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【コンサルに聞く】集患の成否は局地戦にあり、「ランチェスター戦略」に学べ

2015.6.30.(火)

 病院大再編時代に突入した今、いかに患者に選ばれる病院になるか、集患対策に頭を悩ませる病院担当者も多いと思います。GHCアソシエイトマネジャーの湯原淳平は、集患を成功させるなら局地戦を制することが重要で、その基本を知るには「ランチェスター戦略」を学ぶべきだと指摘します。

戦争を科学した「弱者の戦略」

 フレデリック・ランチェスターは、セオドア・レビット、フィリップ・コトラー、マイケル・ポーターらマーケティングの大家に並び、マーケターの間では教科書に出てくる巨人です。ただ、本人はマーケティングとは全く縁のない戦闘機エンジニアでした(詳細はこちら)。

 ランチェスターは、戦争で撃墜された戦闘機の残骸を詳しく調査し、空中戦の勝敗を決めるさまざまな要因を検証することで、戦争を定量的、統計的、数学的に初めて取り扱いました。これをベースに、企業間の販売競争に勝ち残るための理論と実践の体系として構築されたのが、ランチェスター戦略です。

 今回取り上げるランチェスター戦略は、「弱者の戦略」です。ランチェスター戦略では、強者は市場シェア1位の存在を指し、それ以外はすべて弱者と位置付けます。

 ここでは病院の集患について、「患者を多く呼び込めていない地域からどう呼びこむか」といった状況を想定した戦略です。例えば、「特定の疾患の患者が競合病院に流れている…」「ここ数年、隣の医療圏にある有力病院に多くの患者が流れている…」というような状況を想定してください。

2位では駄目、必ず1位を目指せ

 ランチェスター戦略における「地域戦略」で弱者が取るべき方法は、局地戦です。局地戦で分かりやすいのは、今川義元率いる2万5000人の兵に対して、織田信長率いる2000人の部隊が勝利した「桶狭間の戦い」ではないでしょうか。頭数だけでは圧倒的に不利な状況にある信長は、義元の護衛部隊2000人に対して、自軍のすべての戦力で奇襲を掛けることで、局地で瞬間的に互角以上の状況を作り出し、局地戦での勝利があったからこそ、その後の躍進につながりました。

 ここで重要なのは、桶狭間の戦いのような歴史的な奇襲自体を学ぶことではなく、「勝てる所で勝負し、局地戦での勝利を積み重ね、地域での最終的な勝利につなげる」という考え方です。マーケティング理論の権威、コトラーが提唱する基本フレームワーク「STP」(マーケットを細分化「Segmentation」し、勝てる土俵「Targeting」を選び、自らの価値を宣言「positioning」する)とも通じる所があります。

 ランチェスター戦略を集患対策に応用するにはまず、自病院の周辺地域を細分化して整理します。その中で、内部環境と外部環境を精査した上で、重点エリアを設定し、そこで必ず1位になれる戦略を打ち立てます。ここで重要なのは、「2位では駄目で、必ず1位になること」と湯原は強調します。局地戦はあくまで周辺地域でのシェアを伸ばすための手法で、目指すべきは局地戦を皮切りにオセロゲームのようにシェアを塗り替えていくことであり、そのためには局地戦での圧倒的な勝利が必要なのです。

“飛び道具”にもなる訪問看護ステーション

 局地戦で圧倒的な勝利を実現するためには、詳細な分析に基づく緻密な戦略が欠かせません。それには蓄積されたコンサルティングノウハウが必要で、一言では語れませんが、興味深い例を1つ挙げるなら、ここ最近、湯原は訪問看護ステーションの活用に着目しています。

 訪問看護は、在宅復帰支援の観点などから近年、診療報酬で評価されています。特に、大規模ステーション(看護師7人以上)への評価は高く、サテライト・ステーションの設置も可能です。例えば、収益をきちんと確保した上で、局地戦を制したい場所にステーションをつくり、それが本体へのパイプ役を担ったり、ステーションをネットワーク化したりすることもできます。確実かつ戦略的に局地戦を制すための“飛び道具”になる可能性を秘めているのです。

 ただ、局地戦を制するための大前提は、自病院の近辺でまずは圧倒的1位になることです。その上で勝てる土俵を選び、確実に1位になり続けることができれば、周辺地域の患者が集まる病院になり、そのことが地域の安心・安全につながっていくことでしょう。

解説を担当したコンサルタント 湯原 淳平(ゆはら・じゅんぺい)

yuhara 株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパンのコンサルティング部門アソシエイトマネジャー。看護師、保健師。
神戸市看護大学卒業。聖路加国際病院看護師、衆議院議員秘書を経て、入社。社会保障制度全般解説、看護必要度分析、病床戦略支援、地域包括ケア病棟・回リハ病棟運用支援などを得意とする。長崎原爆病院(事例紹介はこちら)、新潟県立新発田病院など多数の医療機関のコンサルティングを行う。「週刊ダイヤモンド」(掲載報告はこちら)、「日本経済新聞」(掲載報告はこちら)などへのコメント、取材協力多数。
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