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2017年度、ついに「介護費10兆円時代」に突入、地域密着型の利活用さらに活発に―厚労省

2019.9.2.(月)

 2017年度の介護費(高額介護サービス等を含む)は10兆2188億円で、ついに「介護費10兆円時代」を迎えた。サービスの区分別に介護費(給付費)の伸び率を見ると▼居宅:0.9%増▼地域密着:7.8%増▼施設:2.1%増—という状況となり、地域密着型サービスの利活用がさらに進んでいる状況を確認できる―。

 このような状況が、厚生労働省が8月30日に公表した2017年度の「介護保険事業状況報告(年報)」から明らかになりました(厚労省のサイトはこちら(ポイント)こちら(概要)こちら(全国計))(前年度の記事はこちら)。

介護費は前年度比2.5%増、ついに「介護費10兆円時代」を迎える

 高齢化が進展する中では、社会保障費の中でも「介護費の増加」がとくに大きくなります(もちろん、医療や年金の費用も増加しますが、医療分野ではさまざまな適正化方策が図られ、年金制度ではマクロ経済スライド(現役世代の負担が過重にならないように、年金額の伸びを抑えることでバランスをとる仕組み)が導入されている)。2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となるため、今後、医療・介護ニーズが急速に増加していきます。その後、2040年にかけて高齢者人口の増加の度合いそのものは鈍化しますが、高齢者を支える生産年齢人口が急激に減少していくため、介護保険財政が厳しくなっていきます。

このため、介護保険制度改革の一環として「給付の重点化(重度者に手厚い給付を行う)」や「軽度者における他制度の活用(要支援者に対する訪問・通所介護を介護保険給付から市町村の実施する地域支援事業への移管)」などが行われており、今後も、その動向に注目が集まります(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちらこちら)。

 そうした中で2017年度の介護費用を見てみると、9兆9023億円(前年度に比べて、2412億円・2.5%増加)、利用者負担を除いた給付費は8兆8868億円(同2151億円・2.5%増加)となりました。高額介護サービス費、高額医療合算介護サービス費、特定入所者介護サービス費を含む介護費用は10兆2188億円(同2285億円・2.3%増)となっています。

 
 また介護保険制度がスタートした2000年度には、介護費は3兆6273億円であったことから、17年間で2.7倍に増加し、ついに「介護費10兆円時代」を迎えています。

地域密着型サービスの給付費、前年度比7.8%増

 介護保険給付費の内訳を見ると、居宅介護(予防)サービスが4兆4922億円(前年度比408億円・0.9%増)、地域密着型介護(予防)サービスが1兆4784億円(同1148億円・7.8%増)、施設介護サービスが2兆9162億円(同606億円・2.1%増)という状況です。

 地域密着型介護(予防)サービスは前年度(2016年度)には「2015年度の介護保険制度改正で特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)の新規入所者を原則『要介護3以上』としたため、施設サービスから小規模多機能型居宅介護などへの利用者の移行が進んだ」ことから35%近い大幅増となりました。2017年度にはここまでの増加こそありませんが、7.8%と大きく伸びており、「施設サービスや居宅サービスからの移行」などが進んでいる可能性があります。地域包括ケアシステムの構築が進められる中で、複合的なサービスを提供する地域密着型サービスの期待は今後も高まるものと考えられそうです。

要介護認定率、最低は埼玉の14.6%、最高は和歌山の21.8%で1.5倍の格差

 介護費増加する要因は、大きく(1)利用者の増加(2)1人当たり介護費用の増加―の2項目に分解できます。

 (1)の利用者数は、さらに「高齢者数」と「要介護認定の状況」に分解できます。前者の「高齢者数」増加を抑えることは困難であり(「介護保険制度改正で第1号被保険者を75歳以上に引き上げる」などすれば可能だが)、後者の「要介護認定」の状況を見てみましょう。

