医療事故の院内調査、結果の遺族への開示めぐり平行線、調整困難で第三者機関の指定に遅れも
2015.2.25.(水)
医療事故調査制度の10月施行に向けた議論が進んでいます。厚生労働省は25日、報告書の取りまとめを目指して「医療事故調査制度の施行に係る検討会」を開催しましたが、「院内調査の報告書を遺族に開示すべきかどうか」などをめぐり意見が対立し、取りまとめには至りませんでした。山本和彦座長(一橋大学大学院法学研究科教授)と厚労省で、あらためて会合を開くかどうかも含めて調整が行われます。
厚労省は、検討会の報告書をベースに、医療事故調査制度の施行に向けた省令案を作成し、パブリックコメント(意見募集)に掛けます。ただ、2月中の報告書取りまとめは極めて困難で、パブコメに1か月間をかけることを考えると、省令の公布や関係事項の通知は4月以降にずれ込む見通しで、民間の第三者機関である医療事故調査・支援センター(センター)の指定なども遅れることになります。
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医療事故調査制度の大枠は次のように整理できます。
(1)事故が発生した医療機関が、センターに事故を報告し、遺族にも報告する
(2)医療機関は院内調査を行い、結果をセンターに報告し、遺族に説明する
(3)遺族や医療機関が院内調査結果に納得できない場合には、センターに調査を依頼できる
(4)センターは調査結果を遺族と医療機関に報告するとともに、事故事例を集積・分析して再発防止に向けた普及啓発に努める
委員の意見で隔たりが最も大きかったのが、(2)の院内調査の結果(報告書)を遺族に開示すべきかどうかです。
これまでの議論では、遺族に開示することへの大きな反論は出ていません。そのため、厚労省から▽遺族への説明は「口頭」または「書面」もしくは「口頭と書面」の適切な方法で行う▽遺族が納得する形(口頭か書面かなど)で説明するように努めなければならない-といった関係通知のイメージ案が示されました。
しかし、田邉昇委員(中村・平井・田邉法律事務所弁護士)からは、「『納得』という文言からは、事実上の遺族への開示義務があるかに見える」といった強い反対意見が出されました。厚労省や松原謙二委員(日本医師会副会長)らは、「納得」という文言を「希望する」などに改める修文案を再三、提起しましたが、田邉委員の同意は得られませんでした。
院内調査の結果は、法律上は「説明しなければならない」旨のみが規定されており、通知などで「報告書を遺族に開示する義務を規定することはできない」と、厚労省医政局総務課の担当者は説明しています。
この問題に関連して堺常雄委員(日本病院会会長)から「報告書開示」に関するアンケート調査結果が示されました(回答病院数892)。それよると、73.9%の病院は報告書の遺族への開示に賛成しており、83.5%の病院は説明会の開催が必要だと回答しました。これらは、医療現場は遺族との信頼関係の構築に積極的であることを示す結果です。
一方で(2)の院内調査については、▽個人の責任を追及するためではない▽調査項目は「診療録その他」「当事者のヒアリング」「医薬品・医療機器などの確認」「解剖・Ai(死亡時画像診断)」などの中から、医療機関の管理者が必要なものを選択する▽匿名化する▽ヒアリング結果などの内部資料は報告対象に含まれない▽再発防止策の記載は任意とする-ことなどが固まっています。
(4)のセンター調査は、遺族や医療機関からの依頼に基づいて行われます。院内調査が遅い場合には、センター調査と院内調査が並行、ときにはセンター調査が先行することも考えられますが、通常は、院内調査終了後にセンターがその検証を行うことになるでしょう。いずれの場合でも、合理的な範囲内でセンターの調査に医療機関は協力しなければなりません。
センターの調査結果は遺族と医療機関に報告されますが、その報告の中に「院内調査結果が含めるべきかどうか」でも委員の意見は分かれました。厚労省は「含めない」との考え方を示しています。
宮澤潤委員(宮澤潤法律事務所弁護士)や加藤良夫委員(南山大学大学院法務研究科教授・弁護士)らは「センターの調査は院内調査の検証が中心となるので、対象となる院内調査報告書はセンターの調査結果に含まれるべき」と主張。
しかし、田邉委員らは「センター調査結果に院内調査報告書が含まれれば、報告書の遺族開示義務を認めることになる」と反対しています。
なお、これまで意見の対立が大きかった「再発防止策」をセンター調査結果に盛り込むべきかどうかについては、「再発防止策は、個人の責任追及とならないように注意し、当該医療機関の状況および管理者の意見を踏まえた上で記載する」と関係通知に明記することで委員間の了承が得られています。
この日は、そもそも報告しなければならない「医療事故」の範囲をどう考えるかについても確認を行いました。
報告義務のある医療事故は医療法上、▽医療に起因する(または疑われる)▽死亡・死産を予期しなかった-という2重の限定がかけられています。前者の「医療に起因し」という限定から、例えば「火災」や「患者間のトラブル」などによる死亡は報告対象外となります。
後者の限定では、(1)医療提供前に、死亡などが予期されることを説明している(2)医療提供前に、死亡などが予期されることを診療録などに記録している(3)その他、死亡などが予期されていると認められる-のいずれかに該当すれば「予期していた」ものとして報告対象から除かれます。
この点、通知には「一般的な説明ではなく、当該患者個人の臨床経過を踏まえた説明などであること」「適切な説明を行い、患者の理解を得るよう努めること」という注釈が加えられます。
なお(3)は、例えば救急医療などで「記録や説明を事前に行えなかったが、死亡が予期されて当然」というケースが代表的ですが、厚労省の担当者は「予期されたてことをきちんと安全管理委員会などで説明できるかどうか」がポイントになると説明しています。委員からは「具体的に例示すべき」との要望も出されました。