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がん診療拠点病院、各都道府県に一つで十分―「プロ患者」に聞く正しいがん治療(2)

2017.9.12.(火)

 がん発症後の6度の手術を綴った闘病記『がん六回、人生全快』の著者、日本対がん協会の関原健夫氏の連載インタビュー。今回は関原氏が感じる日本の医療・介護制度の課題、民間療法などについて聞きます(聞き手は米国グローバルヘルス財団理事長・アキよしかわ)。

介護問題の根底に深刻な人材不足

――日本のがん医療において、大きな課題を挙げるとしたら何がありますか。

 がん診療拠点病院の間で質にバラつきがあることです。これは病院が良い悪いではなく、制度の問題だと思っています。

 344ある二次医療圏ごとにがん診療拠点病院が整備されていますが、この取り組みについて私は約30年前から疑問を投げかけてきました。がんは、基本的に一分一秒を争うような疾患ではなく、医療圏ごとに人口や年齢構成の極端な差異が顕著で、かつ交通事情が格段に発達した今日、都道府県に一つくらいあれば十分であると考えたためです。あるいは、A県のB病院は乳がん、C病院は大腸がん、というような都道府県ごとにがんを機能分化し、スタッフを集中して質の高い医療を提供するという方法でも良かったと思います。しかし、各医療圏が自らの医療圏にがん診療拠点病院を整備したがる(国の方針でもある)動きを止めることができず、現状のがん拠点病院間に格差ができ、最終的にすべての住民に質の高いがん医療を提供できない状態になってしまいます。

関原健夫(せきはら・たけお)氏:1945年生まれ。京都大学法学部卒業。日本興業銀行(当時)ニューヨーク支店営業課長の時に大腸がんが見つかり、肝転移・肺転移で計6回の手術を受け、5年生存率20%といわれたがんを克服。みずほ信託銀行副社長、日本インベスター・ソリューション・アンド・テクノロジー株式会社取締役社長などを歴任。中央社会保険医療協議会の公益委員、がん対策推進協議会委員などでも活躍し、現在は日本対がん協会常務理事を務める。

関原健夫(せきはら・たけお)氏:1945年生まれ。京都大学法学部卒業。日本興業銀行(当時)ニューヨーク支店営業課長の時に大腸がんが見つかり、肝転移・肺転移で計6回の手術を受け、5年生存率20%といわれたがんを克服。みずほ信託銀行副社長、日本インベスター・ソリューション・アンド・テクノロジー株式会社取締役社長などを歴任。中央社会保険医療協議会の公益委員、がん対策推進協議会委員などでも活躍し、現在は日本対がん協会常務理事を務める。

――当時から機能分化の必要性に着目していたとのことですが、現在の地域医療構想についてはどのようにお考えですか。

 地域というのは都道府県単位、そして2025年に向けては地域包括ケアシステム、つまり高齢化社会に備えて住まい、医療、介護、予防、生活支援を一括しての問題解決に着目しています。特に介護の問題は結局、お金と人材不足の問題が根底にあります。核家族化が進み、独居老人や老々介護が増加することで、これまでだったら普通に家族間でできていた介護さえできなくなっているわけですから、深刻な人材不足になるのは当たり前。この問題をどうするかが、何よりも悩ましい問題です。

 国はさまざまな計画を立てていますが、外国人活用による介護市場における労働力の活用を何よりも優先的に進めるべきでしょう。中国、韓国、台湾なども高齢化に直面しており、日本がこのまま、抜本的な打開策を打ち出せなければ、Too lateです。

――がん医療では、がん免疫細胞療法など怪しげな民間医療が注目されていることも気になります。

 ニューヨーク在住のとき、『ビタミンCでがんと闘う』と題した本との出会いが、民間療法の存在を初めて知った瞬間です。このようにエビデンスのない民間療法は、日本だけではなく、世界中にあり、毎年のようにブームがあり、ありとあらゆる民間療法が登場してきます。問題なのは、お金儲けのためにこうしたブームを作り、わらにもすがる思いの患者から大金をせしめようとしている連中がいるということです。私の下にも、こういう連中からの案件が3件ほどきたことがあります。

