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病院改革の出発点はコスト削減、突破口開くたった3つの要点―コスト削減塾2016年春(1)

2016.6.7.(火)

 「大改定」になると予想されている次期診療報酬改定に向けて、病院はどのような改善策から着手すればいいのか――。小手先ではなく、本腰を入れた改革を実行する必要性があるのなら、まずはコスト削減から着手するのが効果的であると、GHCマネジャーの本橋大樹は指摘します。本橋によると、効果的かつ実効性のあるコスト削減を実行し、病院改革の突破口を開くためには、3つのポイントがあります。

コスト削減で「ヒーロー」になれる5つの理由

 GHCが都内で20日開催したセミナー「革新的ツールの成功事例から学ぶ、材料コスト削減塾」で、「病院大変遷時代を生き抜くコスト削減戦略」と題して本橋が講演しました。

(写真1)GHCマネジャーの本橋大樹

(写真1)GHCマネジャーの本橋大樹

 本橋によると、「コスト削減活動というと、『節約ばかりで疲弊するもの』というイメージを持っている人が多いが、必ずしもそうではない」と言います。

 まず、コスト削減活動は、生産活動をせずに利益を生み出すことができます。集患や増収に向けた業務を増やすことなく、今ある業務を見直すことによって、利益を生み出すことが可能です。

 次に、コスト削減活動の成果は数値化できることが多いため、成果が目に見えやすいということが挙げられます。例えば、「A商品の購入単価を○円削減した」「B商品の購入数を○個削減した」「コスト削減活動で年間○万円の増益効果があった」などと表わすことができます。そうすることにより、誰もが文句の言いようのない共通指標で、人や部署によってのバラつきがなく、成功体験を共有することができます。

 思わぬ発見につながることもあります。例えば、検査機器のコスト削減をしていたら、他病院と検査方法に違いがあることが分かるかもしれません。あるいは、手袋の購入価格を見直したら、病棟ごとに違う種類を使用していることが明らかになるということがあるかもしれません。つまり、コスト削減活動を通じて、予期せぬ業務上の問題点や課題が見つかり、それを改善することが、病院経営や医療の質を向上する上での重要なポイントにもなり得るのです。

(写真2)コスト削減活動は院内のヒーローになるチャンス

(写真2)コスト削減活動は院内のヒーローになるチャンス

 コスト削減活動は、ほかの業務改善活動よりも成果が分かりやすく、しかも成功実績はほかのプロジェクトでも真似しやすいため、すべての改善活動のお手本になります。つまり、院内の改善活動を志す多くの職員たちにとっての目標、院内のヒーローになり得るチャンスでもあると言うことができます。

【突破口開く要点1】適正な市場価格の把握

 それでは、コスト削減を進める上での注意点は何でしょうか。本橋は、「適正な市場価格の把握」「適確な価格交渉」「院内の協力体制」の3つをしっかりと押さえることが重要だと指摘します。

(図表1)コスト削減活動の失敗を回避する3つの要点

(図表1)コスト削減活動の失敗を回避する3つの要点

 まず、適正な市場価格の把握については、言うまでもなく、市場の平均価格よりも 高く購入することは避けるべきです。しかし、医療材料や医薬品の購入価格は個々の病院で異なり、他の病院がどれくらいの価格で購入しているのか、市場の平均価格はいくらなのか、それらは言わばブラックボックスに包まれており、非常に分かりづらいのが現状です。

 こうした医療界の特殊事情を考慮したサービスが「材料ベンチ」です。「材料ベンチ」は、約2100病院による医療材料の購買単価を比較することで、メーカーや卸との価格交渉のゴールとなる金額の目安を設定できるツールで、GHCが独自開発した「病院ダッシュボード」のオプションサービスとなります。

