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診療報酬改定セミナー2024 看護モニタリング

ロボットスーツHALを装着した訓練で、難病患者の歩行機能が改善―難病対策委員会

2015.4.22.(水)

 厚生科学審議会・疾病部会の「難病対策委員会」で、今年夏の「難病対策の基本方針」策定に向けた議論が進められています。

 基本方針には、難病治療に向けた医療提供体制や研究体制、患者支援を行う人材育成、さらには療養生活や就労支援にまで多岐にわたる内容が盛り込まれます。21日に開かれた委員会では、▽調査研究▽医薬品・医療機器の研究開発―のテーマで、研究者や関係団体からのヒアリングも行われました。この中で、ロボットスーツHALを装着した難病患者の歩行訓練で、歩行機能が改善した事例などが報告されました。

 厚生労働省健康局疾病対策課の担当者は「6、7月には基本方針に関する一定の整理を行い、その後、パブリックコメントにかけたい」と説明しています。

4月21日に開催された、「第38回 厚生科学審議会・疾病対策部会・難病対策委員会」

4月21日に開催された、「第38回 厚生科学審議会・疾病対策部会・難病対策委員会」

ロボットスーツHAL、3月に薬事法上の承認申請済

 社会保障・税一体改革の一環として、1972年の難病対策スタートから45年をかけて「難病対策基本法」が制定されました。同法には医療費助成の仕組みを充実させることのみならず、「難病に関する調査研究」を進め、有効な診断・治療方法の確立に向けた支援を行うことも規定されています。

 基本方針には、難病に関する「調査研究」や、「医薬品・医療機器」の研究開発推進にかする事項も盛り込まれます。

 後者のうち「医療機器」に関して、中島孝参考人(国立病院機構新潟病院・副院長)から「ロボットスーツHAL-HN01」に関する発表が行われました。HALは、生体が発する微弱な電気信号を感知し、下肢の随意運動を補助する医療機器で、筑波大学の山海嘉之教授がCEOを務めるサイバーダイン社が開発・製造・販売を行っています。

 中島参考人は、指定難病(見込身を含む)である多発性硬化症や脊髄小脳変性症といった随意運動に障害をもたらす疾患の患者にHALを装着し、歩行機能の改善効果があるかどうかを確かめるために医師主導治験を実施しました。その結果、希少性神経・筋難病疾患における歩行不安定症の患者が短期間、間欠的にHAL-HN01を装着して歩行訓練を行うことで歩行機能の改善が得られることや、HAL-HN01が高い安全性を備えていることなどが確認されました。この結果を踏まえて、3月に薬事法上の承認申請が行われています。

難病患者の遺伝子解析で、治療法確立も

 一方、「調査研究」については、日本における医療研究の司令塔の役割が期待されている新たな独立行政法人「日本医療研究開発機構」の研究体制などが末松誠参考人(同機構理事長)から報告されました。

 同機構はLifeの3つの意味「生命」「生活」「人生」を意識し、医療研究の開発速度を最大化することを目的に設置され、難病研究についても▽産学連携▽戦略的国際研究▽バイオバンクの基盤整備▽臨床研究支援▽創薬支援―という多面的な角度での支援を行っています。

 その中で末松参考人は、米国NIH(National Institutes of Health)のGahl博士やBoehm博士が行っているUDP(Undiagnosed Disease Program)による「診断不能な患者の掘り起し」や「遺伝子疾患の解明」などについて紹介しました。

 例えば、重症クローン病に酷似した「全腸炎・大腸皮膚瘻」を呈するものの原因疾患が不明だった1歳3か月の男児について遺伝子を解析したところ、XIAPという遺伝子に変異があることが判明。造血幹細胞移植を試みたところ、移植後42日で食事を経口摂取することが可能となり、全腸炎は完治し、無事退院に至ったといいます。

 また「歩行不能」「呼吸不全」「嚥下不能」で小児ALSと見られる1歳10か月の男児について、遺伝子解析を行ったところ、「リボフラビン受容体2型の遺伝子変異」が判明しました。そこで経口で、リボフラビン(ビタミンB2)を大量投与したところ、わずか10日後には人口呼吸器を抜管でき、4週間後には経口での食事摂取が可能となり、体幹を支えられながらではあるものの歩行が可能になったそうです。

 こうした研究実績などを紹介した上で末松参考人は、「調査研究には臨床医の協力が不可欠である」との考えを強調しています。

「軽症の難病患者」対策も重要な視点

 委員と参考人との意見交換では、「軽症患者」対策が焦点になりました。難病対策基本法に基づいて医療費助成対象となる難病の範囲が拡大されていますが、助成は「重症患者」に限定されています。この点、委員・参考人のいずれも「治療・研究という側面では、軽症者や発症前の者への対策が重要になる」と強調しており、基本方針における重要な視点の1つとなりそうです。

 議論の中で葛原茂樹委員(鈴鹿医療短期大学学長)は「医療費助成という福祉的側面からは診断基準が甘くなるのは当然だが、治療・研究の側面では厳密な診断基準が必要だ。医療費助成のシステムと治療・研究のシステムは分けて考える必要があるのではないか」と指摘しました。

 厚労省の担当者は「指定難病拡大の議論では、学会や研究者から詳細な診断基準を提示してもらっている。医療費助成の側面でも診断基準が甘いということはない」と述べており、「医療費助成」と「治療・研究」を別個のシステムとする考えはないようです。

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