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診療報酬改定セミナー2024 新制度シミュレーションリリース

長期処方を制限すべきかなど、中医協の議論は混とんとしてまとまらず―中医協総会

2015.11.6.(金)

 薬剤使用を適正化するために、2016年度の次期診療報酬改定において長期処方に制限を設けるべきか、分割調剤を認めるべきか、こういった点が6日に開かれた中央社会保険医療協議会総会で議題となりました。

 しかし、支払側と診療側の間はもちろん、各側内部でも若干の意見の相違があり、議論は混とんとしています。厚生労働省内部で精査し、改めて議題とされる見込みです。

11月6日に開催された、「第311回 中央社会保険医療協議会 総会」

11月6日に開催された、「第311回 中央社会保険医療協議会 総会」

薬剤使用の適正化に向け、厚労省が詳細な論点提示

 薬剤使用の適正化については、4月8日に開かれた中医協総会で総括的な議論が行われました(関連記事はこちら)。そこでは、処方された医薬品のうち、金額に換算して年間29億円程度の医薬品が服用などされず「残薬」となっている状況が報告されており、さまざまな角度から適正化を検討することになっていました。

日本薬剤師協会の調査結果をベースに厚労省が推計したところ、1年間に約29億円の残薬が発生

日本薬剤師協会の調査結果をベースに厚労省が推計したところ、1年間に約29億円の残薬が発生

 6日の中医協総会には、厚生労働省から適正化に向けて次のような論点が示されました。

(1)薬剤の長期処方に何らかの制限などを設けるべきか

(2)高齢者について多剤投与を是正した場合の評価を行うべきか

(3)残薬の解消に向け、処方せん様式に「薬局での残薬調整の可否」に係る医師の指示欄を設けるべきか

(4)後発医薬品の使用促進に向けてどのような取り組みを行うべきか

 ここでは(1)から(3)の論点について見ていきましょう。

長期処方、診療側委員は「弊害がある」として制限求める

 現在、新薬(原則14日分まで)を除いて、原則として医薬品の処方日数に制限はありません。このため最近では処方日数が長期化する傾向にありますが、日本医師会総合政策研究機構の調査分析によれば、長期処方によって「患者が服用を忘れたり中断したために病状が改善しない」という弊害が生じているといいます。

かつて、医薬品には「原則14日分まで」という処方日数制限があったが、現在は、新薬(原則14日分まで)を除いて、原則として処方日数制限はない(新薬では

かつて、医薬品には「原則14日分まで」という処方日数制限があったが、現在は、新薬(原則14日分まで)を除いて、原則として処方日数制限はない(新薬では

日医総研の調査・分析によれば、2010年から2014年にかけて処方日数は長期化している

日医総研の調査・分析によれば、2010年から2014年にかけて処方日数は長期化している

日医総研の調査・分析によれば、長期処方の弊害として「患者が服薬を忘れたり中断したため病状が改善しなかった」ことや、「受診間隔が長い間に状態が悪化」したことなどがあることが分かった

日医総研の調査・分析によれば、長期処方の弊害として「患者が服薬を忘れたり中断したため病状が改善しなかった」ことや、「受診間隔が長い間に状態が悪化」したことなどがあることが分かった

 こうした点を踏まえて診療側の中川俊男委員(日本医師会副会長)らは、「処方日数に何らかの制限を設けるべきではないか」と求めており、今回の(1)の論点が取り上げられました。

 この点について診療側の松本純一委員(日本医師会常任理事)は「処方日数については一度考え直す必要がある。長期処方の場合には、医師にその理由を記載するよう求めてはどうか」と提案。同じく診療側の松原謙二委員(日本医師会副会長)も「処方日数は原則14日とし、長期処方の場合には理由記載を求めるべき」と同旨の考えを述べています。

 これに対し支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は「医師個人の判断に委ねるべき」と述べ、制限は不要との見解を明確にしています。

 処方日数に制限が設けられた場合、経済的には「再診料や調剤基本料の負担が重くなる」というデメリットも出てきます。これと、前述の処方日数に制限を設けないことによる弊害との間で、どうバランスを取っていくべきか、厚労省の采配が注目されます。

分割調剤、支払側は「医師の処方権担保されている」として賛成

 また、長期処方の弊害を是正する方策の1つとして、厚労省は「分割調剤」を導入してはどうか、との考えも示しました。分割調剤とは、例えば90日の服薬が必要な患者に対して、医師が90日分の処方せんを出しますが、薬局に対して「30日分×3回」と指示するものです。厚労省は「患者の同意」と「医師の指示」の2点を条件として、薬局での分割調剤を認めてはどうかと提案しています。