(図表2)必ずしも購買価格が安い病院の購買量は多くない

(図表2)必ずしも購買価格が安い病院の購買量は多くない

 「材料ベンチ」は、独自の用途分類を採用したことで、商品別(商品単位)、用途分類別、償還分類別に材料の購買単価を検索し、同種・同効の商品を含めてほかの病院の購買単価を比較分析できます。本橋は、「通常、購買量が多いほど安価に購買していると思われがちだが、購買価格が最も安い病院での購買量は決して多くはない」と強調します。「材料ベンチ」のようなツールを活用するか、こうした価格交渉に必要な情報を他の手法で入手するなどして、製品ごとの目標購入価格を設定することが、交渉のスタートラインとなります。

【突破口開く要点2】適確な価格交渉

 次のポイントは価格交渉の仕方です。いくら交渉に有利な情報を持っていたとしても、誰に、いつ、どのように交渉するのか、その手法に誤りがあれば、目標とする購入価格を引き出すことはできません。

(図表3)交渉相手は価格決定権のあるメーカー

(図表3)交渉相手は価格決定権のあるメーカー

 最も重要なことは、交渉する相手の選定です。病院の購買担当者の多くは、価格交渉となると日頃から接点のあるディーラーをまずは想起するかもしれません。しかし、主要ディーラーの業績を調べると、経常利益率1~2%のディーラーが多く、非常に薄利なビジネスを展開していることが分かります。一方、主要メーカーの業績を見ると、経常利益率が5~25%とディーラーとは比べ物にならないほど高利益体質であることが分かります。

 つまり、薄利体質のディーラーに価格交渉を仕かけても、価格を引き下げるだけの体力もなければ、そもそも価格を引き下げることを想定していない収益構造になっているのです。従って、高利益体質かつ価格決定権のあるメーカーと価格交渉しなければ、目標が高ければ高いほど、満足のいく購入価格の引き下げを実現することは難しいと言わざるを得ないでしょう。

【突破口開く要点3】院内の協力体制

 最後に重要なことは、院内の協力体制を構築することです。理想は院内全体の協力を得ることですが、本橋はまず「医師がこだわりのある製品、こだわりのない製品を明確にする」「こだわりの製品がある医師に価格交渉の協力を依頼する」の2つに絞ることを推奨します。

(図表4)まず製品に対する医師のこだわりの「ある」「なし」を明確に

(図表4)まず製品に対する医師のこだわりの「ある」「なし」を明確に

 いくら価格交渉によって価格を引き下げられそうでも、該当製品を使う医師の反対に合えば交渉は進みませんし、その医師が所属する診療科との間に軋轢が生じかねません。そうならないためにも、まずは医師のこだわりがない製品に的を絞って交渉し、価格の引き下げを目指します。症例によっては、安価な製品を優先して使用してもらい、また切り替えることを常に検討します。置き在庫は安い販売元の製品にできるだけ限定して回転率を上げ、さらなる価格交渉を進めましょう。

 医師のこだわりがある製品については、可能であれば医師に販売元メーカーの担当者を呼び出してもらい、交渉担当課との価格交渉の場に、初回のみ同席してもらうように依頼すべきです。メーカー担当者と医師の強固な関係が明らかになれば、無理な交渉は困難かもしれませんが、医師が当該製品を安いと思い込んでいれば、市場の適正価格の情報を武器に再検討する余地があることを指摘することも可能です。

連載◆コスト削減塾2016年春
(1)病院改革の出発点はコスト削減、突破口開くたった3つの要点
(2)本音で語れば必ず人は動く、常に価値観の補正を

解説を担当したコンサルタント 本橋 大樹(もとはし・だいき)

motohashi 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門マネジャー。
米国ウィスコンシン大学経済学部卒業。外資系医療機器会社、医療系コンサルティング会社を経て、入社。医療データサイエンティストの育成や病床機能分化の策定、医療材料や委託コストの削減などコスト削減ソリューション全般を得意とする。足利赤十字病院(事例紹介はこちら)、津島市民病院(事例紹介はこちら)など多数の医療機関のコンサルティングを行うほか、コスト削減に関する社内の新規プロジェクトチームのリーダーを務める。
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