外国人の患者や医療者の受け入れ、最大の壁はやはり「言語・会話」―日病調査
2015.10.30.(金)
外国人患者の受け入れに当たって「言語・会話」や「医療通訳の提供体制」を課題と考えている病院が多く、外国人医療者の受け入れにおいても同様の課題を挙げる病院が多い―。このような調査(医療の国際展開に関する現状調査)結果を、日本病院会が29日に公表しました。
国際化が進展する中でわが国に居住する、あるいはわが国を訪問する外国人が増加しています。また2020年には東京オリンピックの開催が予定され、更なる訪日外国人の増加が予想されます。一方、日本の優れた医療技術を海外で展開する構想も描かれています。
そうした状況の中で、わが国の医療現場は外国人患者や外国人医療者の受け入れや、海外での医療提供をどのように考えているのか。こうした視点に立って、日本病院会(日病)は会員病院を対象にアンケート調査を実施しました。調査には669施設(日病会員病院の27.7%)が回答しています。
まず外国人患者の受け入れについて見てみましょう。
回答病院の78.6%が何らかの形で外国人患者の受け入れを経験しています。もう少し細かく見ると、「在留外国人」の診療経験のある病院が75.6%、「その他(おそらく観光・仕事などでの訪日外国人)」が22.2%、「医療目的の訪問外国人」が15.0%、「メディカルツーリズムなどでの訪問外国人」が6.4%となっています。
外国人患者の出身国を見ると、中国が最も多く76.2%、次いで韓国45.6%、米国43.0%、フィリピン38.3%、ブラジル23.4%などと続きます(複数回答)。
病院がどの外国語に対応できるのかを見ると、英語には88.5%が「対応可能」としていますが、中国語には27.6%、韓国語には12.9%しか対応できない状況です。また、「自前の通訳」がいる病院は35.2%にとどまっています。中国・韓国出身の患者が多い状況の中で、心もとない数値と言えます。
こうしたことから、95.8%とほとんどの病院では「外国人受け入れに当たって言語・会話が課題である」と答えています。ほかの課題としては、「医療通訳の提供体制」44.6%、「治療費の不払い」43.7%、「生活習慣の違い」32.1%などが挙がっています(複数回答)。
2020年の東京オリンピック開催を控え、政府は2020までに「地域ごとの基幹となる施設に外国人向けコーディネーターや複数言語の医療通訳を派遣できる体制」を整備する目標を定めており(産業競争力会議)、今後の取り組みが注目されます。
次に外国人医療者の受け入れ状況を見ると、受け入れ経験がある病院は19.1%、準備中の病院は2.1%で、77.3%の病院は受け入れ経験がないと回答しています。
受け入れ経験のない病院の77.0%は、「受け入れに関心がない」と答えていますが、今後、外国人患者が増加する中では、この意識も変わっていくのではないでしょうか。
外国人医療者の国籍を見ると、最も多いのは患者と同じく中国で41.7%。が最も多くなっており41.7%。次いで、インドネシア16.7%、フィリピン14.2%、韓国12.5%と続きます(複数回答)。経済連携協定(EPA)に基づくインドネシア人・フィリピン人看護師の受け入れによるところが大きいと考えられます。
また外国医療者受け入れに当たっての課題は、やはり「言語・会話」(95.7)が最多です。また、患者と異なり、職員が接する期間が長期になるため、生活習慣の違い(66.2%)や宗教の違い(44.6%)を挙げる声も多くなっています(複数回答)。
政府は、医療の国際化に当たって、外国人患者の受け入れにとどまらず、海外展開も重要施策の1つに位置付けています。
しかし、今回の調査では海外での診療について、「行っている」病院は3.1%、「準備中」病院は1.5%にとどまり、93.3%と大多数の病院は海外での診療を行っていません。また「行っていない」病院の87.0%は「海外での診療に関心がない」と答えています。
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外国人患者の受け入れと、海外診療では、ハードルの高さが大きく異なります。わが国の病院が海外診療に乗り出すに当たっての課題はどこにあるのでしょう。日病の調査では「当該国での医療需要の把握や関連制度の把握」48.0%、「事業実施に必要な体制構築」44.0%、「提供したい価値の現地医療需要との適合性」36.0%などを課題と考える病院が多いことが分かりました。
また海外診療では、「社会事情」「医療関係者の確保」「治安情勢」といった点が心配という声も多く、海外での診療形態としては「医師の派遣」が最も多く(58.3%)なっています。
医療の国際化にあたり、国や自治体、日病に求めるものとしては、「患者受け入れ環境整備」や、それに対する支援が最も多くなっています。
なお、日本の医療サービスを海外展開する際、あるいは外国人患者が日本の医療サービスを受ける際のコーディネートを行うために設立された「Medical Excellence JAPAN(MEJ)」について、69.3%の病院は「良く分からない」と回答しており、今後、PR活動に更に力を入れる必要がありそうです。