 介護保険サービスを受けるには、市町村で「要介護・要支援状態である」と判定されることが必要です(要介護・要支援認定)。認定者数は、2017年度末には641万人(前年度に比べて9万人・1.4%増)で、要介護度別の構成比は、▼要介護5:9.3%(同0.2ポイント減)▼要介護4:12.2%(同0.1ポイント増)▼要介護3:13.3%(同0.1ポイント増)▼要介護2:17.5%(同増減なし)▼要介護1:20.2%(同0.3ポイント増)▼要支援2:13.7%(同増減なし)▼要支援1:13.7%増(同0.4ポイント減)―となりました。前年度に続き、要介護1-4の「中間層」が増加しています。第1号被保険者(65歳以上、2017年度末時点で3488万人)のうち要介護・要支援と判定された人(641万人)の割合は18.0%となっています(前年度から増減なし)。

 
都道府県別にこの要介護認定率を見ると、最高は和歌山県の21.8%(前年度から0.4ポイント低下)、逆に最低は埼玉県の14.6%(同0.2ポイント上昇)です。

  
 こうした都道府県別の「要介護認定率のバラつき」について、政府は「改善の余地がある」と考えています。単純に「要介護認定率が高い=悪い」と考えることはできませんが、都道府県別に1.5倍の差があることについて、完全に合理的な説明を行うことは難しそうです。このため厚労省は2018年度より「自立支援・重度化防止に実際に取り組み、成果も出す市町村により多くの補助金(保険者機能推進交付金、いわゆるインセンティブ交付金)を交付する」仕組みを新設しており、今後、認定率の格差は縮小していくものと見込まれます(関連記事はこちらこちらこちら)。

1人当たり介護費は3.3%の増加、地域差は依然1.5倍

 介護費用の増加につながるもう1つの要素が(2)の「1人当たり介護費用の増加」です。2017年度の「1人当たり介護給付費」(第1号被保険者、高額介護サービス等などを含む)は25万4800円で、前年度に比べて2800円・1.1%増加しました。内訳を見ると、▼居宅サービス:12万9000円(前年度から増減なし)▼地域密着型サービス:4万2000円(同5.0%増)▼施設サービス:8万4000円(同1.2%増)―となりました。介護費全体と類似した動きを示しています。

 さらに1人当たり介護給付費を都道府県別に見ると、最高は島根県の31万2700円、最低は埼玉県の20万4400円で、やはり1.5倍の格差があります。この点、「介護保険施設の整っていない地域では、療養病床などが機能補填をしている」などの状況もあり、単純に「1人当たり介護費が高い=介護費に無駄がある」などと判断することはできませんが、政府は「1人当たり介護費の『不合理な地域差』縮小」を目指す方向を示しています。今後の動向に注目する必要があります。

 
 なお、1人当たり介護給付費について、都道府県別に「施設サービスが高い地域」と「居宅・地域密着型サービスが高い地域」とを見てみると、前者としては新潟県・鳥取県などが、後者としては大阪府などが目立ちます。人口密集地域では居宅サービス等が効率的に行えますが、そうでない地域では移動(送迎など)に時間がかかり「施設サービスのほうが効果的かつ効率的」な場面もあることから、地域の特性を踏まえたサービス提供体制を整備・充実していくことが必要です

 

サービス受給者、地域密着は前年度に比べて8.3%増加

 ところで要介護認定を受けても、すべての人が介護保険サービスを利用するわけではありません。実際にサービスを利用している人(受給者数)を見ると、2017年度の累計では、▼居宅介護(予防)サービス:4518万人(前年度比べて173万人・3.7%減)▼地域密着型(予防)サービス:1001万人(同77万人・8.3%増)▼施設サービス:1116万人(同8万人・0.7%増)—となりました。居宅サービス受給者の減少は、要支援1・2について訪問・通所サービスを市町村の総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業)へ移管している(2018年度から全面移管)ことによるものです。


 
 ここでも「施設から地域密着への大幅シフト」が進んでいることが最確認できます。前述したとおり「要介護1・2」では、特別養護老人ホームに新規入所することが難しくなっており、その分、地域密着型サービスの利活用が進んでいることが伺えます。

 

 

 

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