介護報酬単価の地域区分、不合理是正に向け課題や論点を整理―介護給付費分科会
2015.6.26.(金)
介護報酬の「地域区分」について「東京都三鷹市では報酬単価の上乗せ割合が10%だが、周囲は15-20%で不合理が生じている」ことなどが分かり、2018年度の介護報酬改定に向けて課題や論点を整理していくこととなりました。
また介護サービスの質の評価が「難しい」と述べる委員に対し、大島分科会長代理は「評価指標の設定は職能団体の責任で行うべき」と苦言を呈しています。
介護報酬については、地域における人件費水準を考慮し単価の「地域区分」が設定されています。
例えば東京23区では人件費が高いため、ほかの自治体と同じ介護報酬のままでは、介護サービス事業所などの経営が苦しくなってしまいます。このため厚労省は人件費水準に応じて全国の自治体を8つに区分し、介護報酬の単価(1単位=10円)に上乗せを行っています。さらに、「訪問看護や訪問介護ではコストに占める人件費の割合が高いが、施設サービスでは低い」というサービスごとの人件費割合にも着目しており、介護報酬の単価は現在24種類に区分され、最大で14%の上乗せが行われています。
ところで自治体における人件費の水準は、民間企業の給与に準拠した「公務員の地域手当」をベースに勘案していますが、一部の地域では不合理が生じているとの指摘もあります。
例えば、東京都三鷹市では報酬単価の上乗せ割合が10%に設定されていますが、隣接する市区の上乗せ割合を見ると、▽杉並区20%▽世田谷区20%▽武蔵野市16%(経過措置で17年度までは15%)▽小金井市16パーセント(同)▽調布市16%(同)―という状況です。つまり三鷹市の介護事業所や施設では、隣接する市区の事業所・施設よりも5-10%低い介護報酬しか請求できないのです。
こうした事例は全国各地にあると言われ、河村文夫委員(全国町村会政務調査会行政委員会委員、東京都奥多摩町長)は「介護報酬の格差を埋めるため独自に数千万円を補助している自治体もある。東京都については自治体単位ではなく、例えば『23区』『北多摩地区』『南多摩地区』など、より広範囲のエリアで地域区分を設定するべきではないか」と述べました。
厚労省も事態を重く見ており、25日の社会保障審議会・介護給付費分科会で、同省老健局老人保健課の迫井正深課長は「何らかの方法で自治体の意見を聞き、課題や論点などを整理する」方針を示しました。
ただし、地域区分の見直しについて自治体サイドは「上乗せ割合の引き上げ」を主張しますが、地域区分については「財政中立で行う」ことが基本です。つまり、どこかを引き上げれば、ほかの自治体で実質的な報酬単価の引き下げが必要となります。こうした点にも考慮し、公平・客観的な手法を検討していくことになります。
また、井口経明委員(東北福祉大学客員教授)は「地域区分は完璧でこそないが、これ以上の仕組みを構築することは難しく、調整で対応するしかない。報酬単価の上乗せには、利用者負担の引き上げという側面もあることを忘れてはならない」と、上乗せを要望する自治体サイドに苦言を呈しました。
この日は「介護サービスの質の評価」も検討テーマとなりました。医療や介護の質を評価するに当たっては、▽ストラクチャー評価(人員配置など)▽プロセス評価(どのような行為や処遇を行うかなど)▽アウトカム評価(社会参加率など)―という3つの要素でアプローチが行われます。
医療では「アウトカム評価」に関する積極的な議論が行われていますが、介護では「アウトカム評価」の導入に反対する意見も少なくありません。その理由は、「社会的・文化的価値観が異なり評価項目の設定で意見集約を図りにくい」「介護サービス以外の要素で高いアウトカムを得られることも少なくない」などです。
しかし、質の評価を適切に行い、それを介護報酬に結び付けていくことが求められており、迫井課長は、▽質の評価の在り方の検討を継続する▽これまでに導入したアウトカム指標(社会参加支援加算など)の検証を行う▽東京都品川区における要介護度の改善に対する奨励金などの事例を収集する―という今後の取り組み方針を示しました。
委員からは「質の評価は重要であるが、難しい」といった意見が多数出ましたが、これに対し大島伸一分科会長代理(国立長寿医療研究センター名誉総長)は「評価指標の設定は、職能団体が自ら設定するものだ」と強い口調で述べ、役所に頼るようでは専門家集団の看板を下ろすべきと指摘しています。
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