緩和ケアチームによる診療症例、1施設当たり年間50件程度-がん対協の研究班報告
2015.3.6.(金)
がん対策推進基本計画の中間評価に向けた議論が、厚生労働省の「がん対策推進協議会」で進んでいます。評価にあたっては指標が必要となるため、協議会では次の3つの研究班を設置し、評価指標の構築を急いでいます。
(1)がん対策における進捗管理指標の策定と計測システムの確立
(2)がん対策における緩和ケアの評価
(3)がん診療連携拠点病院におけるがん疼痛緩和に対する取り組みの評価と改善
5日に開かれた協議会には、各研究班から状況報告が行われました。(2)の緩和ケアに関しては、▽医療用麻薬の使用量は増加していない▽拠点病院における緩和ケアチームの診療症例は、1施設当たり年に平均50件程度である▽緩和ケアに従事する割合が50%を超えるがん看護専門看護師は6割弱である-ことなどが明らかになっています。
(2)の緩和ケアに関する研究班では、▽緩和ケアの指標策定▽指標データの収集▽緩和ケア提供体制の変化に関する質的・量的な検討-を行っています。
緩和ケアの指標としては、▽死亡場所▽医療用麻薬の消費量▽専門的緩和ケアサービスの利用状況▽専門・認定看護師の専門分野への配置▽緩和ケア研修修了医師数▽一般市民の認識▽がん患者の疼痛▽地域多職種カンファレンスの開催状況▽終末期がん患者の療養場所の選択-などが決まっています。
この日は、研究班の代表者である加藤雅志参考人(国立がん研究センターがん対策情報センター・がん医療支援研究部長)から、上記の指標に沿ったデータ収集状況が報告されています。
それによると、2013年の医療用麻薬使用量は、▽モルヒネ・オキシコドン・フェンタニルは、モルヒネ換算で約523万グラム▽フェンタニル注射液は、モルヒネ換算で31万グラム-となっています。後者のフェンタニル注射液の使用量は08年に比べて2倍近く増えていますが、前者は08年に比べて1.3倍程度の増加にとどまっており、加藤参考人は「医療用麻薬の使用量は横ばい」と評しています。
また、緩和ケアチームの新規診療症例数は、13年には計2万2107症例だったことが分かりました。がん診療連携拠点病院は全国に407施設あるので、加藤参考人は「1施設平均で年間50件程度にとどまっており、まだ少ない状況だ」とコメントしています。
さらに、緩和ケアへの従事割合が業務全体の半分以上である「がん看護専門看護師」は56.0%、同じく「緩和ケア認定看護師」は62.4%、「がん性疼痛認定看護師」は50.3%であることも分かりました。この数値が高いか低いかは、今後の継続した調査と協議会での議論に委ねられました。
また、拠点病院において「地域の他施設が参加する多職種連携カンファレンス」については、14年に1828回開かれています。1施設平均で年間4-5回の開催にとどまっており、加藤参考人は「より多く開催することが望ましい」と述べました。
(3)の疼痛緩和に関しては、「痛みの評価が可能か」「病院間でのオピオイド使用量の差の要因を明らかにできるか」などが研究されています。
研究班の代表者である細川豊史委員(京都府立医科大学疼痛・緩和医療学講座教授)は、前者の「痛みの評価」について、▽痛みの強さをNRS(Numeric Rating Scale)で測る▽痛みの及ぼす生活への支障をNRSで測る▽痛みに対する医療者の対応をPOS(Palliative Outcome Scale)で測る▽看護師から見た痛みの度合いをPOSで測る-ことによって実現可能となる、との考えを示しています。ただし、「調査を行う看護師を一定期間確保する」ことが条件となります。
また、モルヒネやフェンタニルなどオピオイドの使用量には病院間で大きな差があり、「多い病院では、少ない病院の3-4倍使用する」ことが分かりました。この要因としては「疼痛管理体制」「緩和ケア体制」が考えられ、「オピオイド使用量が疼痛管理や緩和ケアの質を測定する指標となるのではないか」との仮説が立てられました。
しかしオピオイド使用量の少ない病院に対するヒアリングでは、▽オピオイド以外の鎮痛方法も行っている▽痛みのある患者が少ない-ことなども明らかになっており、細川委員は「オピオイド使用量は、疼痛緩和など医療の質を図る指標とすることは難しいのではないか」との見解を述べています。
なお、細川委員は「痛みの緩和に放射線治療が有効であることを認識している医療者は少ない」と指摘。さらに中川恵一委員(東京大学医学部附属病院放射線科准教授)は「緩和ケア病棟入院料では放射線治療の診療報酬が包括化されており、放射線治療が行いにくい状況だ。改善すべき」と要望しました。
ところで、(1)の進捗管理指標の策定研究では、「患者体験調査」を実施しています。既存の調査データでは明らかにならない▽医療の進歩を実感できるか▽自分らしく日常生活を送れているか▽個々のニーズに配慮され、尊厳が保たれているのか-などを、がん患者自身にアンケート調査するものです。
研究代表者の若尾文彦参考人(国立がん研究センターがん対策情報センター長)は、147の病院に調査協力を依頼しましたが、断られたケースもあります。その中には都道府県がん診療連携拠点病院となっている10の大学病院が含まれることも明らかにされ、委員からは「協力を拒むような病院が拠点病院に指定されてよいのだろうか」との意見が多数出されています。