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診療報酬改定セミナー2024 看護モニタリング

ディズニー職員2万人を一枚岩にする「SCSE」とは、夢の国へ導く顧客対応4つの鍵

2016.6.8.(水)

 東京ディズニーリゾートでは、約2万人の職員が「キャスト」という独特な呼び名で活躍しています。その一人ひとりの顧客対応は素晴らしく、彼らの顧客対応抜きに人々を魅了する夢の国は成立しないでしょう。高品質で、一枚岩と言えるほどバラつきが少ない顧客対応を実践できる秘訣は何か――。ディズニー流の人材育成を紐解くと、4つの視点から成る「SCSE」と呼ばれる行動規範がベースにあることが分かります。

ゴールはハピネス、すべてがショー

 GHCは年に2回、スキルアップやチーム力向上、新規事業開発などを目的に社員合宿を行っています。2016年前半の研修先に選んだのは、東京ディズニーリゾート。ディズニーの高品質な顧客対応は、病院職員の皆様に直接お会いするコンサルタント、「病院ダッシュボード」などを通じて裏方として接するITスタッフにとっても、学ぶべきところが多いはずです。そのため、今回はあえて異業種である東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドが主催するセミナープログラム「ディズニーアカデミー」を受講してきました。

 東京ディズニーリゾートに限らず、世界中のディズニーテーマパークの基本コンセプトは「ファミリーエンターテインメント(親と子が一緒に楽しめる場所)」。基本コンセプトの下、「すべてのパークは青空を背景とした巨大なステージ」と考え、パークで働くすべての職員は「キャスト」、来場する顧客は「ゲスト」と呼びます。華やかなショーで活躍する職員だけではなく、掃除や調理などいわゆる裏方の仕事をする職員もキャストと呼び、表舞台を「オンステージ」、裏舞台を「バックステージ」と呼ぶ徹底ぶりです。

 すべてのキャストの目標(ゴール)は、「ハピネス(幸福感)」と設定されています。質の高いショー、おいしい食事、心地良いホテルなど、ゲストが巨大なステージで過ごすさまざまな体験を通じて、最終的に幸福感を得られるかどうかが、何よりも重要視されています。

 ただ、幸福感は目に見えるものではなく、品質管理が難しいのが実際です。そこで幸福感の提供に関する品質管理手法の一つとして、1960年代にカリフォルニア州のディズニーランドで作られたのが、4つの視点から成る行動規準「SCSE」です。

【SCSE1】安全(Safety)

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 「SCSE」は、「安全(Safety)」「礼儀正しさ(Courtesy)」「ショー(Show)」「効率(Efficiency)」の4つの視点の頭文字を取ったものです。まずは、安全から見てみましょう。

 安全な環境があってはじめてショーは成り立ちます。そのため、施設やシステムなどのハード面、キャスト対応のソフト面の両面で安全性を追求しています。例えば、事故があったら深刻な怪我にも発展しかねない机の角などはすべて面取りされています。大震災などの緊急時には、キャストの判断でゲストにおみやげなどを提供しても構わないことになっています。

 そして何より重要なことは、「安全」が4つの視点のうちで最も優先順位が高いということです。研修後、GHCの社内では「組織が理想や理念を追求する際、優先順位をしっかりと皆が認識し合って行動できるということは、非常に重要なことだと改めて気付かされました。それは病院コンサルティングを通じて学んだこととも非常に似ています」との声もありました。

 医療界に視点を移すと、米国のメイヨー・クリニックは「医療の価値(質/コスト)の向上」という理念の共有と優先順位が明確であるからこそ、そこで働くスタッフ一人ひとりが個々の判断で行動でき、「世界一の病院」との評価を下支えしています。「現場」で起こるすべてをマニュアル化することは不可能で、その場で個々の判断が必要になる場面が必ず出てきます。そこで個々がベストな判断を、バラつきなく提供するためには、すべてのスタッフの拠り所となる理念や優先順位が必ず必要になります。それがディズニーでは「安全」であり、キャストが判断に迷った時にまず最初に考慮する視点となります。