データの重要性を強調した闘病記に注目

――最後に、私事ですが私自身の闘病記を綴った『日米がん格差』について一言コメントをいただけますでしょうか。

 私のがんとアキさんのがんは結腸がんのステージ3、リンパ節転移の数は少し異なっていましたが、ほぼ同じ進行度合いでの発見に不思議な縁も覚えました。『日米がん格差』も読ませていただきました。標準治療が確立したアメリカ、確立しつつある日本との差異は民族・宗教・教育や社会風土に根差したさまざまな問題も含んでいるように思います。

 私の場合は帰国して日本で転移・再発に向き合ったのは正解だったと思います。米国人の医師たちも「米国ではリスクを冒してまで転移・再発手術は行わないし、保険を誰も引き受けてくれないので破産して今頃死んでいるよ」と言います(笑)。しかし、彼らは同時に「君を治療した日本の病院や医師は別格ですね。日本の病院や外科医に大きな格差があることは米国の我々も知っている」と言っていたことを付け加えておきます。

――日本の医療における質のバラツキは日本にとって重要な課題ですね。医療の質のバラツキに関して、我々はスタンフォード大学の医学部の仲間と日米共同研究で行いました。日本の分析ではDPCデータを用いましたが、米国の分析はメディケアのデータを用いて行いました。この研究は論文(”Geographic Variation in Surgical Outcomes and Cost Between the United States and Japan,” Michael P. Hurley, Lena Schoemaker, John M. Morton, Sherry M. Wren, MD; William B. Vogt, Sachiko Watanabe, Aki Yoshikawa, and Jay Bhattacharya, THE AMERICAN JOURNAL OF MANAGED CARE VOL. 22, NO. 9 (2016).)として発表しましたが、『日米がん格差』でもくわしく紹介しています。

 アキさんの本の面白さはケモに耐えてキャンサーナビゲーターに挑戦されたこと、データを示しての治療記録だと思いました。ノーベル賞確実とされながら結腸がんで死去された戸塚洋二先生の闘病記には物理学者として己の病状推移をデータで記しておられる以外に、データの重要性を強調した闘病記はないはずで、注目されると期待しています。

――ありがとうございます。大先輩から褒めていただき、とても嬉しいです。本日はありがとうございました。

インタビュー後に握手する関原氏(右)とアキ

インタビュー後に握手する関原氏(右)とアキ

連載◆「プロ患者」に聞く正しいがん治療
(1)主治医との信頼関係なくして、最善の医療なし
(2)がん診療拠点病院、各都道府県に一つで十分

記事を書いたコンサルタント アキ よしかわ

watanabe 米国グローバルヘルス財団理事長、米国グローバルヘルスコンサルティング会長。がんサバイバーの国際医療経済学者、データサイエンティスト。
10代で単身渡米し、医療経済学を学んだ後、カリフォルニア大学バークレー校とスタンフォード大学で教鞭を執り、スタンフォード大学で医療政策部を設立する。米国議会技術評価局(U.S. Office of Technology Assessment)などのアドバイザーを務め、欧米、アジア地域で数多くの病院の経営分析をした後、日本の医療界に「ベンチマーク分析」を広めたことで知られる。
著書に『日米がん格差』(講談社)、『日本人が知らない日本医療の真実』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『Health Economics of Japan』(共著、東京大学出版会)などがある。
この記事に関連したPR日米がん格差 「医療の質」と「コスト」の経済学』(アキよしかわ著、講談社、2017年6月28日発行)

watanabe がんサバイバーの国際医療経済学者、病院経営コンサルタント、データサイエンティストの著者による、医療ビッグデータと実体験から浮かび上がるニッポン医療「衝撃の真実」。
がん患者としての赤裸々な体験、米国のがん患者(マイケル・カルフーン氏、スティーブ・ジョブス氏)との交友を通じて、医療経済学者、そして患者の視点から見た日米のがん医療の違い、課題に切り込み、「キャンサーナビゲーション」という制度の必要性を訴える。こちらをクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします
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