セファゾリン等の主用抗菌薬、薬価引き上げ等で「原料からの国内製造」可能とせよ―日本感染症学会・日本化学療法学会・日本臨床微生物学会・日本環境感染学会
2019.9.9.(月)
セファゾリンなど医療現場で広く使用される抗菌薬については、主原料製造を含めた製造を国内で行うことが可能なよう、薬価制度の見直し(薬価の引き上げなど)を行うとともに、厚生労働大臣が「国内製造」を要請する必要がある―。
日本感染症学会・日本化学療法学会・日本臨床微生物学会・日本環境感染学会の4学会は連名で、8月30日に根本匠厚生労働大臣に宛ててこういった内容の「抗菌薬の安定供給に向けた4学会の提言―生命を守る薬剤を安心して使えるように―」を提出しました(日本感染症学会のサイトはこちら)。
抗菌薬の多くは、主原料製造等を海外に頼っている
今年(2019年)3月に抗菌薬である「セファゾリン」の供給に一時的に支障が出ました(関連記事はこちら)。また今秋(2019年秋)から、やはり抗菌薬である「タゾピペ配合静注用」の供給に支障が出る見込みです(関連記事はこちら)。
4学会では、「我が国の感染症診療は、1企業の1薬剤が供給停止となれば、その影響が予想以上に拡大するような危うい状況に立たされている。これは医療を越えて、安全保障上の問題」と強調。問題解決に向けて、次のような取り組みを積極的に行うよう提言しました。
(1)抗菌薬の生産体制の把握・公表
例えば冒頭に述べた「セファゾリン」の原料は、現在、世界でも中国の1企業でしか製造されていないようです。4学会は「一部企業に極端に依存する現在の生産体制では、急に供給が途絶えるリスクが大きい」とし、▼国で各薬剤の生産体制の把握とリスクの評価を行う▼医療従事者の選択が可能なよう、主要抗菌薬については原料の原産地表示を製薬企業に義務付ける―ことを求めています。
(2)国内で製造可能な条件の整備
現在、抗菌薬の原料の大半は諸外国で製造され、国際情勢が不安定な中で、有事の際には多くの抗菌薬が入手困難になる可能性があります。4学会では「製造過程の一部でも国内で対応できるようにする」必要があるとし、▼抗菌薬の製造許認可条件の見直し▼国内生産でも利益を生み出せるような薬価設定―などを行うよう求めています。
特にペニシリン系抗菌薬について、主用原料(6-アミノペニシラン酸(6-APA)など)に関し、「国内生産原料を用いて国内製造する抗菌薬」について新たな設備投資費用を含めても採算割れとならない薬価とすることを強く要望しました。
(3)既存の抗菌薬の薬価の見直し
4学会では「現在の薬価のままでは製薬企業の多くが海外での製造に依存せざるを得ない」「薬剤の販売そのものを中止する企業も出てきている」とし、既存の抗菌薬、特にkey drugを選定し、薬価の見直し(引き上げ)を行うよう求めています。そこでは「基礎的医薬品」について、▼新たな設備投資等で採算割れとなった場合には即座に薬価を引き上げる▼採算割れの品目を有する企業でなくとも申請できる―仕組みへの見直しも要望しました。
「key drug」については、▼医療保険の観点▼感染症対策の観点―から有識者が審議(厚生科学審議会感染症部会など)の上で選定する必要があるとし、4学会で(1)ペニシリンG(2)アンピシリンナトリウム/スルバクタム(3)タゾバクタム/ピペラシリン(4)セファゾリン(5)セフメタゾール(6)セフトリアキソン(7)セフェピム(8)メロペネム(9)レボフロキサシン(10)バンコマイシン―の10薬剤を例示しました(日本感染症学会のサイトはこちら)。
(4)厚生労働大臣のリーダーシップによる解決
こうした制度見直しのためには、厚生労働行政のトップである厚生労働大臣が危機的な状況を踏まえ、製薬企業に対して「主原料を含めて国内での抗菌薬の製造を再開する」よう要請することなどに期待を寄せています。
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