特定保健指導の未受診者は医療費1.5倍、医療費適正化に効果―健保連
2016.1.6.(水)
特定保健指導を受けていない人は、受けている人に比べて医療費が高い傾向にある―。こういった調査分析結果を健康保険組合連合会が公表しました。
また、▽メタボ▽腹囲▽血圧▽血糖▽脂質―といった健診検査値のリスクがある人では、ない人に比べて医療費が高いことも明確になりました。
これは、健康保険組合連合会(健保連)が健康保険組合の加入者について、レセプトデータ(2014年5月診療分、103万5835件)と特定健診・特定保健指導データ(2013年度実施分、218万2744件)を突合し、特定健診などの受診の有無と医療費との関係を分析したものです。
特定健診は、40-74歳の人を対象とした、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に着目した健診です。主に、▽服薬歴、喫煙歴の有無▽身長・体重・BMI(Body Mass Index)・腹囲▽血圧▽尿(尿糖・尿タンパク)▽血液(脂質・血糖・肝機能)―などを調べます。日本国民の高齢化が進行し、かつ生活習慣が変化する中で、糖尿病などの生活習慣病の有病者・予備群が増加していることを重くみて、2008年4月から導入されました。
特定健診によって生活習慣の改善が必要であると判断された場合には、特定保健指導が行われます。これは、メタボリスクにより次の2つに分けられます。
●動機付け支援:腹囲が男性は85センチメートル以上、女性は90センチメートル以上で、▽空腹時血糖値100ミリグラム/デシリットル▽中性脂肪150ミリグラム/デシリットル▽最高血圧130ミリメートルエイチジーまたは最低血圧85ミリメートルエイチジー以上―のうちいずれか1つに該当する人などが対象
●積極的支援:腹囲が男性は85センチメートル以上、女性は90センチメートル以上で、▽空腹時血糖値100ミリグラム/デシリットル▽中性脂肪150ミリグラム/デシリットル▽最高血圧130ミリメートルエイチジーまたは最低血圧85ミリメートルエイチジー以上―のうちいずれか2つに該当する人などが対象
まず、特定保健指導を受けた人と受けていない人で1人当たり医療費を比較すると、次のように「特定保健指導を受けた人の方が、受けていない人に比べて医療費が低い」傾向にあることが分かりました。
▽男性全体(医科入院):特定保健指導を受けた人は1977円、受けていない人は3074円(受けていない人は、受けた人の1.55倍)
▽男性全体(医科入院外):特定保健指導を受けた人は4985円、受けていない人は7798円(同1.56倍)
▽女性全体(医科入院):特定保健指導を受けた人は1738円、受けていない人は2273円(同1.31倍)
▽女性全体(医科入院外):特定保健指導を受けた人は6910円、受けていない人は7488円(同1.08倍)
性別、年齢別に若干のばらつきはあるものの、特定保健指導には一定の医療費適正化効果があることが伺えます。
次に、特定健診の結果、▽メタボ▽腹囲▽血圧▽血糖▽脂質―のそれぞれでリスクが有ると判定された人と、リスク無しと判定された人について1人当たり医療費を比較すると、男性では「血糖についてリスクの有る人は、無い人に比べて、医科入院・入院外のいずれも医療費が2倍以上」、女性では「メタボについてリスクの有る人は、無い人に比べて、医科入院・入院外のいずれも医療費が2倍以上」であるほか、次のようなことが分かりました。
▽男性(医科入院):▽血糖▽メタボ▽血圧▽脂質▽腹囲―の順で、リスク有りの人とリスク無しの人とで医療費に格差がある
▽男性(医科入院外):▽血糖▽メタボ▽脂質▽血圧▽腹囲―の順で、リスク有りの人とリスク無しの人とで医療費に格差がある
▽女性(医科入院):▽メタボ▽血糖▽脂質▽血圧▽腹囲―の順で、リスク有りの人とリスク無しの人とで医療費に格差がある
▽女性(医科入院外):▽メタボ▽血糖▽脂質▽血圧▽腹囲―の順で、リスク有りの人とリスク無しの人とで医療費に格差がある
この結果から、男性では「血糖」を中心に、女性では「メタボ」を中心に特定保健指導を行うことが医療費適正化に向けて効果的であることが伺えます。
さらに、特定健診の結果、▽メタボ▽腹囲▽血圧▽血糖▽脂質―のそれぞれでリスクが有ると判定された人と、リスク無しと判定された人について、医療費に占める生活習慣病医療費の割合を見ると、男性では▽血糖▽メタボ▽脂質―の順で割合が高く、女性では、医科入院については▽血糖▽脂質▽メタボ―の順、医科入院外については▽メタボ▽血糖▽脂質―の順で割合が高いことが分かりました。
なお、ここで言う生活習慣病は、▽糖尿病▽脳血管障害▽虚血性心疾患▽動脈閉塞▽高血圧症▽高尿酸血症▽高脂血症▽肝機能障害▽高血圧性腎臓障害▽人工透析―をさします。
ここからも、どこにターゲットを絞って特定保健指導をすれば効果的であるかが分かります。
医療保険者には、データに基づいた保健事業を行うことが求められており(データヘルス)、健保連の今回の調査分析は非常に有益ですが、まだまだ研究の余地があります。厚生労働省は来年度(2016年度)の予算案の中で「データヘルスのさらなる推進」に向けて8億7000万円を計上しており、今後、「特定健診・特定保健指導と医療費との間にどのような関係があるのか」をより明確にしていくことが期待されます(関連記事はこちら)。
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