ベンチマーク結果を活用し加算算定大幅増も、初のユーザー討論会実施―日病がJHAstis勉強会を開催
2019.2.18.(月)
日本病院会は1月22日、出来高算定病院向け経営分析システム「JHAstis(ジャスティス)」の勉強会を開催しました。JHAstisユーザーからの経営改善事例では、他病院のデータと比較するベンチマーク分析の結果を活用することで、薬剤管理指導料の算定件数が7.5倍へ大幅上昇した事例などを紹介。「働き方改革」をテーマにグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)のコンサルタントが講演したほか、初の試みとして、JHAstisユーザー間でのグループディスカッションを実施しました。
薬剤管理指導料、算定件数7.5倍
JHAstisは、出来高算定病院が重要な経営判断を行う際に活用できる経営分析レポートです。JHAstisユーザーは、専用ソフトを用いて患者情報を匿名化したレセプトデータを日本病院会へ提供するだけで、(1)自病院の各種経営データの分析(2)他病院とのベンチマーク分析(3)自病院と他病院のデータを確認しながら活用できる各種加算・指導料の算定マニュアル--など5つのレポートを受け取ることができます。
- 月次レポート:主要経営指標の分析や加算取得など経営指南書を毎月配信
- 定期レポート:他院とのベンチマーク分析など有益な分析情報を提供
- 回復期レポート:回復期病棟ならではの切り口でデータ分析
- 経年比較レポート:病院長などの代表者に向けて半期ごと変化をレポート
- 臨時レポート:診療報酬改定の重要論点と自病院の影響に絞って徹底解説
勉強会の事例紹介では、加納岩総合病院(山梨市、160床:一般120床、地域包括ケア40床)の鶴田信一氏(事務部システム課課長兼医事課課長)と福井厚生病院(福井市、199床:一般82床、地域包括ケア43床、回復期リハビリ33床、精神41床)の金森貴範氏(事務部長補佐兼庶務課課長)が登壇。JHAstisユーザーが各種レポートを具体的にどう活用しているのかを紹介しました。
加納岩総合病院では定期的にJHAstisの各種レポートを院長、副院長、各部門長が活用。鶴田氏は、JHAstisについて「各経営指標が見やすく、理解しやすくまとめられている。ベンチマーク分析の結果で他病院と比較した上で自病院の現状を把握できる。加算算定に関する留意点や対策もまとめられているため非常に有益」と評価。その上で、ベンチマーク分析結果を活用して、大きな改善を収めた薬剤課などでの取り組みを紹介しました。
薬剤課は、ベンチマーク分析結果を基準に、薬剤管理指導料の算定件数の数値目標を週25件に設定。目標達成に向けた対策を関係部署間で協議し、薬剤管理指導料の算定漏れ防止の施策を進めました。例えば、入院診療計画書へ「入院薬剤管理指導依頼」の項目を追加し、全患者を対象とすることで、薬剤師が能動的に関与できる環境を整えました。院内医薬品情報の共有化などチーム医療強化へ向けての取り組みなども進めた結果、2017年度は前年度と比較して、薬剤管理指導料の月間平均算定件数は7.5倍の150件になりました。
さらには、薬剤師などから医師へ算定件数をさらに増加させるため積極的な提案がされるようになり、「院内に経営改善の風土が根付いてきた」(鶴田氏)とのことです(日本病院会のホームページに掲載されている事例紹介の詳細はこちら)。
福井厚生病院でも定期的に、院内の幹部(理事長、院長、副院長、看護部長、事務部長)がJHAstisの各種レポートを確認しています。同院では、理事長が議長を務める法人運営幹事会(毎月最終火曜日開催)、院長が議長の法人連絡協議会(毎月第1木曜日開催)、医局会(毎月第4金曜日開催)の3つの重要会議で各種レポートを利用。関係部署へのヒアリングなど院内の改善活動を推進するきっかけとして活用しています。
同院でもベンチマーク分析の結果を重視。レポートでは毎月、入退院支援加算や後発医薬品使用体制加算、リハビリテーション総合計画評価料など各種加算・指導料のテーマを決めて、それぞれの施設基準や算定要件を確認するほか、他病院とのベンチマーク分析の結果を掲載しています。金森氏は、「ベンチマーク分析の結果を毎月、注視している。他病院の状況と比較できるところが、JHAstisのレポートにおける一番の利用価値なのではないか」と評価しました(日本病院会のホームページに掲載されている事例紹介の詳細はこちら)。
「経営にズボラな病院は消える」
勉強会の冒頭に挨拶した日本病院会でJHAstisを統括する大道道大副会長は、「多くの病院が増収減益に苦しむ今、生産性を高めることが今後の病院経営に欠かせない」と指摘。その上で、「取れる加算も取れていないズボラな経営をしている病院は今後、消えるだろう」と警鐘を鳴らしました。
2月18日付の「日経メディカルオンライン」では、JHAstisに言及した大道副会長のインタビュー記事が掲載されています(掲載記事『医療需要の急減に備え、データに基づく経営判断を』)。15日付の同サイトでは相澤孝夫会長のインタビュー記事も掲載されました(掲載記事『2040年に必要な病院の数は今の半分、4000ぐらいで足りる』)。
講演では、GHCマネジャーの冨吉則行とコンサルタントの太田衛が登壇。冨吉は「データで乗り越える医療界における働き方改革」と題して、生産性を向上するための論点を整理しました。
働き方改革では、勤務医についても罰則付きの時間外労働規制が行われる、またそもそも勤務医の健康を確保するために、労働時間の短縮に向けた取り組みを各病院で進めることが求められます。ただし、医師の業務は膨大であり、かつ他職種へのタスク・シフティングには限界もあるため、労働時間を短縮するためには「生産性の向上」が不可欠なのです。
生産性の向上にあたっては、(1)職員1人あたり収益を増やす(2)患者1人あたりコストを減らす―――の2つの視点が重要です。この2つの視点を各職種に当てはめ、それぞれ具体的にどのようなアクションを取ればいいのかを解説しました。
太田は「実効性ある中長期経営戦略―JHAstisレポートの活用―」と題して、戦略立案の手順と実効性ある分析レポートの活用方法を解説しました。マーケティング手法である「SWOT分析」などを自院の経営に、どのように当てはめて戦略を立案すればいいのか、その具体例を提示。太田は「戦略立案だけで各部門の行動変容を期待することはできない。戦略をしっかりと各部門のKPI(数値目標)に変換し、具体的な日常業務にまで落とし込まなければ、現場の実行は促せない」と強調しました。
初のユーザー討論会を実施
JHAstisユーザー同士のグループディスカッションでは、集患対策、職員の生産性向上、加算算定率の向上――などをテーマに議論。実際のJHAstisレポートを持ち寄り、テーマに応じて自病院の状況はどうか、またその要因はどこにあるのか、などを確認し合い、意見交換を重ねました。