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胃管の気管支への誤挿入で死亡事故、X線検査や内容物吸引などの複数方法で確認を―日本医療機能評価機構

2015.12.28.(月)

 今年(2015年)7-9月に報告された医療事故は856件、ヒヤリ・ハット事例は8842件となり、医療事故のうち9.1%に当たる77件は患者が死亡している―。このような調査・分析結果を日本医療機能評価機構が「医療事故情報収集等事業 第43回報告書」として22日に公表しました。

 報告書では「中心静脈カテーテルを座位で抜去することは、空気塞栓症のリスク要因となる」ことや、「胃管を気管支などへ誤挿入する事故で死亡も発生しており、気泡音聴取だけでなく、エックス線撮影や内容物の吸引・pH検査など複数の方法を併用することが必要」などの注意喚起も行っています。

医療事故の2割程度が、死亡などの重大事例

 2015年7-9月に報告された医療事故は846件で、15年1月からの累計では2549件となりました。

 医療事故の概要を見ると、「療養上の世話」が最も多く327件(全体の38.7%)、次いで「治療・処置」の266件(同31.4%)、「その他」の87件(同10.3%)、「ドレーン・チューブ」の59件(同7.0%)、「薬剤」の48件(同5.7%)と続きます。

2015年7-9月に報告された医療事故の概要を見ると、「療養上の世話」「治療・処置」「ドレーン・チューブ」関連が多い

2015年7-9月に報告された医療事故の概要を見ると、「療養上の世話」「治療・処置」「ドレーン・チューブ」関連が多い

 事故の程度別に見ると、「障害残存の可能性が低い」が261件(同30.9%)と最も多く、次いで「障害残存の可能性なし」が205件(同24.2%)、「障害なし」が178件(同21.0%)となっています。また死亡事故は77件で全体の9.1%となっており、前回報告と同じ割合です。死亡事故の割合は、14年7-9月には5.0%でしたが、14年10-12月は8.6%、15年1-3月は9.1%、15年4-6月は9.1%、15年7-9月は9.1%と、高い水準で推移しています。

 さらに「死亡事故」と「障害残存の可能性が高い」を合わせた割合は、14年10-12月は19.2%、15年1-3月は18.4%、15年4-6月は19.2%、15年7-9月は19.1%と2割弱で推移しており(減少傾向にない)、医療現場での対策実施が急務と言えます。

2015年7-9月に報告された医療事故のうち、死亡事故は9.1%にのぼる

2015年7-9月に報告された医療事故のうち、死亡事故は9.1%にのぼる

 「死亡事故」77件について、どのような場面で発生したのかを見ると、「治療・処置の実施中」が21件、「療養上の世話(管理)」が10件、「検査の実施中」が4件、「ドレーン・チューブ類の使用中」が3件、などが目立ちます。死亡事故発生の場面にフォーカスを絞った対策をまず取ることが必要でしょう。

 また事故の発生要因(複数回答)に目を移すと、医療従事者・当事者の「確認の怠り」12.3%、「観察の怠り」10.2%、「判断の誤り」9.4%などが多い状況に変わりはありません。ただし、今回の報告では「患者側に起因する事故」が13.5%となっており、事故の最大要因となっている点が特筆できます。

 これまで通りの「医療従事者・当事者への注意喚起」「複数チェック体制の徹底」などに加えて、「患者への適切な説明と管理の徹底」、さらに高齢化に伴い認知症患者が増加している点も考慮した、複合的な対応をとることが重要です。

医療事故の原因としては、当事者の「確認怠り」「観察怠り」「判断誤り」などのほか、「患者に起因するもの」が多い

医療事故の原因としては、当事者の「確認怠り」「観察怠り」「判断誤り」などのほか、「患者に起因するもの」が多い

 事故に関連した診療科(複数回答)としては、従前どおり整形外科が126件で全体(複数回答なので1061件)の11.9%と群を抜いて高い状況も変わっていません。整形外科で生じた医療事故の概要を見ても、「療養上の世話」に起因するものが82件と最多で、整形外科における事故の65.1%、医療事故全体の7.7%を占めています。もっとも、例えば「転倒」が生じた場合には、他診療科から整形外科に移ることになるため、「整形外科=医療事故が多い」と安易に考えることは危険です。

