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がん対策基本計画の中間評価まとまる、「死亡率20%減」は達成できず―がん対策推進協議会

2015.6.11.(木)

 厚生労働省のがん対策推進協議会が10日、第2期がん対策推進基本計画の「中間評価」報告書を大枠で取りまとめました。一部修正を加え、近く厚労省ホームページで公開される予定です。

 最大の目標である「がんの死亡率20%減」は達成できない見込みですが、継続して死亡率の変化を把握することになっています。また、がん医療や医薬品・医療機器の開発など、推進している分野も少なくありません。中間評価の結果は、第3期のがん対策推進基本計画に反映されます。

6月10日に開催された、「第51回 がん対策推進協議会」

6月10日に開催された、「第51回 がん対策推進協議会」

死亡率が増加しているがん種などに重点対策

 国のがん対策は、おおむね5年間を計画期間とする「がん対策推進基本計画」に沿って進められています。現在は2012-16年を対象とした第2期基本計画に基づいた施策が動いており、計画の進捗展状況を評価し(中間評価)、第3期の基本計画に評価結果を反映させることになります。

 中間評価は、(1)全体目標についての進捗状況(2)重点的に取り組むべき課題(3)分野別施策(4)がん対策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項―の4本柱に沿って、目標の進展捗状況や、今後さらに推進が必要な事項などがまとめられています。

 (1)の全体目標は次の3項目です。

▽75歳未満の、がんの年齢調整死亡率を20%減少させる

▽すべてのがん患者とその家族の苦痛の軽減と、療養生活の質を維持向上させる

▽がんになっても安心して暮らせる社会を構築する。

 このうち「がんの年齢調整死亡率20%減少」については、国立がん研究センターから「死亡率減少は17%程度にとどまり、目標達成は困難」との分析結果が示されています。その理由は、「喫煙率半減」「がん検診受診率50%」が達成できない点にあると考えられています。

 ただし、基本計画の目標値は「15年までの10年間で死亡率を20%減少させる」というものですが、「基本計画に基づく総合的ながん対策がスタートした07年を起点に考えてはどうか」との指摘もあり、中間評価では「07年から17年までの10年間の死亡率の変化」もあわせて検証する必要があるとしています。

 がん種(部位)別に死亡率が異なる動きをしていることも分かっており(関連記事はこちら)、中間評価は▽死亡率が増加傾向にあるがん種(例えば子宮頸がん)▽減少傾向が緩徐ながん種(例えば乳がん)―に重点的な施策を推進することが重要とも指摘しました。

妊孕性温存処置の情報提供、拠点病院でも4割に満たず

 (2)の「重点的に取り組むべき課題」として、基本計画は▽がん医療▽相談支援と情報提供▽がん登録▽予防▽早期発見▽小児がん▽教育・普及啓発▽がん患者の就労を含めた社会的問題―といった個別分野の目標を設定しました。

 このうち「がん医療」については、まず、がん診療連携拠点病院(拠点病院)のすべてにチーム医療体制を整備するという目標が設定されました。その進捗展状況を見ると、多職種参加のキャンサーボード設置割合は99.8%、緩和ケアチームや臓器横断的な専門チームの設置割合は99.0%などとなっており、おおむね目標を達成できていると言えそうです。

 しかし、「妊孕性温存処置」(精子保存や卵巣組織凍結など、治療後に妊娠できる処置が行えること)の情報提供を受けた40歳未満のがん患者は38.1%しかいないなど、患者のがん医療に対する満足度は必ずしも十分とは言えません。治療成績に加えて、患者のQOLも向上させる方策を推進する必要がありそうです。

 このほか「がん医療」に関しては、診療ガイドラインの整備、手術療法、放射線療法、化学療法の質の向上、地域での医療連携などを総合的に進め、「安心で安全な質の高いがん医療を提供する」という目標も掲げられています。これらの進捗は次のような状況です。

▽診療ガイドラインは30種類、患者用の診療ガイドラインは6種類を作成(14年11月時点)

▽標準的治療の実施割合は、「大腸がん術後化学療法」49.6%、「胃がん術後化学療法」68.2%、「乳房温存術後全乳房照射」72.1%、「乳房切除後高リスク症例放射線療法」33.1%、「肝切除前ICG15分停滞率検査」90.3%など(12-13年)

▽大学病院以外の総合病院における、腫瘍センターなどの「がん診療を統括する診療部」の設置は25.3%(14年)

▽拠点病院における、「直線加速器による定位放射線治療加算」の届け出割合は51.1%、「外来放射線照射診療料」の届け出割合は59.7%、「放射線治療専門医」の配置割合は77.0%、「外来化学療法加算」の届け出割合は95.1%、転移・再発5大がん(胃、肺、肝、大腸、乳)の化学療法を内科医が担当している割合は27.4%など(14年)

 しかし協議会は、「がん治療の実態に関する系統的なデータ収集体制が未整備である」と指摘し、院内がん登録などを活用して、診療実態を詳細に収集し、がん医療の「質の向上」と「均てん化」を図る必要があると提言しています。

ドラッグラグは大幅に改善

 がん治療の成績を向上させるためには、がんに対する研究、とりわけ優れた医薬品や医療機器の開発が必要不可欠です。

 これに関連して、先進諸国では承認されている医薬品がわが国では承認されていない「ドラッグラグ」の解消が重要とされ、厚労省は「新薬創出・適応外薬解消等促進加算の試行導入」「臨床研究中核病院などにおける先進医療の特例」などの対策を取っています。これが功を奏し、申請ラグは12年度の32.9か月から13年度には5.7か月に、審査ラグは同じ期間に1.6か月から「0か月」に短縮されました。

 さらに厚労省は、「医療上の必要性が高い医薬品」を開発するよう製薬メーカーに開発も要請しており、専門の検討会で「医療上の必要性が高い」と判断されたがん関連薬剤が、12年度には14種類、13年度にも14種類、薬事承認または適応の拡大が行われています。

 こうした状況を受けて協議会は、AMED(日本医療研究開発機構)と連携し、アンメットメディカルニーズに応える新薬の開発・研究を進めることなどを要望しています。

将来的に、がん医療にも「費用対効果」の視点を

 協議会では、中間評価と並行して、基本計画に盛り込まれなかった新たな課題への対応についても検討してきました。その成果を「今後のがん対策の方向性」として取りまとめています。

 具体的には、▽将来にわたって持続可能ながん対策の実現▽すべてのがん患者が尊厳を持った生き方を選択できる社会の構築▽ライフステージに応じたがん対策―の3点について意見をまとめ、第3期計画での検討を促しています。

 このうち「持続可能ながん対策」では、医療経済的な視点から「がんの予防、早期発見、治療などを推進するにあたって、有効性・安全性の観点はもとより、費用対効果の観点から政策の検証を実施していく必要もある」との考えを打ち出しました。

 少子高齢化・経済の低迷などで、国家財政は非常に厳しい状況にあり、医療をはじめとする社会保障にも「効率性」が強く求められています。そうした中で、がん医療などについても、将来的に「費用対効果」評価に基づく優先順位が付けられる可能性があります。

 これに関連して協議会は、▽特定の生活習慣や感染症の既往▽ゲノム(遺伝子)情報などに基づく発症リスク―に応じた予防法・早期発見法を確立し、個人に適した先進医療(テーラーメイド医療)を推進することの重要性も説いています。

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