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医療現場の責任追及を医療提供側は強く懸念-医療事故調検討会

2014.12.12.(金)

 医療事故調査制度の2015年10月施行に向けたガイドライン策定などをめぐる議論が続いています。11日に開かれた第3回「医療事故調査制度の施行に係る検討会」では、厚生労働省からより詳細な論点が提示されています(関連記事『医療事故調、「事故の定義」など19の論点―厚労省、施行前に整理』)。

第3回 医療事故調査制度の施行に係る検討会

第3回 医療事故調査制度の施行に係る検討会

 厚労省が示した論点は、(1)医療事故の報告(2)医療事故調査(院内調査)(3)医療事故調査・支援センター(「センター」)の業務-の大きく3点に関する事項です。11日には、このうち意見の隔たりが大きな項目について集中的に議論しましたが、なお溝が埋まらない項目も多く、さらなる調整が待たれます。また、懸案となっている「医療事故の範囲」については次回以降に検討することとなりました。

事故報告の際の相談先、支援団体と「センター」のいずれも可へ

 医療事故の報告についてはまず、報告すべきかどうかを医療機関側が判断するにあたり、相談先をセンターのみとするのか、医師会や病院団体といった支援団体のみにするのか、あるいは、センターの前に支援団体に相談するのかをめぐって意見に隔たりがあります。

 このテーマについて小田原良治委員(日本医療法人協会常務理事)や松原謙二委員(日本医師会副会長)は、改正医療法第6条の11第3項にある「支援団体は、医療事故調査に必要な支援を行う」との文言を重視し、「支援団体に相談することを認めるべき」と主張しています。また有賀徹委員(全国医学部長病院長会議「大学病院の医療事故対策委員会」委員長)は、「多くの医療機関は医療の質を上げるために大学病院や医師会に日ごろから相談している。医療の質向上と医療事故調査制度は表裏一体の関係なので、事故報告の際の判断についても支援団体に相談することを認めるべき」と述べました。

 一方、法律家である宮澤潤委員(宮澤潤法律事務所弁護士)は「各医療機関の報告判断にバラつきがあってはいけない。センターで統一的に判断すべきではないか」と反論します。

 山本和彦座長(一橋大学大学院法学研究科教授)は、「さらなる議論が必要」と判断しましたが、厚生労働省医政局総務課医療安全推進室の大坪寛子室長は「センターと支援団体のいずれにも相談できるという意見が大勢を占めたと受け止めている」とコメントしました。

 また、医療機関からセンターや遺族側に事故を報告・説明あるにあたり、厚労省令に「医療事故の内容に関する情報であって、報告時点で説明することが可能なもの」を記載するかどうかをめぐっても意見の相違があります。

 松原委員は「通知で『説明が可能なもの』を説明することが望ましいとの記載にとどめてはどうか」と提案します。事故を報告する段階では、遺族側に説明できる内容は限られるケースが多いとみられ、省令に記載することでかえって内容が説明されないことを懸念した提案でしょう。

 これに対し、法律家である宮澤委員や加藤良夫委員(南山大学大学院法務研究科教授・弁護士)は「厚労省令に記載することが、適切な報告・説明を担保する」との考えを改めて強調しており、両者の溝は埋まっていません。山本座長は「引き続き検討する」ことを確認しています。

 なお、報告期限を明示するかどうかについて「24時間以内など具体的な数字は示さず、正当な理由がなければ『遅滞なく』報告する」ことが概ね固まっています。

院内調査報告書への再発防止策の記載で意見割れる

 一方、院内調査に関しては、「再発防止策」や「原因分析」をセンターへの報告書に記載すべきか否かで大きな意見の隔たりがあります。

 法律家である加藤委員や宮澤委員は「報告制度は医療事故の原因を分析し、再発防止につなげるのが目的である。院内調査報告書にも再発防止策や原因分析結果を記載するのは当然」と述べます。また、院内調査だけでは再発防止策を見いだせない場合には、その旨を記載すべきだとの考えも明らかにしました。

 しかし、小田原、松原両委員のほか田邉昇委員(中村・平井・田邉法律事務所弁護士)は、「一つの事例から再発防止策を見いだすのが困難なケースも少なくない。任意の記載事項とすべき」と反論します。

 一方、大磯義一郎委員(浜松医科大学医学部教授)は「産科医療補償制度の原因分析では、ヒューマンエラーを指摘することもあり、これらが刑事訴追に結び付いているケースもある。医療安全学会では産科医療補償制度などの報告のうち4%が刑事訴追されているとの発表もあった。このように再発防止策の記載が、医師個人の責任追及に結び付く危険性を考慮すると、現時点では任意でも記載すべきではない」との見解を示しました。

 このように、再発防止策などの院内調査報告書への記載については「必要的記載事項とする」「任意的記載事項とする」「記載しない」という3通りの意見が示されており、山本座長は「改めて検討する必要がある」と述べるにとどめています。

センター報告書に「個別事例の原因分析すべきでない」との意見

 一方、センターでは、「医療機関から報告された事故事例を収集・分析し、再発防止策を策定する」ことと、「医療機関や遺族から依頼があった場合に、改めて事故の調査を行う」ことという大きく2つの重要な業務をカバーします。

 ただ、このうち再発防止策に関連して、大磯委員らは「医療界全体に対する再発防止策の提言は重要な業務だが、個別の医療機関での事故事例について原因分析などのコメントをすべきではない。刑事訴追に結び付く可能性も否定できない」などと付け加えています。

 医療事故調査制度は「事故を起こした医師の責任追及」を目的としてはいませんが、調査の過程で医師の過失が明らかになれば、刑事訴追、つまり責任追及に結び付く可能性は否定できません。大磯委員の発言は「責任追及に結び付く可能性があるとそれを恐れて報告をためらい、結果として再発防止に結び付かない」ことを危惧したものと言えるでしょう。

 これに関連して小田原委員は、「センターの調査結果報告書を訴訟の証拠とすることはできない」旨を明記してはどうかと提案しましたが、法律家の委員からは「医療事故調査制度の根拠法である医療介護総合確保法を超える証拠制限規定などを、下位法規である省令等で定めるのは違法」との批判が出ています。

 次回会合は、年明け1月14日に開催される予定です。

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