運営会社 GLOBAL HEALTH CONSULTING

コンサルが伝授 看護記録の無駄・ムラ解消術

2014.9.3.(水)

 入院患者のケアに巡回、重症度の評価…そして看護記録。ただでさえ過酷な業務なのに、病棟で勤務する看護師に看護記録の負担がのしかかる。医療訴訟など、いざという時の後ろ盾になるだけに、記録にはできるだけたくさんの情報を盛り込みたいけど、看護師の業務負担を和らげるには、記録の簡素化はぜひとも取り組みたい大切な課題だ。業務改善の糸口はどこに?

サマリーなのに原稿用紙数枚

 「看護師の離職が止まらない」と嘆く病院は多い。この背景にはさまざまな要因があるとみられるが、一つには、スタッフの限界を超えて膨らむ業務負担がある。GHCがコンサルティングを行う病院にも、看護師の早期離職に悩むケースは多い。

 実際の業務量はどうなのか、こうした病院の一つをGHCが調査すると、一日の業務ごとの延べ投入時間は、「観察・測定・巡視」「情報伝達」を押さえ、「記録」が最多になった。中には、点滴の様子まで詳細に記録したり、ケアのときにメモした内容を後から入力したりして、1日当たり2時間半を記録作成に費やす看護師もいた。3交替制での勤務時間を1日8時間とすると、そのうちの実に3割以上を割いていることになる。実際は残業時間に記録することが多い。

 看護師の離職を食い止められるかどうかは、病院への診療報酬に直結する。それだけに、離職の引き金になるリスクがある記録業務の負担をどう和らげるかは、多くの病院にとって大切なテーマだ。

 GHCがある病院を調査した結果では、スタッフ同士の情報共有などに活用する「看護記録」や「看護サマリー」の作成が、記録業務の中でも大きな負担になっていた。このうちサマリーには本来、継続的な看護が必要な患者や、患者が退院・転院するときなどに注意事項を簡潔に記録する。しかし実際には、原稿用紙数枚分の分量を書き込んだり、ほかの記録と内容が重複していたりするケースも多いのだ。

 勤務時間内にこなし切れなかった記録を仕上げるため、こうした病院では看護師が残業を繰り返す状況に陥りがちだ。残業を含む労働時間が1日10時間程度に膨らむケースも少なくない。やがては業務負担に嫌気がさした看護師の離職につながりかねない。

 記録の効率化が進まない背景には、医療訴訟リスクへの懸念があるとされる。看護記録や医師の診療記録といった「診療録」は、不幸にして医療訴訟が起きたときに有力な証拠になる。ここで必要な記録を残していなければ、いざというときに自分たちの主張をしっかりと展開できない。

 もう一つ、介護事業者やほかの医療機関など、連携先からのクレームも大きな要素だ。「知りたい内容が記録されていない」といった連携先の担当者の一言をきっかけに、記録の中身が膨らむケースも多い。トラブルになった時に必要な内容や、連携先が何を知りたがっているのかが不明確なため、なんでもかんでもとりあえず書き込むことになる、という構図だ。

業務改善のポイントは分かりやすい記録

 記録作成の負担はどうすれば和らげられるのか。近年では、「ペアナーシング」や「パートナーシップナーシング」と呼ばれる仕組みを取り入れる病院も増えている。一般的なのは、2人一組の看護師が情報を共有して2人分の担当患者をケアする形で、1人だと見逃しがちな思い込みによるミスの防止を見込める点が大きなメリットだ。記録業務の観点では、ケアの内容など必要事項をその場ですぐ記録できるようになり、記録漏れ防止だけでなく負担を和らげる効果を期待できる。

 ただ、こうしたケアシステムの導入には投資を伴うため、対応が難しければ現体制での対応が基本になる。ポイントは、記録内容と記録の付け方の見直しだ。まずは、ほかの人が見て分かりやすい記録を心掛けることが業務改善にも早道という。
2014.9.4病院現場をウォッチ 表2
 看護師として急性期病院としての業務経験もあるGHCの梁取萌コンサルタントは、「記録に長い時間をかけている看護師の記述は、叙情的な作文のようなものが多い」と話している。表現が叙情的だと記録の分量が増えるだけでなく、現場で共有すべき肝心の記録が埋もれてしまい、どこに何が書かれているのか、見つけ出すのも一苦労だ。情報を共有するには膨大な書類に一通り目を通すしかなく、これが新たな業務負担の増加につながる。

 これに対して記録が早い看護師は、記述を短文にまとめたり、必要なことを箇条書きにしたりしていることが多い。これなら本当に共有すべき情報を一目で把握でき、記録業務の効率化にもつながる。つまり、必要なことだけを正確に、簡潔に記載するのが記録業務のポイントだ。そのためには、パソコンやタブレット端末をケアの際に携帯し、そのつど記録していくのが理想だ。これが難しいなら、「逐次記録」が可能なものにだけでも対応して、勤務時間内に記録業務をカバーできるようにする。

 内容面では、例えば電子カルテに入力済みのデータはほかの記録に盛り込まないようにすれば、文章量も業務量も大幅に圧縮できる。梁取コンサルタントは、「看護師を本来業務に集中させるためにも、看護サマリーなら500文字以内に収め、勤務一回当たりの記録業務を1時間以内に終わらせるのが目安という。大量の記録を書き込めないようにフォーマット自体を見直して、業務を標準化するのも有効だ。

入院サポートセンター開設支援プログラム

解説を担当したコンサルタント 簗取 萌(やなとり・もえ)

yanatori 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルタント。看護師、経営学修士(MBA)。
国立看護大学校看護学科卒業。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。ナショナルセンター集中治療室の勤務を経て、MBA取得後現職。DPC環境下における病院戦略、クリニカルパス、看護必要度等データに基づいた実証的分析、クリティカルケア領域の経験を踏まえた実践的な分析などを得意とする。名古屋第一赤十字病院など多数の医療機関のコンサルティングを行う。「AERA」などの雑誌(掲載報告はこちら)、新聞への取材協力多数。「月刊ナースマネジャー」にて「一歩先を行く! 師長のための医療看護トレンドナビ」好評連載中。