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国境と医療界の限界越える「病院船」、有賀・労災機構理事長に聞く(3)

2016.10.11.(火)

 「労働者健康安全機構」の有賀徹理事長への連載インタビュー最終回は、リハビリテーションを軸に、医療界の異業種連携などがテーマ。有賀理事長は、日本の医療界は国際的貢献の視点を持つとともに、異業種の意見を積極的に取り入れるなどして、今ある枠にとどまらないビジョンを持つことの必要性を指摘します。また、今後の災害医療の重要な論点として、「病院船プロジェクト」を紹介しました(聞き手はGHC代表の渡辺幸子)。

目を見張るリハと現場にとどまるノウハウ

渡辺:一億総活躍社会の実現において、リハビリテーション分野における労災病院の役割も期待されていると思います。脳神経外科分野の第一人者でもある有賀理事長から見て、この点についてはどのようにお考えでしょうか。

有賀徹(あるが・とおる)氏:1976年東京大学医学部卒業。同大医学部脳神経外科学教室、日本医科大学附属病院救命救急センター、東大附属病院救急部などを経て、1984年公立昭和病院脳神経外科主任医長、1990年同院救急部長。1994年昭和大学医学部救急医学教授、昭和大学病院救命救急センター長兼副院長。2011年から昭和大学病院病院長を務め、2016年4月から労働者安全機構理事長。

有賀徹(あるが・とおる)氏:1976年東京大学医学部卒業。同大医学部脳神経外科学教室、日本医科大学附属病院救命救急センター、東大附属病院救急部などを経て、1984年公立昭和病院脳神経外科主任医長、1990年同院救急部長。1994年昭和大学医学部救急医学教授、昭和大学病院救命救急センター長兼副院長。2011年から昭和大学病院病院長を務め、2016年4月から労働者安全機構理事長。

有賀氏:労災病院のリハビリテーションについては、岡山県の「吉備高原医療リハビリテーションセンター」と「北海道中央労災病院せき損センター」を視察しました(9月14日インタビュー時点)。まだ本家の「九州労災病院」の視察を終えていないのですが、目を見張るほどレベルが高いです。特に、脊髄損傷の頸髄損傷のリハビリテーションに関してはすごい。あのリハビリの迫力を、全国のリハビリ施設に分けてあげたいくらいです。

 脊損患者の患者数はそれほど多くなく、昭和大学病院のようなところでも年に数人手術するという程度。それを吉備高原医療リハビリテーションセンターや北海道中央労災病院せき損センターでは、手術とその後のリハビリテーションを“山ほど”しています。個人的に「この患者の回復は難しいのではないか」というような症例の人が、車を運転したり、顎でパソコン操作ができるようになったりしています。在宅復帰したら家の構造はどうあるべきなのかというところまで踏み込むなど、とにかく高レベルなリハビリを提供しています。こうした現場を見て、自分自身がこれまでいかにリハビリについて勉強不足であったのかと痛感しました。

 さらに、脊髄損傷ではIPS細胞を使った研究も進んでいますが、現場の先生方はこれを活用した再生医療も視野に入れているようです。これがうまくいけば画期的なことで、こうしたわくわくするような話が現場では、ゴロゴロ存在しているのです。

 ただ、問題はこうした話が、現場にとどまっていることです。例えば、酸素ボンベを抱えて生活している患者もいますが、その多くはキャリーバッグのようなものを活用しています。それについてある患者が「不格好なので杖のような形状にできないか」と指摘しました。その要望に対して、吉備高原医療リハビリテーションセンターは実際にそうした機器を作ってしまったのです。そこまではいいのですが、ただ、それを共同製作したメーカーは製品化は難しいと積極的な対応には至らなかったようです。確かに、製品化しても売れないリスクはあるので、病院はもっと、リスクを取ってでも製品化することに協力してくれるような企業との関係構築が必要なのではないでしょうか。ちなみに、この話を聞いてすぐに友人の医療機器メーカーの社長に製品化を打診しました。