ヒヤリ・ハットの1%程度、死亡事故に結びつく可能性も

 ヒヤリ・ハット事例に目を移すと、2015年7-9月に8842件報告されました。うち4069件について患者への影響度を見ると、ほとんどの事例(95.3%)は「軽微な処置・治療が必要、もしくは処置・治療が不要と考えられる」ものですが、「濃厚な処置・治療が必要と考えられる」事例が3.7%、さらに「死亡・重篤な状況に至ったと考えられる」事例も1.1%存在しており、十分な注意・対策を取る必要があります。

2015年7ー9月に報告されたヒヤリ・ハット事例のうち、もし実施されていたら死亡に至ったと考えられるものが1.1%・44件ある

2015年7ー9月に報告されたヒヤリ・ハット事例のうち、もし実施されていたら死亡に至ったと考えられるものが1.1%・44件ある

 ヒヤリ・ハット事例8842件の概要を見ると、「薬剤」が最も多く3506件(全体の39.7%)、次いで「療養上の世話」1666件(同18.8%)、「ドレーン・チューブ」1315件(同14.9%)などとなっています。医療事故と比べると「薬剤」に関連する事例が多くなっており、一歩間違えると重大な健康被害に繋がる可能性もあります。

ヒヤリ・ハット事例は、「薬剤」に関連するものが最も多い点が特徴である

ヒヤリ・ハット事例は、「薬剤」に関連するものが最も多い点が特徴である

 事故の発生要因(複数回答)としては、医療従事者・当事者の「確認の怠り」(23.9%)が飛び抜けて多く、次いで「確認の怠り」(8.8%)、「勤務状況が繁忙」(8.3%)、「判断の誤り」(7.9%)などと続きます。

ヒヤリ・ハット事例の原因も、当事者の「確認怠り」「観察怠り」「判断誤り」や、患者に起因するものが多い

ヒヤリ・ハット事例の原因も、当事者の「確認怠り」「観察怠り」「判断誤り」や、患者に起因するものが多い

胃管の誤挿入防止、「気泡音の聴取」だけでは不十分

 報告書では毎回テーマを絞り、医療事故の再発防止に向けた分析も行っています。今回は(1)インスリンに関連した事故(2)座位による中心静脈カテーテルの処置に関連した事故(3)胃管の誤挿入に関連した事故―の3つを取り上げています。

 まず(1)のインスリン関連の事故は2010年1月から2015年9月までの間に116件報告されました。最も多いのは「薬剤量が過剰であった」事故で33件、次いで「薬剤間違い」21件、「食事などとの調整誤り」13件、「無投与」12件となっています。

 薬剤量が過剰であった事故を詳しく見ると、「準備段階で過剰であった」ものが13件、「過剰量の指示を出した」ものが7件などです。

 ある事例では、指示を出した医師(A)と処方を入力した医師(B)が異なり、医師Aが当該病院で予め定められた「ヒューマリンR50単位+生理食塩水49.5ミリリットルで調整」との指示に対し、この規定を知らなかった医師Bが誤った入力を行い、過剰な量のインスリンが投与されてしまいました。同機構では「院内ルールを知らない医師・看護師がいると事故が起こり得る」として、「ルールの周知を継続的に行うことが重要」と強調しています。

 (2)の中心静脈カテーテル関連では、「座位でカテーテルを抜去したところ、呼吸困難、脳梗塞が出現した」(空気塞栓症が生じたと考えられる)事例や、「本来の外すべき部位と異なる部位を外したため、患者側のルートが大気に開放され、患者が呼吸苦を訴えた」(同様に空気塞栓症が生じた可能性)事例などが報告されています。

 同機構では「医師や看護師が、座位での中心静脈カテーテル抜去などが、空気塞栓症のリスクとなることを知らなかった可能性がある」とし、正確な知識の周知やマニュアル・ガイドラインの整備が必要と指摘しています。

本来とは異なる部位で中心静脈カテーテルを外したところ、患者側のルートが大気に開放されて空気が血管内に流入し、空気塞栓症を引き起こす事例が報告されている

本来とは異なる部位で中心静脈カテーテルを外したところ、患者側のルートが大気に開放されて空気が血管内に流入し、空気塞栓症を引き起こす事例が報告されている

 さらに(3)の胃管の誤挿入関連では、「気管支」や「胸腔」への誤挿入によって患者が死亡した事例も報告されています。同機構では「気泡音の聴取」は、確認方法として不十分であり、「エックス線撮影」「内容物の吸引」「内容物のpHチェック」など、複数の確認方法を併用する必要があると強調しています。

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