【SCSE2】礼儀正しさ(Courtesy)

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 ディズニーが考える「礼儀正しさ」はとてもユニークです。通常、礼儀作法や接客用語などを思い浮かべるかと思いますが、ディズニーではゲストを見かけても通常、「いらっしゃいませ」とは言いません。なぜなら、「いらっしゃいませ」では会話に発展しないと考えているからです。

 GHCが受講した講義の講師の一人は、掃除担当出身。ディズニーで働き始めた当初、ゲストと会話をする機会が少なかったと振り返ります。ディズニーでは、掃除担当の方が道案内をしたり、写真を撮ったりとさまざまな活躍をする光景を目にすることが多いです。当時、この講師は先輩キャストに「真面目で一生懸命なのはいいけれど、それではゲストが話しかけづらいよ」と指摘されます。

 ディズニーが考える礼儀正しさは、「相手の立場に立ったおもてなし」です。そのためのポイントは、あいさつ、スマイル、言葉づかい、アイコンタクトの4つ。ただ真面目に与えられた業務をするだけではなく、4つのポイントを押さえて、目の前のゲストが何を望んでいるのか感じ取るため、ゲストをよく観察し、相手の立場に立ち、自ら行動することが求められています。

 ですから、キャストは単に「いらっしゃいませ」と接客用語を口にすることはありません。ゲストを知る会話のきっかけとなり、自らが考え、行動するための最初のあいさつの言葉として、よりシンプルに「こんにちは」をまず口にすることが多いようです。

【SCSE3】ショー(Show)

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 ディズニーテーマパークでは、ゲストの目に触れるもの、体験することすべてがショーの一部だと考えています。ショーと言えば、華やかなパレードで踊るダンサーなどしか思い浮かべることがないかもしれませんが、レストランや帰り際のおみやげコーナーのレジもショーの一部というのが、ディズニーの考え方です。

 例えば、誕生日にディズニーテーマパークで過ごすと、誕生日のワッペンを胸に貼ってもらい、すれ違うすべてのキャストがそのワッペンを見ると「お誕生日おめでとうございます!」とお祝いの言葉を投げかけてくれます。道案内をしてもらった後、パーク内地図の余白にミッキーマウスのマークなどのお絵かきをしてくれるなど、ハピネスにつながる小さなショーがあらゆる場面に散りばめられています。

 ディズニーでは、ショーには「目に見えるショー」と「目に見えないショー」の2種類があると考えています。前者は派手なショーから前述のような細かい演出も含まれますが、後者は「ショーは毎日が初演」というキャストの気持ちの持ち方です。日々働くキャストは、視点を変えるとショーの一つひとつがマンネリ化していると映るかもしれません。しかし、ゲストに視点を向けると、たとえ同じショーでも全く同じ反応であることは決してありません。ゲスト中心の視点に立てば、ショーは毎日が初演であり、その気持ちがあるか否かで、ショーが持つ本来の輝きが大きく左右されます。

 ちなみに、ディズニーテーマパークでは「隠れミッキー」と呼ばれるミッキーマウスのシルエットになっているモノが至るところに散りばめられています。この日の講義では、マイクのコードや絨毯に隠れミッキーがあることを知ったGHC社員たちが盛り上がり、また一歩、ハピネスに近づいて行きました。

マイクコードで作ったミッキーマウスのアイコン

マイクコードで作ったミッキーマウスのアイコン

絨毯に隠されたミッキーマウス

絨毯に隠されたミッキーマウス

【SCSE4】効率(Efficiency)

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 一般企業が「効率」という言葉を用いる際、「業務の効率化」を指すことが多いでしょう。ディズニーでは、ゲストの時間を無駄にせず、たくさんのショーを体験してもらうことが「効率」を意味します。

