かかりつけ薬剤師の業務を包括的に評価する調剤版の「地域包括診療料」を新設―中医協総会
2015.12.4.(金)
2016年度の次期調剤報酬改定において、かかりつけ薬剤師の業務を包括的に評価する新点数を創設してはどうか―。厚生労働省は、4日に開催した中央社会保険医療協議会・総会に、このような提案を行いました。
厚労省は、今年(2015年)10月に「患者のための薬局ビジョン」を公表。その中で、現在、ややもすると「薬(物)中心」になっている薬局の業務を、「患者(人)中心」の業務にシフトしていくことが必要とし、2025年までにすべての薬局を「かかりつけ薬局」に移行していく方針を打ち出しています(関連記事はこちら)。
またビジョンでは、かかりつけ薬剤師・薬局は次の3つの機能を持つものと定義付けています。
▽服薬情報の一元的・継続的な把握と、それに基づく薬学的管理・指導
▽24時間対応・在宅対応
▽かかりつけ医を始めとした医療機関などとの連携強化
この方針は、政府の規制改革実施計画や骨太方針2015の中でも示されており、2016年度の次期診療報酬改定においても「かかりつけ薬剤師・薬局」への移行に向けた見直しが行われそうです。
厚労省保険局医療課の中井清人薬剤管理官は、「かかりつけ薬剤師が役割を発揮できる、かかりつけ薬局の機能を評価する」一方で、「かかりつけ機能を発揮できていない大型門前薬局などの評価を適正化する」と言う基本的な考え方を明確にしました。
前者の「かかりつけ機能」の評価については、(1)かかりつけ薬剤師の業務を包括的に評価する点数の新設(2)基準調剤加算の見直し―という2つの柱が示されています。
(1)は、かかりつけ薬剤師に期待される業務(服薬指導や薬剤の一元的管理)を個別に加算などで評価するのではなく、それらを包括的な点数で評価するというもので、いわば「地域包括診療料」の調剤報酬版というイメージです。中医協では、診療側(特に医科)・支払側の委員から「薬剤師の業務を個々に評価し、それを積み上げる体系は好ましくない」と指摘されており、こういった意見をも考慮したものと言えるでしょう。
ここでは、薬剤師が医療機関と連携して患者の服薬状況を一元的かつ継続的に把握することも求められる見込みです。
(2)の基準調剤加算は、「薬局のかかりつけ機能を評価する」項目と説明されており、2014年度の前回改定後は▽在宅業務▽24時間の調剤体制▽地域の医療機関との連携―などを行うことが施設基準に盛り込まれています。
中井薬剤管理官は、薬局のかかりつけ機能をより高めるために次のような見直しを行ってはどうかと提案しています。
▽在宅の実績要件をさらに求める(現在、高点数の加算2を届け出るためには年10回以上の在宅業務が必要)
▽開局時間、相談時のプライバシーに配慮した要件を追加する
▽24時間対応に関する実態に即した要件の明確化を行う
▽当該薬局に一定時間以上勤務する薬剤師の配置を要件に追加する
開局時間については、施設基準の中で「地域の医療機関や患者の需要に対応する」ことが求められていますが、厚労省の調査によれば「特定の曜日の午後に閉局している」など、患者のニーズ(平日の朝8時から夕方19時までの開局を望む声が多い)に必ずしも合致していない薬局もあることから、より明確に規定される見込みです。
またプライバシーの配慮については、現在「患者と薬剤師の会話が、他の患者に聞こえないようパーテーションなどで区切られた独立のカウンターを有する」ことが望ましい(努力義務)とされていますが、より厳格化することになりそうです。
この点について支払側の花井十伍委員(日本労働組合総連合会「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)は、プライバシーへの配慮は「薬局として当然のこと」と訴え、可能であれば「個室」を設けるべきと注文しました。知られたくない傷病が、薬剤師との会話の中で他者に漏れてしまうケースはままあります。「個室」は難しいまでも、相応のプライバシーへの配慮は非常に重要なテーマと言えるでしょう。
ところで、前述のように「基準調剤加算」はかかりつけ機能を評価するものですが、診療側の中川俊男委員(日本医師会副会長)や支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会副会長)は、「備蓄薬剤の品目数を評価する」ものになっているのではないかと指摘し、「抜本的な見直しを行うべきではないか」と問題提起しました。
この点について中井薬剤管理官は、「見直しは次期改定で終了するものではなく、次期改定以降も引き続き見直しを検討していく」方針を強調しています。
中井薬剤管理官は、薬局ビジョンに盛り込まれた「患者(人)中心」の業務へのシフトを進めるために、次のような提案も行っています。
(a)2回目以降にお薬手帳を持参した患者について、薬剤服用歴管理指導料を引き下げる
(b)重複投薬・相互作用防止加算について、対象範囲の見直しなど評価を充実する
(c)調剤日数に応じて増加する一包化加算などの評価を見直す
(a)は、患者負担を引き下げることで、患者がお薬手帳を持参し、同じ薬局に来局するインセンティブを高めるという考え方に基づく提案です。これまで、ある方向に医療機関や薬局を誘導するためには、「報酬を引き上げる」という経済的インセンティブを与えるという手法が一般的でしたが、これは患者サイドからは「負担が増える」ことを意味します。
厚労省は外来医療の機能分化を進めたいと考えていましたが、かつては病院のほうが初・再診料が低いため、患者は「負担額の低い病院の外来を選んでしまう」という逆印伝ティブが働いていました。今回の見直しの効果如何によっては、診療報酬による誘導手法に変化が出てくることもあります。
(b)は、現在、加算の対象となっていない「過去の副作用やアレルギー歴などにより処方変更が必要な場合」などに、薬局や医療機関に疑義照会を行うことにも範囲を広げてはどうかとの提案です。
後者の「大型門前薬局など評価の適正化」については、次の2点の見直しが中井薬剤管理官から提案されました。
(ア)調剤基本料の特例対象(減額対象)を、次期改定以降、段階的に拡大する
(イ)店舗数の多い薬局、特定の医療機関から処方せんを多く受け付けている薬局、特定の医療機関との関係性が深い薬局について評価を適正化する
(ア)の調剤基本料は、薬局における収入のベースとなるものです。通常、処方せんの受け付け1回につき41点が算定できますが、処方せんの受付回数が多く(つまり大型)、かつ特定の医療機関からの処方箋割合が高い(つまり門前)薬局では25点に減額されます。大型の門前薬局では、備蓄しておく品目数も限定的(特定の医療機関からの処方せんが極めて多いため)であることなどから、効率的な経営が行えているであろうとの判断からの措置です。
現在、「処方せん受付回数4000回以上かつ集中率70%以上」あるいは「処方せん受付回数2500回以上かつ集中率90%以上」の薬局で基本料が減額されており、減額対象(特例)が広がることになります。
なお、現在「24時間の開局」を行っていれば大型の門前薬局でも減額は行われません(特例対象からの除外)が、次期改定ではこの規定が廃止される見込みです。
このほか、未妥結減算の対象となる薬局の見直し(小規模薬局は除外する)なども提案されています。
厚労省保険局医療課の担当者は、「さまざまな意見が出されたが、基本的な理念についてはご了承いただけたと受け止めている」と述べており、年明けにより具体的な見直し案が提示される見込みです。
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