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【コンサルに聞く】分析担当なら知っておくべき錯覚を避ける5つの視点

2015.5.8.(金)

 医療情報の分析担当者にとって、成果物であるデータの精度は何よりも重要です。しかし、どんなに注意をしてもミスは起こり得るもの。中でも特に見落としがちな視点として、人間特有の「錯覚」があります。

 突然ですが、まず以下の動画をご覧いただき、白い服を着た人たちがボールを何回パスするか、数えてみてください。

 いかがでしたか? 最後まで動画を見ると、パスの回数を正確にカウントできるかだけではなく、カウントに集中している際に、画面を通り過ぎるゴリラの存在に気付けるかどうかのテストだったことが分かります。

(1)人は予測していないことには気付けない

 この動画を見て、71.4%の人がゴリラの存在に気付かなかったという調査もあります。パスの回数をカウントしないでよいのなら誰もがゴリラの存在に気付けるのでしょうが、一つの作業に集中し過ぎてしまうと、普段なら気付けるはずのことさえ見落としてしまうことを、この動画は物語っています。

 人間特有のこうした錯覚は、「錯覚の科学」(C・チャブリス、D・シモンズ著、文春文庫)に詳しいです。本書ではさまざまな錯覚の事例が紹介されていて、自転車事故に関する次の研究結果も興味深いものです。この研究は、次の2つの条件のうち、歩行者と自転車の接触事故が起こりやすいのはどちらかというものです。

・徒歩と自転車による移動が多い地域
・徒歩と自転車による移動が少ない地域

 接触事故が少ないのはどちらでしょうか。正解は後者です。徒歩と自転車による移動が多いならその分、接触事故の発生割合も高そうに感じますが、実際は違うのです。なぜなら、先ほどのゴリラの動画と同じように、人間は予測できることには比較的容易に対応できるものの、予測できないことには対応しづらいためです。つまり、人通りが少ない場所ほど接触事故は起きやすいのです。

 本書によると、バイクによる事故にも同じことが言えます。バイク事故の過半数が別の乗り物との衝突で、うち65%は、バイクの優先権を自動車が守らず、バイクの前を横切って左折したために起きているといいます。自動車がバイクの存在を予測していないことが多いためです。

 これらを分析作業に当てはめると、分析に集中するほど多角的なチェックが抜け落ちている可能性が高いと認識しておくべきでしょう。初歩的な分析でさえ、集中し過ぎると間違いや抜け漏れだらけだということを前提に見直す姿勢が大切と言えそうです。

(2)「ながら作業」は禁物

 冒頭のゴリラの動画では、条件によってもう一つの面白い実験結果が残されています。

 ボールをパスした回数を単純に数えただけのグループと、携帯電話で話しながら数えたグループとでゴリラの存在に気付いた割合を比べると、前者が7割、後者は1割と大きな開きがあったそうです。

 圧倒的なこの格差からは、複数の作業を同時に進める「マルチタスク」が錯覚を極めて起こしやすい状況を作り出す危険性が読み取れます。性別や知能指数(IQ)に関係なく、マルチタスクは誰がやってもがうまくいかないという結論もあり、このことは「仕事は一つずつ片付ける方が実は効率が良い」ことを表しています。「急がば回れ」ということわざの通りです。

(3)メモの重要性

 「魔法の数字」という言葉があり、7桁以上の数字になると、たいていの人が覚えるのに苦労するという意味で使われます。車の登録番号は7桁で、郵便番号やパスポートの数字が7桁なのはそのためと言われています。

 「覚えた!」とその場で確信しても、その記憶は曖昧であることが多いのです。それは短期記憶でも長期記憶でも同じで、どちらにも限界があります。特に注意しなければいけないのは、自分では覚えたつもりのものと、実際に見たものとが異なるケースがあることです。人間の記憶力の限界に加えて、思い込みや錯覚も加わり、記憶がよりあやふやになる可能性があります。

 そのため、メモの重要性は見逃せません。どんなに簡単で記憶できそうなことでも、間違いなく伝えたいものは逐一、キーワードだけでもメモを取り、その情報が確かなものか繰り返し確認することを勧めます。また、会議やヒアリングでは、ベンとノートを必ず持ち込む姿勢が必要です。

(4)権威ある人や自信満々な人には要注意

 人は権威がある人や自信ありげな人に同調しがちです。複数の中から一つを選択する際、こうした人たちの意見に左右された経験は、誰にでもあるでしょう。

 実際、米カルフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネスでは、入学適性テスト(数学問題)を幾つかのグループに実施した際、グループが出した最終回答の94%は「誰かが最初に出した答え」でした。支配性の高い人は真っ先に自信ありげな強い調子で話し出す傾向にあるため、それが影響して多くの参加者は最初に出した答えに引きずられました。

 他人よりも先に何度も発言すれば、人はそれを自信と能力の表れと受け取る傾向にあります。本来は「自信≠正しさ」なのですが、「自信=正しさ」と受け取られることは多く、こうした錯覚は、能力ある人の存在を埋もれさせてしまいかねません。

(5)人は統計より実話に弱い

 「私は、集団を見ても決して行動を起こさない。一人を見た時は、行動を起こす」というマザー・テレサの有名な言葉があります。この言葉は、人は統計よりも実話に弱いことを暗に示しています。

 例えば、「モーツァルトを聴くと頭が良くなる」「脳トレは認知能力の衰えを防ぐ」「潜在意識を刺激すれば消費者マインドを刺激できる(サブリミナル効果)」といった話を聞いたことがある人は多いと思います。事実のように受け止めがちですが、これらはすべて科学的に立証されていません。ところが、人は統計よりも具体的にイメージできる方を事実と信じ込んでしまう傾向にあります。

 テレビのニュース特番や新聞の特集記事の多くでは、具体例を導入部分に使います。メディアは、人が統計よりも実話に弱いことを熟知しているためで、具体的なイメージを視聴者や読者に抱かせた上で、伝えたいメッセージやそれを補強する統計データなどをタイミング良く織り交ぜていきます。

 分析担当者ならこうした聞き手の特性に熟知して、理解してもらいたいデータを効果的な場面や順番で示していくことが有効だということも覚えておきたいところです。

 いかがですか。人は錯覚しやすい生き物です。錯覚のリスクをできるだけ回避し聞き手の特性を理解すれば、病院経営の改善に欠かせない分析担当者として重宝されるのではないでしょうか。

解説を担当したコンサルタント 湯原 淳平(ゆはら・じゅんぺい)

yuhara 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門アソシエイトマネジャー。看護師、保健師。
神戸市看護大学卒業。聖路加国際病院看護師、衆議院議員秘書を経て、入社。社会保障制度全般解説、看護必要度分析、病床戦略支援、地域包括ケア病棟・回リハ病棟運用支援などを得意とする。長崎原爆病院(事例紹介はこちら)、新潟県立新発田病院など多数の医療機関のコンサルティングを行う。「週刊ダイヤモンド」(掲載報告はこちら)、「日本経済新聞」(掲載報告はこちら)などへのコメント、取材協力多数。
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