JHAstisの強みの1つである「加算の算定漏れ対策」にも活用しており、小林病院と同様の救急医療管理加算においては、分析の結果、算定漏れが生じていることが発覚。それを医師に報告し、今後、どうすれば算定漏れがないよう診療録に記載できるようになるのか、その記載方法について情報共有しました。
このように、分析レポートで課題が明確になり、他病院とのデータ比較、医師の記載漏れなどが分かってくると、院内全体に経営改善の意識が芽生えてきます。特に、役職者の経営に対する意識が大きく変化し、事務方への質問や提案も増えて、経営改善に対して積極的になってきました。
また、同院では医師を除く役職者の目標面談においてもJHAstisを活用。具体的なデータを用いて、例えば、加算算定に重点を置いた目標設定などをすることで、目標の明確化とその達成によるモチベーションの向上などに役立っているといいます。
さらに、分析業務にかかる時間の大幅削減にも寄与しています。これまでは、各種データを分析するとなると、データをエクセルにダウンロードして加工し、ズレや漏れを補完するというような作業が発生していました。それがJHAstisを用いることで、レセプトデータを送信するだけの処理で済むため、事務負担が飛躍的に減ります。また、改正個人情報保護法の施行で一部個人情報の匿名化などの加工も発生しますが、こうした手間も、JHAstisは同法に対応しているため、特別な対応をせずに済みます。
「日本中の病院が今日、加算取り逃している」
両病院の講演後にあいさつした日本病院会でJHAstisを担当する大道道大副会長は、「日本中の病院が、今日、本来だったら算定できているはずの加算を算定できていない。新たに収益を増やすのは大変な労力を要するが、加算を取り逃さないことで得られる増収は、明日からでもできること」と、JHAstisの積極的な活用を呼びかけました。
JHAstisにご興味がある方は、日本病院会のホームページ(紹介ページはこちら)をご確認ください。