16年度改定はマイナス必至、エビデンスに基づいたマネジメント・診療内容の改善が必要不可欠―病院ダッシュボード体験会
2015.10.6.(火)
2016年度の次期診療報酬では、特に7対1入院基本料の施設基準などが厳しくなると予想されます。こうした厳しい状況の中では、自院の経営・マネジメントがエビデンスに基づいたものとなっているか確認する必要性がますます高まっている―。GHCが29日に東京・新宿で開催した「病院ダッシュボード体験会」で、GHC代表取締役社長の渡辺幸子はこのように強調しました。
またDPCII群を目指しているJA長野厚生連佐久総合医療センターでは、病院ダッシュボードを導入して、診療密度などの重要指標を確認し、さまざまな改善活動に取り組んでおられます。同センターの須田茂男・診療情報管理課主任は「病院ダッシュボードを活用して資料を作成し、診療科部長ヒアリングへ臨んでいる」ことなど、具体的な活用方法を発表されました。
病院ダッシュボードはGHCが開発した次世代型病院経営支援システム・ツールです。自院が、他院と比べてどのような立ち位置にあるのか、さらに自院の強みや改善すべき点などを容易に把握することができます。
しかも、GHCのコンサルティングノウハウをベースに「チェックすべき重要項目」を予めピックアップして、設定しているため、経験の浅い職員でも、ポイントを外さずに、分析を行うことが可能です。
渡辺は、わが国の財政が厳しい中で「16年度の次期改定は大幅になる」と見通し、医療機関経営はますます厳しくなると強調。こうした厳しい時代を乗り切るためには、「自院の経営・マネジメントがエビデンスに基づいたものとなっているか」を、病院ダッシュボードを活用して確認する必要があると訴えました。
特にDPCを導入している急性期病院では、次の点を確認する必要があります。
(1)急性期病院の心臓部ともいえる手術室の稼働が低くないか、時間や曜日によるばらつきがないか
(2)医療材料の購入価格を把握し、他院とのベンチマークを行っているか
(3)在院日数の短縮や、無駄な検査・投薬の適正化をするために、パスの見直しや標準化を進めているか
(4)看護部門、薬剤部門、リハビリ部門、栄養部門などで加算の算定漏れがないか
(5)機能評価係数IIの向上に向けた戦略的な取り組みを行っているか
(3)については、包括支払い方式であるDPCでは構造的に「在院日数の短縮」と「点数の引き下げ」が自動的に進むことから、渡辺は「他院と同じ程度に在院日数短縮やコスト削減をしても、経営状態は向上しない。ベンチマークをして他院よりも努力することが必要」と訴えます。病院ダッシュボードでは、重要指標について自院が他院と比べてどのような状況なのかを、青色(上位25%)、赤色(下位25%)、黄色(その中間)に色分けして可視化。赤色の項目があれば「改善に向けた取り組みを重点的に行う必要がある」と容易に判断できます。
ところで、地域医療構想や病床機能報告制度に代表されるように、厚生労働省は医療提供体制の再編を進めています。このため、すべての病院が「将来、どういった役割を地域で担うのか」を検討しなければなりません。
この点について渡辺は、病院ダッシュボートを活用して「自院を取り巻く現在のマーケット(市場)を理解する」ことが必須とも訴えています。
佐久総合病院は14年3月に、高度急性期・急性期医療を担う「佐久医療センター」(450床)と、地域包括ケアをはじめとする総合的な医療を行う「佐久総合病院本院」(309床)に機能分化しました。佐久医療センターを高度急性期・急性期に特化させ、DPCII群病院を目指すものです。
しかし、佐久医療センターではDPCII群要件の1つである「診療密度」が、基準値である「I群病院の最低値」に届いていませんでした。そこで病院ダッシュボードを活用して具体的な課題を抽出し、改善を図っています。その結果、14年度には診療密度の基準値をクリアでき、現時点ではII群の要件をすべて満たしています。
では、佐久医療センターではどのような取り組みを行っているのでしょうか。同センターの須田主任は「病院ダッシュボードを活用して、『自院と他院の違い』を可視化した資料を作成。それを各診療科の部長ヒアリングで提示し、診療現場で具体的な改善策を検討してもらう」と説明しました(関連記事はこちら)。
ヒアリングには、例えば次のような資料を、病院ダッシュボードを活用して作成・提示しています。
(1)平均在院日数を短縮すれば診療密度が上がる構造
(2)自院とDPCII群病院との「1日当たり包括範囲出来高実績」の違い▽自院における、術式別の「外保連手術指数」
(3)医療圏(佐久・上小二次医療圏)において、主要疾患の症例シェア(他院と自院がどれだけの患者を受け入れているか)
(4)自院の診療科別の在院日数の状況
こうした資料からは、例えば「ある診療科で、DPCの入院期間II(当該診断群分類の平均在院日数まで)を超えて入院している症例が多い」ことなどが分かります。一般に「入院期間IIまでに退院する症例が70%以上」であることが望ましいとされているので、それと比較すると「その診療科では在院日数短縮に向けた取り組みが必要」といった課題のあることが分かります。
次に、その課題(ここでは在院日数の長さ)の原因がどこにあるのかを探るために、「どういった疾患で在院日数が長い傾向にあるのか」「診療内容が他院と大きく異なっている部分はないのか」などを見ていきます。
これらも病院ダッシュボードを使えば、瞬時に把握できます。
そのように具体的な問題点をあぶり出した上で、対策方法・改善方法は実際に診療を行う現場に考えてもらうことが重要ではないかと須田主任は指摘します。最終的には「パスの見直し」が行われることもあるといいます。
こうした取り組みを継続的に行うことで、佐久医療センターでは現在のDPCII群要件をすべてクリアできるようになったほか、▽1日単価の増加▽効率性の上昇―といった効果も生まれています。ここでは、「術前検査の標準化」によるコスト削減・単価増も効果を上げています。
さらに佐久医療センターでは改善を進め、分割移転後、かかりつけ医への診療情報提供の強化をし、14年9月には「総合入院体制加算2」の届け出を行い、今年7月には「地域医療支援病院」の承認を受けています。