 ディズニーでは事前に体験したいアトラクションを予約できるシステム「ファストパス」などがありますが、ディズニーに限らず、多くの人気テーマパークは常に混雑しており、物理的な効率化には限界もあります。そのため、ディズニーが特に注力しているのは、待ち時間を短く感じさせる取り組みやチームワークによる無駄の排除です。

 この日の講義を受講するにあたり、GHC社員はバスで数十分移動しましたが、終始、運転手さんがディズニーアカデミーのことなどのうんちくを語り続けてくれたため、社員の多くは「移動時間はあっという間だった」と言います。

 ディズニーの駐車場はキャラクターの名前ごとにエリア分けされているのですが、それでも帰り際に自分たちの車がどこにあるのか分からなくなるというゲストが絶えません。そこで駐車場の担当者は、どのキャラクターのエリアが何時に満車になったのか、メモを必ず残して、そのメモを駐車場内のキャストたちで共有することにしました。このメモが、ゲストの車を少しでも早く発見する手がかりになることが多いとのことです。

 そして効率で最も重要なことは、4つの行動規準の視点の中で、最も優先順位が低く設定されているということです。ある時、忙しさのあまりレジのキャストがミッキーマウスのぬいぐるみの耳を掴んで袋に入れてしまったことがあり、クレームにつながるということがありました。効率はあくまで、安全、礼儀正しさ、ショーの3つの視点を十分に守った上での視点であり、ディズニーアカデミーの講義では「効率は最後の鍵」と表現されていました。

世界を変えるディズニーの「魔法」

 講義では、いくつか問題も出されました。その一つが、「あなたがもし掃除担当キャストで、目の前で大量のポップコーンがこぼれ落ちるのを見つけるのと同時に、写真を撮ってもらいたいとお願いされたら、あなたならどうする?」というものです。

 この問題に唯一の答えはありません。大切なことは、「SCSE」の行動規準に則り、個々がゲストにどのようなハピネスを提供できるか、ということです。

 GHCの社内からは、「こぼれたポップコーンでミッキーの絵を描き、それを背景に写真を撮る」というユニークな回答などがありました。先ほどの「効率」にあった待ち時間を短く感じさせる取り組みのように、雨の日に多くのアトラクションを回れないゲストのため、あるキャストが地面に水でミッキーマウスの絵を描いてゲストを楽しませたことがきっかけで、今では複数のキャストがこうしたことができるようです(現在、水でミッキーマウスを書くには社内資格が必要)。この手法を活用する取り組みというわけです。

 どんな時でも前向きに、「ゲストのハピネスをゴールに」と考えるキャストには、組織の一員として学ぶべきところがあるのはもちろん、すべての人がハピネスを得るためのヒントが隠されているように思えます。世の中には、「掃除」「会計」などディズニーのキャストと同じ役割と目的で業務をしている人が大勢います。しかし、キャストは同じ業務内容であっても、身の回りのすべての事象を前向きに捉え、ゲストのハピネスにつながるヒントを見つけ続けています。「ディズニーが好き」というキャストたち共通の想いが、同じ業務であっても、それらを「特別(Special)」に変える原動力、ディズニー風に言えば「魔法」になっているのではないでしょうか。

 キャストたちの共通軸のように、GHCも「医療を通じて社会に貢献したい」という医療関係者にとっての共通軸を持っています。ディズニーアカデミーから学んだ普通のことを特別に変える魔法のポイントをしっかりと身に付け、クライアントへ提供する価値の最大化を目指し、そのことが医療の価値向上に結びつくよう、これからも取り組んでいきたいと思います。

ディズニーアカデミーの研修を終えたGHC社員

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ディズニーアカデミーを受講する前日には、いくつかのグループに分かれた「ワールドカフェ」を実施し、日本の医療の未来に対してGHCは何ができるのか、対話を重ねました

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