介護施設などでの従事者による虐待、2014年度は300件で前年度から35.7%増加―厚労省
2016.2.8.(月)
特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)や介護老人保健施設、介護療養型医療施設などで従事者による高齢者虐待が2014年度には300件認められ、前年度に比べて35.7%も増加している―。こうした事実が、厚生労働省が5日に公表した2014年度の「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査」結果から明らかになりました。
虐待の内容は、身体的虐待が最も多く63.8%、次いで心理的虐待43.1%、経済的虐待16.9%と続き、認知症のある高齢者では、身体的虐待を受ける割合が特に高いことも分かりました。
介護施設や養護施設では、高齢者に対する虐待があっても分かりにくい(高齢者自身が訴えることができない、しにくい)ため、厚生労働省は高齢者虐待防止法(高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律)を2006年に施行。同法に基づいて毎年度、虐待の実態などを調査するとともに、改善に向けた指導などを行っています。
調査対象は全国の1741市町村と47都道府県で、▽特別養護老人ホーム▽介護老人保健施設▽介護療養型医療施設▽有料老人ホーム▽地域包括支援センター▽介護保険法の居宅サービス、地域密着型サービス―など(以下、養介護施設)での虐待のほか、家族など養護者による虐待を集計したものです(市町村に相談・通報された事例などを集計)。
2014年度には、「養介護施設の従事者による虐待がある」との相談・通報が1120件(前年度比16.4%増)寄せられ、うち300件が高齢者虐待と判断されました。虐待と判断された件数は前年度に比べ35.7%も増加しています。
また「養護者による虐待がある」との相談・通報は2万5791件(同1.9%増)寄せられており、うち1万5739件(同0.1%増)が高齢者虐待と判断されました。
養護者による虐待件数は横ばいですが、要介護施設従事者による虐待件数は増加傾向にあり、早急な改善が求められます。もっとも相談・通報がきちんと行われるようになり、「これまで見えなかった部分が見えてきた」とも考えられ、今後の動向に注目する必要がありそうです。
高齢者虐待防止法では、虐待を次のように定義しています。
▽身体的虐待:高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴力を加えること
▽介護・世話の放棄・放任(介護等放棄):高齢者を衰弱させるような著しい減食、長時間の放置、養護者以外の同居人による虐待行為の放置など、養護を著しく怠ること
▽心理的虐待:高齢者に対する著しい暴言または著しく拒絶的な対応、その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと
▽性的虐待:高齢者にわいせつな行為をすること、または高齢者をしてわいせつな行為をさせること
▽経済的虐待:養護者また高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分すること、その他、当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること
2014年度には、養介護施設従業者からの虐待があったと認められた300件のうち、被虐待者が691人特定できました(1件の事例で複数の高齢者が虐待されるケースもある)。この691人にどのような虐待が行われたのかを見ると、身体的虐待が最も多く441人(63.8%)、次いで心理的虐待298人(43.1%)、介護等放棄59人(8.5%)、性的虐待18人(2.6%)となっています。
また、入所系施設(特養ホームなど)における従事者からの虐待について見てみると、認知症高齢者(認知症高齢者の日常生活自立度III)では身体的虐待が72.1%と特に高いことが分かりました。身体的虐待は、認知症なしや自立の高齢者では40.9%、自立度IIの高齢者では50.7%にとどまっています。
さらに、入所系施設における従事者からの虐待と、被虐待者の要介護度との関係を見ると、▽要介護度が低いほど身体的虐待が少ない▽経済的虐待は要介護度が低いほど多い▽心理的虐待は要介護度との関係は薄い―ことなどが分かります。
また虐待の程度(深刻度)を見ると、軽度の「生命・身体・生活への影響や本人の意思の無視など」が41.6%と最多ですが、重度の「生命・身体・生活に対する重大な危険」も1.6%あります。幸い死亡事例はありませんでした。
なお被虐待者の性別を見ると、女性が69.7%と大半を占めています。
養介護施設の種別と、虐待の種類との関係について、厚労省は次のように分析しています。
▽介護保険3施設(特養ホーム、介護老健施設、介護療養)では、「心理的虐待」が含まれるケースが他の施設よりも低い
▽認知症対応型共同生活介護(グループホーム)・小規模多機能型居宅介護等では、「身体的虐待」が含まれるケースが他の施設種別よりも低く、「介護等放棄」が含まれるケースが高い
▽居宅系の事業所では、「身体的虐待」および「心理的虐待」が含まれるケースが他の施設種別よりも高く、「介護等放棄」が含まれるケースが低い
高齢者虐待が認められた場合には、施設や事業所への指導、改善勧告、指定停止などの対応がとられます。
養護者からの虐待については、次のような特徴があります。
▽被虐待者の77.4%は女性
▽身体的虐待と要介護度の関係は薄いが、要介護度が高くなるほど介護等放棄が増え、要介護度が高くなるほど心理的虐待は減る
▽要介護度が高いほど、虐待の深刻度も高まる
▽認知症があると、介護等放棄の割合が高くなる
▽寝たきりになるほど、介護等放棄の割合が高くなる
養護者による虐待を相談・通報した人は2万8745人に上り、介護支援専門員(ケアマネジャー)が30.0%です。特に介護保険サービスを受けている場合には、相談者・通報者にケアマネが含まれているケースが多く、虐待防止の大きなカギを握っていると言えそうです。
なお、虐待などによる死亡は12件12人、介護等放棄による致死は7件7人、心中が3件3人、その他1件1人となっており、早急な対策が求められます。