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診療報酬改定セミナー2024 看護モニタリング

【コンサルに聞く】原価計算は万能ではない―CPAホルダーでGHCマネジャーの湯浅が「原価計算至上主義」に警鐘(1)

2015.6.9.(火)

 昨今、病院経営において「原価計算」が注目を集めています。例えば、診療科ごとにどのような収益が発生し、コストはどの程度であることなどの実態を把握し、課題を改善していこうと考えられている病院もあるでしょう。

 しかし、米国公認会計士資格(CPA)を持つGHCマネジャーの湯浅大介は、「原価計算は目的を明確にすれば有効であるが、使い方を間違えれば危険である」と強調します。その意図はどこにあるのか、詳しく紹介しましょう。

病院は、固定費が大半を占める費用構造

 原価計算とは、例えば診療科ごと・部門ごとに収益とコストの実態を把握するものです。病院収益の多くは診療報酬ですから、これを診療科別や患者別などに把握することは比較的容易です。

 一方、コストは「固定費」と「変動費」に分けて把握します。

 「固定費」は、費用のうち、操業度(病院経営ではヒトや設備の稼働状況)にかかわらず、掛かる金額が一定の費用を指します。「固定費」の代表的なものは人件費や設備費、委託費(一部除く)などです。例えば、病棟では、病床稼働率に関わらず、看護配置に応じた一定の看護師人件費が毎月発生しますし、CTやMRIなどの高額機器も、稼働件数にかかわらず毎月一定の減価償却費が発生します。例えば、1台のMRIがあったとして、1か月に1件の検査でも、100件の検査でも、減価償却費は同じ額となります。

 一方、「変動費」は、一定の変数(病院であれば、手術件数や延べ在院日数など)に応じてかかる費用が比例的に異なる費用を指します。例えばPCIに用いるステントや、がん化学療法にて使用する抗がん剤などが挙げられます。ステント留置術を1件行えば1件分、100件行えば100件分のステント代が発生しますし、抗がん剤はがん化学療法実施症例数に応じて変化します。

 循環器専門病院などではコストに占める変動費の割合が大きくなりますが、一般的には、病院では、「固定費」が収益の70~80%前後と大半を占める費用構造となっています。

 湯浅は、「全体像を見る場合、原価計算は変動費に着目する要素が比較的強い。コストに占める変動費率が高い製造業などでは有用だが、変動費率が低い病院では、使い方を間違えると危険なことになる」と警鐘を鳴らします。

 これはどういうことなのでしょう。

原価計算は目的と論点次第では有効だが…

 湯浅は、K936『自動縫合器加算』を例にとって、次のように説明しました。

 自動縫合器加算は、K488-4『胸腔鏡下試験切開術』などを行う際、自動縫合器を使用した場合、手術の種類によって1個から5個を限度として、1個当たり2500点を算定できるものです(個数の限度がない手術もあります)。しかし、医師によっては、この限度をあまり考慮せず自動縫合器を使用するケースもあり、同じ手術でもA医師は2個、B医師は3個という具合に使用個数がまちまちになることがあります。算定できる縫合器の個数が2個の術式においては、3個を使用したB医師が使用した材料費は一部持ち出しになってしまうのです。

 すると、収益(加算)とコスト(縫合器の使用コスト)を勘案して「最適な使用個数に収れんしていこう」と考えることができます。このような場面では、原価計算を導入するメリットが大きいことが分かります。

 しかし、固定費を加えて病院経営全体を考える場合、困った事態が生じてしまうのです。

 例えば4月と10月に、肺炎の患者が10日間入院し、同じクリティカルパスに則って、全く同じ診療行為を行ったケースを考えてみましょう。診療行為も入院期間も同じですから、収益は同一です。

 しかし固定費である人件費はどうでしょう。病床稼働率が4月に80%、10月に50%であったとすると、1患者あるいは1クリティカルパス当たりの人件費は、大きく変わってきます。人件費は毎月ほぼ一定です。10床で500万円の人件費が発生していたと仮定しましょう。稼働率が80%で、患者1人当たりの人件費を500÷8=62.5万円と考えられますが、稼働率が50%であれば、人件費は500÷5=100万円に増加してしまいます。

 CTやMRIの稼働でも同じです。4月と10月で稼働率が異なれば、1患者あるいは1クリティカルパス当たりの減価償却費も当然変わってきます。

 つまり「固定費」は、1患者当たり、1クリティカルパス当たりに落とし込んだ場合、暦月での変動が大きいため、コストを適正に把握することが困難で、本質を見失う可能性が高いのです。湯浅は「○○科が黒字なのかと考える際、本来パスが適正なのかを検証する必要があるが、コストの乗せ方で結果が変わってしまうので、議論が混乱してしまう。パスごとの原価計算は非常に危険である」と説明します。

 固定費が費用の大半を占める費用構造の病院では、原価を左右する因子として操業度が圧倒的に大きく、診療行為などに着目をした原価計算を行おうとしても実態を適正に把握することが難しい理由がお分かりいただけるでしょうか。

 もっとも湯浅は「手術室や外来化学療法室などの『閉ざされた』ユニットの中で、テーマを明確にした上で原価計算を行うのであれば有用である」とも付言します。

 例えば、外来化学療法を行う際に「専用の輸液ラインを用いるべきか、汎用品を用いるべきか」という問題があったとします。その際、安全性とコストを勘案するための判断基準の一助として原価計算を行うことは非常に有意義でしょう。

 しかし、診療科や病院のコストの全体像を把握するのであれば、「固定費をどう回収するか」が本質的課題となるので、原価計算は両刃の剣になりかねませんので、留意が必要です。

 次回は、「原価計算」以外に、何を指標として病院経営を考えればよいかについて湯浅の考えを詳しく紹介します。

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解説を担当したコンサルタント 湯浅 大介(ゆあさ・たいすけ)

yuasa 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門マネジャー。
早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。グループ病院の財務分析、中央診療部門の業務改善、経営戦略室立上げ支援、コスト削減、病床戦略策定支援などを得意とする。諏訪中央病院(事例紹介はこちら)など多数の医療機関のコンサルティング、日経BP社「日経ヘルスケア」(掲載報告はこちら)などへの寄稿なども手がける。
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