 要は、確かにこうした患者の需要を汲み取った機器を開発できることは素晴らしいことなのですが、開発しても製品化してくれないメーカーであれば、その後の発展がありません。おそらく、こうした話が、労災病院のリハ部門には、まさに宝の山のように埋もれていると想像しています

 リハビリとは異なりますが、アスベスト関連疾患患者の診断ノウハウなどもまた、労災病院はハイレベル。現在、経済発展を優先させる東南アジアやモンゴルなどは、日本と同じ道を辿りつつあり、アスベスト公害などは酷いと言われています。そうした中で、東南アジアの人たちの労働力が生み出したモノを、我々先進国、特に日本が消費しているということがあれば、倫理的に問題なのではないかと思ってしまうのです。少なくても、東南アジアのこうした労働者に対して、労災病院のこうしたノウハウをベースに、相談に乗ったり、ノウハウを提供したりすることは、日本の技術輸出うんぬんはさておき、倫理的に大事なことなのではないかと感じています

医療界に足りないのは異業種の意見

渡辺:確かに、医療界が異業種の企業と上手に連携していくことや、日本のノウハウをいかに国際展開していくのかという視点は、今の医療界に重要な論点だと思いますし、一億総活躍社会の実現という理念にもリンクしそうです。ちなみに、一億総活躍社会と言えば、加藤勝信議員(一億総活躍担当相)ですが、何かお話はされているのでしょうか。

有賀氏:労災機構のイベントなどにご出席いただけるようには打診しています。一方、加藤大臣には、労災機構に就職した折にご挨拶に伺う機会もありましたし、「病院船」のプロジェクトでのつながりもあります。

 この4月から病院船保有を提唱する「モバイル・ホスピタル・インターナショナル」という公益社団法人の理事になりました。病院船は、災害医療や災害医療の訓練にも使えるほか、他国の支援に活用したりすることもできます。そして病院船で最も重要な機能は、有事の際に統括的な指揮命令機能、言わば官邸機構を担えるというところです

 今やテロの脅威も高まっているため、災害医療を考える際にはミリタリーとどう連携していくのかという視点も欠かせません。東日本大震災の際に思い知らされましたが、岩手県、宮城県、福島県の主要被災3県をすべてカバーできる行政は、自衛隊しかありませんでした。そういう意味でも、災害医療に対して国がきちんと責任を持って対応できる仕組みは必要で、それにマッチするのが病院船という概念だと思っています。

 現在、米海軍の病院船マーシーが沖縄に立ち寄り、その必要性をPRすることを念頭に、ロビー活動を進めているようです。

渡辺:最後に、国内の病院長たちへメッセージがあればお願いします。

有賀氏:今の病院の人たちに足りないのは、異業種からの意見だと思っています。特に経営者たちは、同じ病院の経営者たちよりも、異業種の経営者から学べることの方が遥かに多い。どうしても病院長は片手間で経営をせざるをえないので、例えば、MBAホルダーの優秀な経営者などに専任で経営を任せれば、かなり今と違う景色が見えてくるのではないでしょうか。病院経営者たちはぜひとも、積極的に異業種の声に耳を傾け、聞こえてくる意見を経営に生かしていってもらいたいと思います。

渡辺:本日はありがとうございました。

取材後の記念撮影。右が有賀理事長、左が渡辺。

取材後の記念撮影。右が有賀理事長、左が渡辺。

連載◆有賀・労災機構理事長に聞く
(1)「一億総活躍社会」の実現こそ我々の使命
(2)求むは「水平・垂直連携」「地域専門医」
(3)国境と医療界の限界越える「病院船」

取材を担当したインタビュアー 渡辺 幸子(わたなべ・さちこ)

watanabe 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンの代表取締役社長。
慶應義塾大学経済学部卒業。米国ミシガン大学で医療経営学、応用経済学の修士号を取得。帰国後、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社コンサルティング事業部などを経て、2003年より米国グローバルヘルスコンサルティングのパートナーに就任。2004年3月、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン設立。これまで、全国800病院以上の経営指標となるデータの分析を行っている。著書に『患者思いの病院が、なぜつぶれるのか?』『日本医療クライシス「2025年問題」へのカウントダウンが始まった』(幻冬舎MC)など。
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