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国に評価されるリハビリテーションの価値とは、GHCコンサルタントが演題発表―日本理学療法学術学会

2016.5.30.(月)

 日本理学療法士協会は27日、北海道札幌市内で「第51回日本理学療法学術学会」を開催しました。「急性期でのリハビリテーション多介入が、大腿骨近位部骨折患者の在院日数と医療費に与える影響~急性期・回復期を通して~ 」と題した演題で、GHCコンサルティング部門アソシエイトマネジャーの八木保が講演。急性期と回復期におけるリハの多介入が「医療の価値」を向上するという内容のもので、根拠となるデータを示しながら、今後、国に評価されるリハとは何かを探りました。

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リハの価値=リハの質÷医療費

 「医療の価値」は、「質÷コスト」で定義されます。質が高く、コストが低い医療ほど価値が高いとする概念で、米国の有名病院であるメイヨークリニックが提唱することで知られています。これは医療のさまざまなシーンに照らし合わせて考えることが可能で、リハビリテーションに置き換えると「リハの価値=リハの質÷医療費」となります(図表1)。

(図表1)リハの価値=リハの質÷医療費

(図表1)リハの価値=リハの質÷医療費

 リハの質は、ADL改善度・在院日数等の「結果」、療法士数・設備等の「構造」、実施単位数・リハ日数等の「過程」から成ります。リハの質を向上させても、医療費がそれ以上に上がってしまっては、価値が下がります。社会保障費抑制が喫緊の課題である日本において、価値の低いものは診療報酬で評価されません。2016年度診療報酬改定における「回復期リハビリテーション病棟の単位数一部包括化」は、まさに価値の低い医療機関に対するペナルティーといえます。

 一方、国は初期加算・早期加算を設け、急性期リハに「投資」をしています。今回の研究は、大腿骨近位部骨折の患者を対象に、「急性期でのリハ多介入が、リハの質と医療費に与える影響を、急性期から回復期を通して明らかにすること」を目的としました。

在院日数11日短く、医療費24万円安く

 まず、母集団を急性期での1日あたり単位数4.0単位を基準として多介入群(4.0単位/日以上:239症例)と少介入群(4.0単位/日未満:1,465症例)の2群に分け、急性期入院時の患者背景の差をみました。結果、「入院時BI」と「入院経路」には有意差が認められましたが、その他の患者背景に有意な差は認められませんでした(図表2)。

(図表2)2群に分けた急性期入院時の患者背景

(図表2)2群に分けた急性期入院時の患者背景

 患者背景の差はその後のリハ過程や結果に影響するため、「傾向スコアマッチング法」を用いて患者背景を統一させた後、リハの質と医療費について2群間比較を行いました。結果、急性期では多介入群の方が少介入群よりも早く回復期に転棟し(多介入群:16日、少介入群:22日)、医療費は多介入群の方が約11万円低くなりました(多介入群:約137万円、少介入群:148万円)。回復期でも在院日数は多介入群の方が有意に短かった一方(多介入群:37日、少介入群:44日)、医療費は両群ともに約120万円で差はありませんでした。

 急性期から回復期を通してみると、多介入群の方が短い在院日数(多介入群:58日、少介入群69日)で十分なBI利得を得ることができ、総医療費は約24万円低くなりました(多介入群:約253万円、少介入群;277万円)(図表3)。

(図表3)多介入群の方が短い在院日数かつ総医療費も低い

(図表3)多介入群の方が短い在院日数かつ総医療費も低い

「リハのみ医療費」ではなく「総医療費」の視点を

 急性期での手厚いリハ介入は、この部分だけ切り取ると医療費増加を意味しますが、結果として総在院日数短縮、総医療費削減に繋がります(図表4)。今回の研究においては、急性期に1日4単位以上を投入できるリハ提供体制は、「大腿骨近位部骨折のケアにおいて価値が高い」と言えます。

(図表4)「医療費」の視点がある取り組みには国から評価される可能性も

(図表4)「医療費」の視点がある取り組みには国から評価される可能性も

 今後、リハの価値を計るためには医療費の視点を持つことが重要となります。そうすれば、「例えば1日4単位以上実施している施設を評価する『スーパー早期加算』のような新たな診療報酬を、明確な根拠を持って国に提言できるでしょう」(八木)。また、今回は急性期と回復期を通した研究でしたが、八木は「今後は生活期まで通して価値を最大化する、リハの提供体制を検討・提唱していきたい」として講演を締めくくりました。

解説を担当したコンサルタント 八木 保(やぎ・たもつ)

yagi 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門アソシエイトマネジャー。理学療法士、中小企業診断士。
名古屋大学医学部保健学科理学療法学専攻卒業。大手商社にてヘルスケア業界におけるマーケティング商品開発、中小企業のコンサルティングを経て、入社。リハビリの質と生産性向上、コスト削減、財務分析、DPC分析などを得意とする。多数の医療機関のコンサルティングを行うとともに、社内のコスト削減プロジェクトや社外のCQI(Cancer Quality Initiative)研究会のサポートなどでも精力的に活動する(諏訪中央病院の事例紹介はこちら、津島市民病院の事例紹介はこちら)。
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