医師の充足状況、診療科間・地域間・病院間で格差続く―日医総研WP
2015.7.14.(火)
リハビリテーション科、救急科、産科、診療内科、病理診断科で医師が不足しており、また秋田県、新潟県、山形県などで必要求人医師数倍率が高いなど、依然として診療科・地域による医師の偏在がある―。日本医師会総合政策研究機構が8日、このような状況にあることを「病院における必要医師数調査結果」で明らかにしました。
また、病床規模が大きいほど「さらなる医師確保が必要」と考えている病院が多いことや、高度急性期・急性期の病棟を持つ病院で「さらなる医師確保が必要」と考える傾向が強いことも分かりました。
この調査は、全国の病院を対象に「2015年5月1日時点の必要医師数」などを調べたもので、有効回答は4319病院、有効回答率は51.0%となっています。
調査では、必要医師数を「現在の医師数に追加して必要な医師数」と定義し、このうち「実際に求人中の医師数」を求人医師数としています。回答した病院のうち50.0%が「必要医師数がある」と答えており、半数の病院で「さらなる医師確保が必要」と考えていることが分かります。
「必要医師数すべてを確保できた後の全体の医師数」と「現在の医師数」の必要である必要医師数倍率は、1.11倍となっています。
ところで、厚生労働省も2010年9月に「病院等における必要医師数実態調査の概況」を公表しており、そこでは必要医師数倍率は1.14倍でした。厚労省調査と日医総研調査を比較すると、「病院において、さらに確保しなければならない医師数は減少している」ことが分かります。
また、求人医師数ありの病院は37.0%で、「求人確保後の全体の医師数」と「現在の医師数」の比率である必要求人医師数倍率は1.06倍となりました。すべての求人を確保できた場合、現在よりも常勤換算で病院の医師数が1.06倍になる計算です。
厚労省の10年調査では、必要求人医師数倍率は1.11倍だったので「病院における医師の求人数は減少している」ようです。
10年6月に菅直人内閣は「新成長戦略」を閣議決定し、そこには「先進諸国並みの医師数」確保するために、医学部の定員を増員していくことを盛り込みました。その後も、東日本大震災からの復旧・復興などを目指して、医学部定員増が続いています。これが今回の調査結果に影響し「病院では医師の充足が進んでいる」ように見えますが、日医総研では「定員増後の医学生はまだ卒業していないので、その効果も併せ、引き続き今後の動向を注視していく必要がある」と述べるにとどめています。
次に診療科別(回答数が一定以上)に見ると、求人数が多いのはリハビリテーション科、救急科で、10年の厚労省調査と同じ結果となりました。また、求人はしていないものの「さらなる医師確保が必要」と考えている傾向が強いのは、リハビリ科、救急科に加えて、産科、診療内科、病理診断科が目立ちます。診療科による医師充足の格差が依然としてあることが分かります。
また、都道府県別に見ると、求人数が多いのは福井県、秋田県、静岡県などで、今回の調査と10年の厚労省調査のいずれでも求人数が多かったのは、秋田県、新潟県、山形県、島根県、滋賀県で、地域による医師充足の格差も依然として大きい状況が伺えます。
病院の種類別に見ると、「さらなる医師確保が必要」と考える傾向は大学病院以外の一般病院で強く、56.1%が「必要医師数あり」と答えています。また大学病院本院でも54.3%が「必要医師数あり」と答えました。逆に、精神病床のみ・療養病床のみという病院では「必要医師数あり」の施設は3割程度にとどまっています。
病床規模別に見ると、規模の大きな病院ほど「必要医師数あり」と答える病院の割合が高くなっており、500床以上の病院では62.4%が「必要医師数あり」と答えています。また、日医総研では「中小病院では、医師不足とそうでない所と二分している」との見解を示しています。
また、病床機能報告制度における病棟の機能に着目すると、高度急性期や急性期を持つ病院で「必要医師数あり」と答える病院の割合が高くなっています。
このうち、急性期・回復期・慢性期の3つの機能を併せ持つ病院では「さらなる医師確保が必要」と強く考えており、日医総研は「おそらく地域包括ケア病棟入院料を算定している病院ではないか」と推測しました。
さらに、急性期と慢性期の病棟を持ち、回復期病棟を持たない病院では、リハビリテーション医の必要性が高いとも分析しています。
このほか、次のような傾向も明らかになっています。
▽公立・公的病院で「必要医師数あり」の病院の割合が高い
▽三次救急、二次救急、初期救急、その他の順で「必要医師数あり」の病院の割合が高い
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