2016年度の社会保障関係費、厚労省分は4126億円増の29兆8631億円に―2016年度厚労省予算案
2016.1.5.(火)
2016年度の厚生労働省予算案(一般会計)は、前年度当初予算に比べて3963億円増加し、30兆3110億円となりました。
社会保障関係費は全体で29兆8631億円、その内訳は▽医療11兆5438億円(社会保障関係費の38.7%)▽年金11兆2498億円(同37.7%)▽介護2兆9323億円(同9.8%)▽福祉等3兆9667億円(同13.3%)―などとなっています。
政府は、2016年度から18年度までの3年間を経済・財政を立て直すための集中改革期間に位置付け、特に支出(歳出)の多くの部分を占める社会保障関係費について「高齢化による増加分に相当する伸び」とするとしています。
具体的には「3年間で1.5兆円程度にする」との目安が置かれ、単純計算すれば1年間で5000億円程度の伸びに抑える必要があります。この点、2016年度の社会保障関係費は前年度に比べて、政府全体では4412億円増、厚労省分では4126億円増に抑えられました(関連記事はこちら)。
医療については、前年度に比べて538億円・0.5%の伸びに抑えられており、次期薬価制度改正・材料価格改正で厳しい見直しが行われることが分かります(関連記事はこちら)。
ただし、少子高齢化が進む中では社会保障の充実も重要課題であり、厚労省は▽病床機能の分化、連携、在宅医療の推進(地域医療介護総合確保基金の医療分)に904億円▽国民健康保険への財政支援の拡充などに2244億円▽難病・小児慢性特定疾病への医療費助成などに2089億円(関連記事はこちら)―などの手当を行います。
2016年度予算案では、安倍晋三首相が打ち出したアベノミクスの新たな3本の矢(1:希望を生み出す強い経済、2:夢をつむぐ子育て支援、3:安心につながる社会保障)を実現するための「一億総活躍社会の実現に向けた取り組み」が特筆できます。
このうち第3の矢である「社会保障」に関しては、まず介護離職ゼロを実現するために▽都市部を中心とした在宅・施設サービスの整備の加速化に423億円(地域医療介護総合確保基金の積み増し)▽介護人材対策の加速化に60億円(同)▽介護ロボットの導入促進などに4億3000万円―などが計上されています(関連記事はこちら)。
では医療・介護に関係する重要項目について、ポイントを絞って見ていきましょう。
まず2016年度には診療報酬や薬価などの改定があります。診療報酬本体はプラス0.49%、薬価はマイナス1.22%、材料価格はマイナス0.11%となり、このほかに「市場拡大再算定」や「大規模門前薬局の調剤報酬適正化」などが行われ、医療費の国庫負担として11兆2231億円が計上されました。医療費の25%が国庫負担と仮定すると、2016年度の医療費は45兆円程度になる計算です(関連記事はこちら)。
このほか次のような予算が計上されています。
▽予防・健康づくり、病診連携、在宅医療・介護との連携など、「かかりつけ医」として幅広く活動している医療機関の効果検証を行う(2100万円)(関連記事はこちらとこちら)
▽特定行為に係る看護師の研修制度を支援する(4億1000万円)(関連記事はこちら)
▽次のような認知症施策を推進する(82億円)(関連記事はこちら)
・認知症初期集中支援チームを配置した地域医療センターなどを316か所から911か所に増設する
・認知症地域支援推進員の配置を580か所から1094か所に増設する
・認知症疾患医療センターを366か所から433か所に増設する
・認知症医療・介護連携の枠組みを構築するためのモデル事業を行う
・若年性認知症支援コーディネーターの設置を推進する
▽医療分野のICT化を推進する(16億円)
・移植医療関連情報のICT化(造血幹細胞移植関連情報の一元化システムを構築する、臓器移植希望者検索システムを改修する)
・NDB(ナショナルデータベース)を活用した医療健康情報の見える化や、DPCのデータベースを構築する
▽医療保険分野における番号制度の利活用推進(医療保険のオンライン資格確認システムの整備)(3億8000万円)
▽後発医薬品の使用促進・品質確保に向けて、「ジェネリック医薬品品質情報検討会」で品質に懸念のある品目などの検査を行い、それを体系的にまとめたブルーブックを公表する(7億1000万円)
▽革新的医薬品・医療機器の実用化促進(2億8000万円)
▽医療分野の研究開発の促進(478億円)
▽国立高度専門医療研究センターの保有する疾患登録情報を活用して、臨床研究中核病院を中心とした産学連携による臨床研究・治験推進のための仕組みを整備する(31億円)
▽国立高度専門医療研究センターを中心とした拠点に「全ゲノム情報等の集積拠点」を整備する(36億円)
▽医療の国際展開(15億円)
・医療・保健分野における協力覚書を結んだ14か国(ブラジル、インド、カタールなど)を中心に、わが国の医療政策などに関する有識者や、医師などの医療従事者を派遣するほか、諸外国からの研修生を受け入れる
・WHOへの拠出を拡大し、新興・再興感染症対策やUHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(すべての人が質の担保された保健医療サービスを享受し、サービス使用者が経済的困難を伴わない状態)などに取り組む
▽総合的ながん対策(356億円)(関連記事はこちら)
▽肝炎対策の推進(186億円)
▽新型インフルエンザなどの発生に備え、プレパンデミックワクチンの備蓄や特定感染症病床の設備整備などを進める(30億円)
▽慢性の痛みに関する診断・治療法などの研究開発を行うとともに、患者の痛みの適切な管理や生活の質の向上を図る(1億3000万円)
▽データヘルスの効果的な取り組みの推進(8億7000万円)
・医療保険者が策定した「データヘルス計画」や、計画に基づく事業の実施結果を評価・分析する
・先進的な保健事業を、多くの医療保険者で取り入れられるような支援を行う
▽糖尿病性腎症患者の重症化予防(4000万円)(関連記事はこちら)
▽レセプト情報などから選定した重複・頻回受診患者に対して、保健師などが訪問指導を実施し、適正受診を促す(4億5000万円)
▽患者のための薬局ビジョンの推進(1億8000万円)(関連記事はこちら)
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