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GemMed塾 看護モニタリング

病院を対象としたヘルスケアリート、医療側は「病院経営への介入」を強く懸念-国交省検討会

2015.2.2.(月)

病院を対象にしたヘルスケアリートに関する議論が大詰めを迎えています。国土交通省が30日に開催した「病院等を対象とするヘルスケアリートの活用に係るガイドライン検討会」には、取りまとめ素案が示されています。

素案では、▽対象施設を「すべての病院」とする▽ガイドラインは原則2015年4月1日から適用する▽資産運用会社は「病院関係者と調整できる」専門的な能力を有する者を配置などする▽医療法などを遵守し、事前に十分な相談を行う-ことなどが盛り込まれましたが、医療関係者の納得は得られていません。

検討会では早期にガイドラインをまとめるための調整を続け、3月中に確定させたい考えです。

1月30日に開催された、第4回「病院等を対象とするヘルスケアリートの活用に係るガイドライン検討委員会」

1月30日に開催された、第4回「病院等を対象とするヘルスケアリートの活用に係るガイドライン検討委員会」

 

ヘルスケアリート活用で、資産調達方法が多様化

ヘルスケアリートは、多くの投資家から募った資金を元に資産運用会社が病院や高齢者住宅などを建設し、それを賃貸・売却することで得た利益を投資家に分配する投資商品のことです。病院側には「資金調達方法の多様化」や、「理事長の連帯保証が不要になる可能性」などのメリットがあると期待されています。

ヘルスケアリートの仕組み、リートが病院開設者に不動産を賃貸し、病院運営は開設者が行う(図は高齢者住宅におけるリートのイメージ)

ヘルスケアリートの仕組み、リートが病院開設者に不動産を賃貸し、病院運営は開設者が行う(図は高齢者住宅におけるリートのイメージ)

政府の成長戦略(日本再興戦略)では、民間資金の活用を図るため、ヘルスケアリートの活用に向け、14年度中に高齢者向け住宅などの取得・運用に関するガイドラインの整備、普及啓発などを行うことを打出しています。国交省では既に14年6月、▽サービス付高齢者向け住宅▽有料老人ホーム▽認知症高齢者グループホーム-を対象とするヘルスケアリートの活用ガイドラインを策定・公表しています。

一方、病院を対象とするヘルスケアリートについては、「高齢者向け住宅は賃貸マンションに近い資産だが、病院は不動産としての評価に加え医療サービスの評価が重要な資産」「病院をヘルスケアリートの対象とすることは、医療法の『非営利原則』に馴染むのか、病院経営に介入がなされるのではないかといった懸念が病院・医療関係者等に根強い」ことから別途検討が進められています。

 

資産運用会社には、病院との調整能力持つ専門家を配置

素案では、「すべての病院」を対象とするヘルスケアリートに、ガイドラインを適用することを打ち出しています。適用時期は、原則として15年4月1日からです。例えばビルの1階に商業施設が、上階に病院があり、ビル全体をリートの対象とする場合には、ガイドラインの適用を受けることになります。

リートを販売する資産運用会社には、「病院の事業特性を十分に理解し、病院関係者と調整を行うことができる専門的な能力を有する者」を配置するなどしなければなりません。専門家には、例えば▽病院不動産への投資・融資・デューデリジェンス(資産価値の適正な評価)などの業務▽病院開設者への融資・デューデリジェンス業務▽病院運営業務-といったキャリアを求めます。

 

医療提供側は、病院経営への介入を危惧

病院を対象とするヘルスケアリートに対して、医療関係者は「不動産賃貸を行う大家であるリートが、新規事業を制限したり事業計画の承認を求めたりする形で、病院経営に介入してくるのではないか」との強い懸念・不安を持っています。

こうした点に配慮し、素案には「病院関係者との信頼関係の構築」や、「医療法などを遵守」することを資産運用会社に求めています。具体的には、次のような取り組みを実践しなければなりません。

(1)病院関係者との信頼関係の構築

(2)医療法などの関連法規・通知の遵守

(3)事前の相談、取得後の対応

(4)不動産鑑定評価の確認

(5)情報の収集と開示

(1)は、資産運用会社が病院関係者に対してリートの仕組みを十分に説明することが重要です。

リートには、▽資金調達方法が多様化する▽長期固定賃料で不動産支出額が安定する▽理事長の連帯保証が不要になる可能性がある▽経営陣が病院経営・運営に集中できる▽計画的な修繕、大規模改修を実施しやすくなる-といったメリットがあります。一方で、▽リートが求める賃料(近隣相場の賃料)と借入金の返済条件次第で、不動産関連費用が多額になる可能性もある▽運営する病院が1つの場合には、担保資産を失う可能性もある-などのデメリットもあり、そうした点をきちんと説明する必要があります。

ヘルスケアリートには「資産運用の多様化」などのメリットもあるが、一定のデメリットもある点には留意が必要

ヘルスケアリートには「資産運用の多様化」などのメリットもあるが、一定のデメリットもある点には留意が必要

(3)の事前相談については、国交省から次の2つの考え方が提示されました。

(A)資産運用会社が「医療法などに抵触するか」不明な点がある場合には、事前に国交省などに相談する

(B)基本的にすべての事項について、事前に国交省などに相談する

(B)案では資産運用会社の負担が大きくなります。このため、複数の委員から「足かせを増やせば、ヘルスケアリートから手を引いてしまう」とし、負担の少ない(A)案を指示する意見が出されました。特に中井恵美子委員(中央生活経済研究所長)は「10年、20年後にはリートは融資と肩を並べるくらい一般的になる可能性がある。民間と民間の取り引きに厳し過ぎるガイドラインを設けるべきではない」と訴えました。

一方、医療提供者である松原謙二委員(日本医師会副会長)は「リート活用に反対はしないが、病院は命を扱う場である。病院側の懸念を払しょくするためにも、事前にあらゆる事項を相談すべきではないだろうか」と強調しています。

両者の意見の隔たりは大きく、調整は難航が予想されています。

また、病院側が懸念する「病院運営への介入」が最も生じやすいのは、病院側が賃借料を滞納するような場合でしょう。当事者間に委ねると「病院運営の介入」が生じやすいため、素案では「正当な理由なく病院開設者から賃料が支払われなくなった場合には、資産運用会社が国交省に遅滞なく通知する」ことを求めています。国交省は都道府県にその旨を連絡し、後に話し合いが行われることになります。

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