医療事故の院内調査報告書「遺族に手渡すべき」74%-日病・堺会長「積極開示し信頼構築を」
2015.3.3.(火)
日本病院会は2日、役員会後の記者会見を開き2014年度の「医療安全に係わる実態調査」報告書について発表しました。
実態調査結果からは、10月から施行される医療事故調査制度に関連し、院内調査報告書を遺族に対して「当然手渡すべき」か「匿名性を配慮した上で手渡すべき」だと、73.9%の病院が考えていることなどが明らかになりました。堺常雄会長は会見で、「遺族との信頼関係を構築するために、院内調査報告書を積極的に遺族に開示していくべき」と述べました。
役員会では国が3月中にまとめることになっている地域医療構想策定ガイドラインも議題に上り、「高度急性期や急性期などの境界(いわゆるC1、C2、C3)を設定する考え方が不明瞭」「『協議の場』の設定や参加者などについて、都道府県の間で既に大きなばらつきがある」などの意見が出されたということです。堺会長は、これらの取り扱いを「しっかりと『見える化』すべき」と強調しています。
実態調査では、日病の全会員病院の37.2%に当たる892施設から有効回答を得ています。遺族に対して院内調査報告書を手渡すことについては、回答病院の73.9%に当たる659病院は「当然手渡すべき」か「匿名性を配慮した上で手渡すべき」と答えています。一方、「説明を十分に行うので手渡さなくてもよい」と答えたのは、118病院(13.2%)にとどまりました。さらに、「ケースバイケース」(9病院)、「要望があれば手渡す」(21病院)、「検討中」(10病院)、「匿名性配慮の上、渡さざるを得ない」(2病院)などの少数意見もありました。
また、遺族に対する説明会については83.5%の病院が「開催すべき」とし、さらに大多数の病院は遺族からの質問に対し「期限を定めて後日文書で回答する」「説明でも答えられることには答える」と考えていることも明らかになりました。
厚生労働省の「医療事故調査制度の施行に係る検討会」では、2月25日の会合で「遺族へ院内調査報告書を開示すべきか否か」で委員の間に意見の大きな溝があり、報告書取りまとめには至りませんでした。
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この点について、堺会長は会見で、「遺族に事故の状況を説明するにあたって、特に複雑な経過をたどった場合など、理解していただくことが難しいケースもある。院内調査報告書を開示して、丁寧に説明し、理解していただく努力が重要」と述べ、積極的に開示すべきとの考えを示しています。
また、「医療の安全確保推進委員会」の木村壮介委員長は、実態調査の結果について「院内調査報告書を遺族に手渡すべきと考えている病院が73.9%いることは、医療者の責務をきちんと把握していることの表れだと言える。多数がこのように考えていることはうれしいし、まともな考えだと思う」とコメント。さらに、「法律以前に、遺族に包み隠さず事実を伝えることは医療者の責務である。刑事・民事の責任追及を恐れて、事実を伝えることがおろそかになってはいけない。もちろん、社会や患者も医療への理解をしていただきたい。医療者と患者の双方が努力していくべきである」との考えも強調しました。
ところで、医療事故調査制度では、医療に係る「予期しなかった」死亡事故を報告することが求められており、「予期しなかった」と認められるためには(1)医療提供前に、死亡などが予期されることを説明している(2)医療提供前に、死亡などが予期されることを診療録などに記録している(3)その他、死亡などが予期されていると認められる-のいずれかに該当することが必要です。
この点について実態調査の結果からは、73.5%の病院が「説明で指摘した病態が死亡の主因であっても、その経過などから事故扱いとする選択も必要」と考えていることが分かりました。
木村委員長は「例えば胃の手術で縫合不全があり、合併症で死亡事故が発生するケースもある。これを『説明してあったではないか』として、事故ではないとすることはあり得ない。事故の発生状況や、手術を終えてからの期間などを考慮し、事故と扱うケースが出てくるのが順当であろう。詳しい説明をし、患者や家族が納得できた場合に、『予期した』事故として報告の対象から除外すべき」との考えを述べています。