造影剤使用直後でも母乳や子供への影響は極めて小さく、24時間・48時間の授乳制限は不要―日本医学放射線学会
2019.6.7.(金)
造影剤使用後の授乳による児への影響は非常に小さいと考えられる。特段の理由のない限り、造影剤使用後の授乳制限は必要ない―。
日本医学放射線学会は5月28日に、こういった考えを明らかにしました(学会のサイトはこちら(6月27日改訂))。
母親が懸念を抱く場合は授乳制限もやむを得ないが、栄養摂取(人工乳など)の準備を
我が国で使用が認められているヨード造影剤およびガドリニウム造影剤の添付文書を見ると、「授乳中の女性への造影剤投与後24時間または48時間は授乳をさけること」と記載されています。例えば、MRI撮影において肝腫瘍の造影に用いる「EOB・プリモビスト注シリンジ」(ガドキセト酸ナトリウム)では、「本剤投与後24時間は授乳を避けさせること」とされています。これらは動物(ラット)実験において、「造影剤が乳汁中に移行する」との報告をもとにしたものです。
しかし、米国やヨーロッパでは、このような「造影剤使用後の授乳に関する強い制限」はなされていません(米国放射線学会(ACR)や欧州泌尿生殖器放射線学会(ESUR)の最新のガイドライン)。
また、次のような「造影剤投与から24時間以内に、授乳を行ったとしても児が吸収する造影剤は極めて微量である」との研究結果もあります。
▽ヨード造影剤の投与後24時間以内の母乳への移行は投与量の1%未満、乳児における消化管からの吸収は母乳中の造影剤の1%未満である(つまり0.01%未満)
▽ガドリニウム造影剤の投与後24時間以内の母乳への移行は投与量の0.04%未満、乳児における消化管からの吸収は母乳中の造影剤の1%未満である(つまり0.0004%未満)
このような点を踏まえ、日本放射線学会は「造影剤使用後の授乳による児への影響は非常に小さい。特段の理由のない限り、造影剤使用後の授乳制限は必要ない」と判断しています。
ただし、「造影剤使用後の授乳で子供に悪影響が出るのではないか」と母親が懸念している場合には、検査後24時間・48時間の授乳制限を行うことは差し支えないものの、その際には「制限中の栄養摂取の準備(人工乳の使用や、検査前の搾乳など)について予め相談しておくことが望ましい」と提案しています。
造影剤使用後の授乳についての実際の対応は、主治医が母親に対し▼造影剤使用による検査の必要性▼造影剤使用後の授乳・授乳制限による影響(栄養不足など)―について説明し、よく相談した上で決定することが必要です。
なお、今後はエビデンスに基づき「添付文書の改訂」なども検討していくことが必要でしょう。
【関連記事】
学会指針に沿った被ばく線量管理を行う66病院を「画像診断管理認証施設」に認定―日本医学放射線学会
医療機関で放射線治療等での線量を記録し、患者に適切に情報提供を―社保審・医療部会(1)
「電子カルテの標準仕様」、国を挙げて制定せよ―社保審・医療部会の永井部会長が強く要請