医療法人への外部監査の基準、「負債100億円以上」が一つの目安に-厚労省検討会
2015.1.30.(金)
厚生労働省は30日、医療法人制度見直しの考え方を「医療法人の事業展開等に関する検討会」に示しました。医療法人の経営の透明性をこれまで以上に高めるために、一定規模以上の医療法人に、会計基準の適用を義務付け、さらに公認会計士などによる外部監査を義務付けることなどが打ち出されました(関連記事『厚労省、医療法人会計基準の適用義務化をきょう提案-外部監査も』)。外部監査の基準については、「負債100億円以上」が一つの目安になりそうです。
厚労省は2月9日に見直し案をとりまとめ、3月中-下旬に医療法改正案として国会に提出する考えです。
「医療法人制度見直し」の基本方針は、透明性の確保とガバナンスの強化にあります。まず、透明性の確保に向けた見直し内容は、次の3項目です。
(1)会計基準の適用・外部監査の義務付け
(2)一定規模以上の医療法人に計算書類の公告の義務付け
(3)メディカルサービス法人(MS法人)との関係を毎年度、都道府県知事に報告させる
このうち(1)は、「一定規模以上の医療法人」に対して、▽会計基準の適用▽公認会計士などによる外部監査-を義務付けるものです。
適用される会計基準は、2014年2月に四病院団体協議会が作成した「医療法人会計基準」をベースに作成されます。
現在、病院ごと(施設ごと)の財務諸表を作成する際の会計基準として「病院会計準則」がありますが、医療法人全体の財務諸表を作成する際の明確な会計処理基準は存在しません。そのため企業会計の基準を取り入れていますが、近年の企業会計は投資情報重視型に改定されており、医療法人の会計処理基準としては不都合が生じています。さらに「会計処理基準がないため、医療法人の財務諸表に対する信頼性が低下しかねない」という声も出ています。
そこで四病協が検討を重ね、「医療法人会計基準」を策定したものです。
もっとも、医療法人の会計基準を適用するにあたっては、現場の対応力も考慮した上で十分な準備期間が必要です。厚労省医政局の担当者は「法律が成立してから、施行までに1-2年の準備が必要とされているが、場合によっては3年程度かけるかもしれない」とコメントしています。
また「一定規模」がどの程度なのか気になります。現在、医療法人には「負債額が100億円以上の場合には、外部監査を受けることが望ましい」との規定があることから、この基準が一定の目安となりそうです。
ただし、梶川融委員(日本公認会計士協会副会長)は「負債額を目安にするのは債権者を保護するためだが、医療法人ではサービス提供量を重視すべきではないか」と指摘しており、「負債額」と「収益」の両方で一定規模を定めることも考えられそうです。
厚労省医政局の担当者は「法案に具体的な規模を書くかは決まっていない」と述べており、法律が成立した後に告示などで規模を定める可能性もあります。
また、医療法人のガバナンス強化に向けては次の3点の見直しが行われます。
(1)理事長の設置・権限などを規定するとともに、忠実義務・任務懈怠時の損害賠償責任などを規定する
(2)医療法人分割の規定を創設する(持分なし医療法人のみだが、社会医療法人と特定医療法人は対象外)
(3)社会医療法人について、地域の実情を踏まえた認定要件を加えるとともに、取り消し時の経過措置を設ける
社会医療法人に対しては税制上の優遇がありますが、認定を取り消された場合には、過去に優遇された分の税金を一括で納めなければなりません。これを危ぐして、社会医療法人への移行をためらう医療法人もあると指摘されており、厚労省は「認定取り消し後も救急医療などを積極的に行う場合には、特別の措置を講じてほしい」と税制改正を要望しています。
しかし税制改正の論議では「認定取り消し後の救急医療などについて法律上の規定もない」と要望を拒み、現状では「長期検討課題」にとどまっています。
そこで厚労省は、医療法を改正し、16年度の税制改正での特別措置の実現を目指しています。具体的には、次のような事項が規定されるもようです。
▽社会医療法人の認定が取り消された場合に、「救急医療等確保特別事業計画」を策定し、都道府県知事の認可を受けると、収益業務を継続できる
▽救急医療等確保事業の実施に必要な、救命初療室などの施設改築などに、収益業務で得た金額を充当できる
▽「救急医療等確保特別事業計画」の状況を毎年度、都道府県知事に報告する