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GemMed塾 2024年度版ぽんすけリリース

がん診療連携拠点病院でも診療内容に大きなバラつき、パス見直しなど検討を―第14回CQI研究会(1)

2019.9.3.(火)

 がん医療の内容をベンチマークすると、同じがん診療連携拠点病院でも、相当のバラつきのあることが分かる。自院と他院とを比較し、パスの見直しなどを検討していく必要がある―。

 8月24日に第14回「CQI研究会」(Cancer Quality Initiative研究会、代表世話人:望月泉:八幡平市病院事業管理者・岩手県立病院名誉院長)が開催され、こういった議論が行われました。

「指導管理に係る増収」と「スタッフ確保に伴うコスト」とのバランスを検討する必要も

 CQI研究会は、全国から100を超えるがん拠点病院などが集い、自院のデータを持ち寄って比較分析することで、がん医療の質向上を目指している研究会です(2007年設立)。グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)では、DPCデータに基づく診療内容・実績の分析を担当しています(関連記事はこちら)。

 現在は2年に一度、全国の会員病院が集い、病院の実名を出したうえで各病院のがん診療実績を比較し、医療の質向上を目指した研究を行います。中間年には、会員サイトをベースに治療内容・診療実績のベンチマーク分析を行い、各病院で医療の質向上に向けた取り組みを行います。

本年(2019年)は2年に一度の研究会が開かれ、厚生労働省の指定するがん診療連携指定病院を中心に、120施設・215名が参加。がん診療連携拠点病院に限れば、全体の25%がCQI研究会に参加しています。

この日は、望月代表世話人が「結腸がん」をテーマに、がん医療・経営の質向上に向けた分析とポイント解説を実施。さらに厚生労働省健康局がん・疾病対策課の丸山慧・がん対策推進官が登壇し、「がん対策と医療の質の確保」に関する特別講演を行いました。

本稿では、まず望月代表世話人による「がん医療・経営の質向上に向けた分析」について見てみましょう。丸山がん対策推進官の特別講演の模様は別稿でお伝えします。

8月24日に開催された第14回CQI研究会で、結腸がんについてベンチ―分析・解説を行った望月泉代表世話人(八幡平市病院事業管理者・岩手県立病院名誉院長)

 
GHCが開発した「CQI研究会」の会員サイト(分析ツール)では、▼がんの種類▼術式(診療報酬点数表のKコード)―を選択(複数選択可能)し、自院の診療内容を、他のがん診療連携拠点病院等(会員病院)と詳しくベンチマークすることが可能です。同じがん診療連携拠点病院であっても、診療内容に大きなバラつきのあることが分かり、例えば「自院のパスが適正なものか見直してみる」など、診療の改善に向けた重要なヒントを得ることができます。

結腸がん(MDC上6桁コード:060035)について、K719-3【腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術】およびK719【結腸切除術】の3「全切除、亜全切除又は悪性腫瘍手術」を実施した症例について見てみると、在院日数は大きなバラつきのあることが分かります。記事内での図表では世話人病院のみ実名を公表し、他の会員病院名はブルーのマスクをかけています(会員病院は全病院の状況を確認でき、自院の立ち位置を正確に把握することができます)。

例えば、当該症例の在院日数は、平均16.8日ですが、最も短い病院(A病院)では9.8日、最も長い病院(X病院)では26.9日と、3倍近い開きがあります。

 
また術後日数(平均12.0日)も在院日数と同様で、在院日数の最も短い病院(A病院)が6.0日で最も短く、逆に在院日数の最も長い病院(X病院)で19.4日と最も長くなっています。

 
一方、1日単価は、在院日数と反比例し、在院日数の最も短い病院(A病院)は13万8200円と最も高く、最も在院日数の長い(X病院)は6万3043円となりました。2倍超の開きがあります。望月代表世話人は「在院日数の短縮により、資源投入が圧縮され、1日単価が高くなる傾向にある」ことを確認しています。


 
この点、在院日数の比較的長い病院からは「パスを見直す必要性を痛感した」との声が出ています。

 
 
診療内容の質を見る際には、「メディカルスタッフがどれだけ関与しているか」も極めて重要です。様々な角度での指導管理が医療の質向上につながることはもちろん、診療報酬上の加算算定にも関係し、「経営」の質を向上させる重要な要素と言えるためです。

例えば、結腸がん(MDC上6桁コード:060035)について、K719-3【腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術】実施症例を見ると、栄養指導・薬剤指導・入退院支援などについて、算定対象患者のすべてで実施している病院がある一方で、全く実施されていない病院も少なくありません。

 
この点、病院によっては「スタッフの確保が難しい」という事情もあるようです。CQI研究会世話人の1人である神奈川県立がんセンターの中山治彦総長(兼、病院管理者)は、「当院では栄養指導の実施率が100%であるが、その分、管理栄養士確保に苦慮している。経営面を考慮したとき、加算算定による増収と、スタッフ確保に係るコストとのバランスを十分に考慮する必要がある」と指摘しています。

また、同じ症例について、肺血栓塞栓予防指導の状況を見ると、ほとんどの病院では実施率が100%となっていますが、一部の病院では「診療報酬(B001-6【肺血栓塞栓症予防管理料】)の算定率が低い」ことも分かりました。この点、望月代表世話人は「この症例で、弾性ストッキングやフットポンプを用いた塞栓予防を実施していないケースは考えにくい。診療報酬の算定漏れなどの可能性も検討する必要がある」と注意喚起しています。

 
 さらに、術後のリハビリテーション実施状況を見ると、都道府県立のがんセンターで実施率が芳しくない状況が浮かんできました。この点、「整形外科なども抱える総合病院ではリハビリ専門職(PT、OT、ST)を比較的多くの人数擁しているが、がんセンターではそこまでのリハビリ専門職を配置しておらず、結腸がん・腹腔鏡手術症例にまでリハビリスタッフを回せない(食道がんや頭頚部がんで手一杯になってしまう)」という声が研究会参加者から出ています。がん医療においても早期のリハビリテーション実施が重要であり、「がんセンターへのリハビリスタッフ配置の促進」に向けた方策を検討する必要が出てくるかもしれません。

 
 
 CQI研究会には、国(厚生労働省)の指定するがん診療連携拠点病院等(都道府県がん診療連携拠点病院、地域がん診療連携拠点病院、国立がん研究センター、特定領域がん診療連携拠点病院、地域がん診療病院)、都道府県の指定するがん診療病院、その他、がん医療に力を入れる病院が参加できます。参加病院では、診療データ(DPCデータ)を提出することで、自院と他院の診療内容をベンチマークし、「医療の質向上、経営の質向上」に向けた取り組みにつなげることが可能です。是非、積極的な参加をご検討ください。

●CQI研究会に関する情報はこちら

 

 

 

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