分割調剤は、処方せんには「必要な日数」を記載した上で、薬局に「分割」を指示するもので、繰り返し使用できる「リフィル処方せん」とは異なる

分割調剤は、処方せんには「必要な日数」を記載した上で、薬局に「分割」を指示するもので、繰り返し使用できる「リフィル処方せん」とは異なる

 この提案に対し支払側の幸野委員や平川則男委員(日本労働組合総連合会総合政策局長)は「医師の処方権は担保されており、問題がない」と賛成しました。しかし、診療側の中川委員は「(医師の診察がないために)長期処方の弊害があるのではないか」として、反対の姿勢を明確にしています。

 ただし厚労省の提案は、前述のとおり「医師の指示」が前提となっているため、医師が「実質的に長期間の処方となり、容態の悪化などの心配がある」と判断した場合には、分割調剤の指示を出さなければ済むのであり、中川委員の指摘はやや的外れかもしれません。

 なお、こうした点に関連して厚労省は「新薬の処方日数制限(原則として14日まで)が、患者の通院負担になっているケースもある」として、「薬局の薬剤師が患者の服薬状況や副作用の状況などを把握し、処方医と情報を共有する」ことを条件に、新薬の処方日数制限を緩和してはどうかとの提案も行いました。

 しかし、この提案に対しては、診療側・支払側双方の委員が「安全性を第一に考え、緩和すべきでない」との意見で一致しています。

高齢者への多剤投与是正の評価、支払側内部で意見分かれる

 (2)は、多剤投与が行われている高齢者に対して、医療機関が、あるいは医療機関と薬局が連携して、処方薬剤を減少させる取り組みを行い、処方薬剤が減少した場合に評価を行ってはどうかとの提案です。

 厚労省の調査によれば、▽2つ以上の慢性疾患を有する高齢者や認知症の高齢者では平均6剤の処方が行われている▽複数の医療機関から合計10種類を超える投薬が行われている高齢者が1ないし2割程度いる―ことが分かっています。

2疾病以上を持つ高齢者では1回平均6剤、認知症の高齢者でも1回平均6剤の医薬品が処方されている(1医療機関当たり)

2疾病以上を持つ高齢者では1回平均6剤、認知症の高齢者でも1回平均6剤の医薬品が処方されている(1医療機関当たり)

高齢者の一部では、複数の医療機関から10種類以上の薬剤が処方されている

高齢者の一部では、複数の医療機関から10種類以上の薬剤が処方されている

 多剤投与には、「薬剤が正しく服用されにくくなる」「意識障害や低血糖、肝機能障害などの有害事象が発生する可能性がある」などの弊害があることから、厚労省は前述の提案を行っているのです。

多剤処方には「正しい服用がされにくくなる」という大きな弊害もある

多剤処方には「正しい服用がされにくくなる」という大きな弊害もある

高齢者への多剤投与によって、「意識障害」「低血糖」「肝機能障害」などを引き起こす可能性がある

高齢者への多剤投与によって、「意識障害」「低血糖」「肝機能障害」などを引き起こす可能性がある

 この点について診療側の中川委員や松本委員は、「高齢者の服用歴を都度確認している『かかりつけ薬剤師』との連携を評価すべき」と述べ、厚労省提案に一定の理解を示しました。

 また支払側の幸野委員は、「医療機関と薬局が連携して薬剤を適正化する方向は賛成」とした上で、「薬局の評価は理解できるが、医療機関までも評価するのは二重評価になる」と述べ、提案内容の半分にのみ賛意を示しています。

 一方、支払側の平川委員は「基本的に必要な種類・量の薬剤を処方すべきである。多く処方して、減量などに成功したところを評価する手法は間違っている」と強く反対しています。

 支払側内部で意見が割れており、今後のどのように調整が行われるのか注目が集まります。

処方せんに「残薬調整の可否」記載欄を設けるべきか

 (3)の残薬の是正・解消に向けて厚労省は、処方せん様式に「残薬調整の可否に係る医師の指示欄」を設けてはどうかと提案しました。薬局で後発医薬品に変更することを可とするか不可とするかを医師が処方せんに記載しますが、これと同様のイメージです。

 「残薬調整可」の処方せんがあれば、患者宅に残薬がある場合に、調剤の数量を減らすことが可能になり、無駄な薬剤費を減少することができます。さらに、「残薬を患者が勝手に判断して服用してしまう」というリスクを軽減する効果も期待できます。

残薬があると、患者が自己判断で服用してしまうという弊害が生じやすい

残薬があると、患者が自己判断で服用してしまうという弊害が生じやすい

 この提案に対し、支払側の幸野委員は「医師の処方権は担保されている」と賛成意見を述べています。

 一方、診療側の松原委員は「院内処方であれば医師が患者の服薬状況を確認し、都度、処方を変更している。院外でも『処方せんの変更・修正』を行うことが筋である」と述べ、厚労省提案に強く反対しました。

 診療側・支払側で意見は割れていますが、「薬局において調整することは好ましくない」と考える医師は、処方せんに「調整不可」と記載すれば済む問題であり、松原委員の指摘するような弊害はないようにも思われます。

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