STの多単位介入で経口摂取率6倍、在宅復帰で最優先すべきは食事・排泄訓練―日慢協調査
2015.10.9.(金)
日本慢性期医療協会は8日、中枢神経疾患などの患者に対して、言語聴覚士(ST)が積極的な摂食嚥下訓練を行うことで、経口摂取率が約6倍に向上するなどとする調査結果を発表しました。調査結果を発表した同協会の武久洋三会長は、リハビリテーションでは歩行訓練などを優先する傾向にあることに触れた上で、「最優先すべきは嚥下障害と膀胱直腸障害に対するリハビリ。自立歩行を至上目的としている現状を改めることで、在宅復帰率が向上するのではないか」と述べました。
武久会長は、現在のリハビリの実施内容とリハビリ利用者の改善要望に乖離があると指摘。5月20日の介護給付費分科会で示された「リハビリテーションにおける医療と介護の連携に関する調査研究事業」の結果概要(資料はこちら)によると、半数以上のリハビリ利用者が「基本的な動作(移動や食事、排泄、入浴など)ができるようになりたい」とする一方で、摂食・嚥下訓練と排泄・入浴訓練の実施率はいずれも1割を大きく下回っている状況です=図表1=。
日慢協の調査は、4病院で中枢神経疾患などが主疾患の入院患者30人(平均78歳)に対して、1日当たり平均5.6単位の摂食嚥下訓練を実施したもの。初期段階で14%だった経口摂取率は、最終段階では約6倍の83%になりました。逆に63%だった経鼻栄養は7%まで下がりました。
膀胱直腸障害に対する重点的なリハビリでも、入院時に半数だったおむつ着用率が3%へ減少しており、摂食嚥下訓練と同様に改善傾向が見られました(調査対象の概要:22施設、脳血管や運動器などが主疾患の平均80歳の患者111人、1日当たり平均5.1単位の膀胱直腸障害リハを実施)。
日慢協はすでに、(1)出来高から包括への全面転換、(2)疾患別リハビリの廃止、(3)算定日数制限の撤廃、(4)「9時-5時(17時)リハビリ」から「24時間リハビリ」へ、(5)嚥下障害リハビリ、膀胱直腸障害リハビリの優先―の計5つの提言から成る「リハビリ提供体制の抜本改革」を発表しています(関連記事『リハビリは全面的に包括評価へ転換すべき―日慢協の武久会長』)。
武久会長は今回の調査結果を受けて、リハビリの提供が1単位いくらという出来高の診療報酬であることが「日常生活回復の阻害要因になっている」と指摘。その上で、日常生活の回復に重点を置いたリハビリを提供するには「成果主義がいいのではないか」と、改めてリハビリの出来高報酬から包括報酬への転換を主張しました。
8日の会見では、2017年4月に消費税が8%から10%に増税されることについても言及。消費増税による病院の「損税(控除対象外消費税)」で最も大きな影響を受けるのは新たな病院建築であるとした上で、「国は民間病院の病院建築にかかる消費税分だけでも交付金を出すべきだ。このまま消費税が10~20%になれば、民間病院のリニューアルは不可能で、医療資源は廃墟になる」と訴えました。