「医療費40兆円」時代に突入、ただし伸び率は低い水準を維持―2014年度概算医療費
2015.9.4.(金)
2014年度(平成26年度)の医療費は、前年度に比べて7000億円・1.8%増加し、39兆9556兆円となった―。このように、ついに医療費40兆円時代に突入したことが、厚生労働省が3日に発表した「医療費の動向」から明らかになりました。
今回の数値は、国民医療費の98%に該当する「概算医療費」と呼ばれるものです。したがって16年秋に公表される国民医療費は40兆8000億円程度になるものと見込まれます。
医療費に関する統計資料としては「国民医療費」が挙げられますが、2年遅れで公表されるため、政策決定の基礎資料としては、国民医療費の98%に該当する「概算医療費」が有用です。概算医療費は、医療保険と公費負担医療分の医療費を集計したもので、労災や全額自己負担などの費用は含まれていません。
まず、14年度の医療費を見てみると、39兆9556億円、ほぼ40兆円となりました。前年度に比べて7000億円・1.8%増加しています。医療費は過去最高になり、ついに40兆円時代に突入しました。
ところで医療費の伸び率は、09年度が3.5%、10年度が3.9%、11年度が3.1%でしたが、12年度は1.7%、13年度は2.2%、14年度は1.8%となり、最近は比較的低い水準にとにとどまっています。
この要因としては、「受診延日数が12年度はマイナス0.9%、13年度はマイナス0.8%、14年度はマイナス0.3%という具合に短縮している」点が挙げられます。受診延日数は、医療機関を受診した延べ患者数に相当するもので、平均在院日数の短縮や、退院調整の推進による在宅復帰、保険者などによる重複・頻回受診の抑制などが重層的に作用したものと考えられます。
今後も平均在院日数の短縮や退院支援の充実などが進められるので、医療費の伸びは比較的低い水準で推移することが予想されます。
14年度の医療費を制度別に見ると、被用者保険が11兆6000億円(本人6兆円、家族5兆10000億円)、国保が11兆8000億円、後期高齢者医療(75歳以上の高齢者)が14兆5000億円、公費が2兆円となっています。
前年度からの伸び率を見ると、被用者保険が2.6%(本人3.2%、家族1.6%)、国保が0.4%、後期高齢者医療が2.3%、公費が1.7%となりました。
また、制度別の1人当たり医療費を見ると、全体では31万4000円(前年度に比べて2.0%増)、被用者保険が15万7000円(同2.0%増)で、うち本人が14万7000円(同1.9%増)、家族が15万5000円(同2.2%増)、国保が32万2000円(同2.8%増)、後期高齢者医療が93万1000円(同0.5%増)という状況です。
後期高齢者の1人当たり医療費は、伸び率自体は低く抑えられていますが、若人に比べて3-4倍です。また、後期高齢者の数も増えており、医療費に占めるシェアは14年度は36.3%にまで拡大しています。今後も後期高齢者数が増加していくことは確実なため、医療費適正化対策において、喫緊かつ将来的なの最重要課題と言えます。
診療種類別に医療費を見ると、医科入院が16兆円(医療費全体の40.2%)、医科入院外が13兆8000億円(同34.5%)、歯科が2兆8000億円(同7.0%)、調剤が7兆2000億円(同18.0%)となりました。
診療種類別医療費の伸び率(対前年度)は、医科入院が1.7%、医科入院外が1.3%、歯科が2.9%、調剤が2.3%となっています。
また、受診延日数(前述のとおり「延べ患者数」に相当)の伸び率を診療種類別に見ると、全体では前年度に比べて0.3%の減少、医科入院で0.8%減、医科入院外で0.6%減、歯科で0.9%増、調剤で1.8%増という状況です。
医科では「平均在院日数の短縮」や「重複・頻回受診の適正化」が一定程度進んでいるために、受診延日数が減少していると考えられます。
一方、診療種類別の1日当たり医療費を見ると、全体では1万5500円(前年度に比べて300円・2.1%増)、医科入院が3万4300円(同800円・2.5%増)、医科入院外が8200円(同100円・1.9%増)、歯科が6700円(同100円・1.9%増)、調剤が8900円(同0円・0.5%増)、訪問看護が1万1000円(同100円、0.7%増)となっており、医科入院の1日当たり医療費の伸びが若干大きいことが分かります。
この背景には、入院で「より重症な患者」の治療を行っていると考えられそうです。
医療機関の種類別に1施設当たり医療費を見ると、大学病院165億7275万円(前年度比1.9%増)、公的病院49億7271万円(同1.6%増)、法人病院16億5159万円(同2.10%増)、個人病院7億5473万円(同1.90%増)、診療所1億24万円(同0.7%増)、歯科診療所3927万円(同2.7%増)、保険薬局1億3027万円(同0.2%増)などとなっています。
保険薬局の1施設当たり医療費の伸び率が小さくなっており、14年度の調剤報酬改定で▽24時間開局していない、受付回数2500回超かつ集中度90%超の薬局に対する基本料減額▽後発品シェアが低い保険薬局における後発品調剤体制加算の廃止―などの効果が出ている可能性が考えられます。
なお、14年度の推計平均在院日数は、日本全国では31.1日で、前年度に比べて2.2%短縮しました。
都道府県別に見ると、▽高知県45.4日(同1.5%減)▽鹿児島県44.7日(同1.9%減)▽山口県42.9日(同2.3%減)▽佐賀県42.3日(同1.8%減)▽徳島県41.7日(同4.1%減)―などで長くなっています。
逆に、▽東京都24.5日(同1.9%減)▽神奈川県24.7日(同2.0%減)▽愛知県26.1日(同2.4%減)▽岐阜県26.3日(同2.4%減)▽長野県27.3日(同1.9%減)―などで短いことが分かります。
最長の高知県と最短の東京都では20.9日と3週間近い格差があります。在院日数が長いことは、医療費が高くなるという経済的側面ばかりでなく、院内感染の発生確率が高くなったり、入院患者のADLが低下するなど、医療の質・価値を下げてしまうという点でも問題があります。高知県と東京都で疾病構造が大きく異なるとは考えにくく、格差是正は喫緊の課題と言えるでしょう。
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