「他の後発品への変更不可」の場合、理由記載を求めるべきか―中医協総会
2015.11.6.(金)
後発医薬品の使用をさらに促進するために、「後発品の銘柄を指定し、変更不可として処方せんを発行する」場合に、変更不可の理由記載を求めるべきか―。こうした点について、6日に開かれた中央社会保険医療協議会の総会で議論が行われました。当然、診療側・支払側で意見は真っ向から対立しており、今後、さらに議論が重ねられることになります。
6日の中医協総会では、次の4つの論点が議題となりました。ここでは、(4)の後発品使用促進について詳しく見てみましょう。(1)から(3)については別の記事でご紹介しております(こちらをご覧ください)。
(1)薬剤の長期処方に何らかの制限などを設けるべきか
(2)高齢者について多剤投与を是正した場合の評価を行うべきか
(3)残薬の解消に向け、処方せん様式に「薬局での残薬調整の可否」に係る医師の指示欄を設けるべきか
(4)後発医薬品の使用促進に向けてどのような取り組みを行うべきか
(4)の論点については、さらに細かな論点・提案が厚生労働省から提示されています。
(A)後発品の数量シェアの新目標(2017年央に70%、18-20年度末の早い時期に80%)設定を踏まえ、後発医薬品調剤体制加算(薬局)、後発医薬品使用体制加算(病院)の算定要件をどう見直すか
(B)特定の医療機関からの処方せん集中率の高い薬局について、後発医薬品調剤体制加算をどう考えるか
(C)院内処方を行っているクリニックについて、後発品使用促進の取り組みをどう評価するか
(D)後発品の更なる使用促進に向けて、処方せん料、一般名処方加算をどう見直すか
(E)後発品の銘柄を指定して変更不可とする場合、その理由の記載を求めるべきか
厚労省の調査(2014年度改定の結果検証調査)によれば、薬局や患者の多くは「処方せんに後発品の銘柄指定をしない」ことを求めています。これを受け(E)の論点が示されましたが、診療側の委員はこれに強く反対しています。
中川俊男委員(日本医師会副会長)は、逆に「後発品の銘柄指定をした場合には、むしろ評価すべき」と提案しました。中川委員はかねてから「後発品を一律に扱うべきではない。医師は情報や経験に基づいて後発品を選択している。安易に薬局での変更を進めるべきではない」旨を主張しており、今回の提案もこの考えに沿ったものと言えます。
また同じく診療側の松本純一委員(日本医師会常任理事)も「処方医の意図しない後発品が調剤され、仮に患者に副作用が発生した場合には、処方医は『知りません』という態度はとれない。後発品の銘柄を指定し『変更不可』とする場合には常に理由がある」と述べ、やはり理由記載には反対しました。
一方、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は、「変更不可の理由記載は当然である」と厚労省提案に賛成しています。
「変更不可」の理由記載については、幸野委員の前任者である白川修二氏(健康保険組合連合会副会長)と中川委員との間で、壮絶な論争になった経緯もあり、今後も診療側と支払側の間で舌戦が繰り広げられそうです。
(D)には、「処方せん料について『一般名処方』の場合と『それ以外』の場合で評価の差が広がるように見直す」ことと、「一般名処方加算を算定する場合には、1剤だけでなく、後発医薬品の存在するすべての医薬品について一般名処方を行う」ことの2つの提案が含まれています。
前者は、処方せん料を2つに区分し、「一般名処方の場合は高く(引き上げられるかどうかは不明)」「それ以外の場合には低く(引き下げ)」設定することが考えられます。
後者の「一般名処方加算」については、現在、処方せんに含まれる薬剤のうち1つでも一般名で記載すれば算定できますが、これを「当該処方せんに含まれる薬剤の中で、後発医薬品が存在するものについてはすべて一般名で記載」しなければ算定できないと厳格化する考えです。
この提案について支払側の幸野委員は、「積極的に取り組むべき」と賛意を示しましたが、診療側の中川委員は、ここでも前述のように「医師は1つ1つの医薬品を見て、処方すべきか否かを判断している」点を強調し、厚労省提案に強い反対の意思を表明しています。
後発品使用が十分に進まない理由の一つに「薬局の在庫負担」があります。同じ成分であっても、多くのメーカーが後発品を販売しており、剤形や規格を考慮した場合、後発品の種類は膨大となります。後発品がすべて銘柄指定で処方された場合、薬局はあらゆる種類の後発品を在庫として備蓄しなければならなくなってしまうので、その負担を軽減するために「変更可とする処方せん」や「一般名処方」が進められているのです。
ところで、特定の医療機関からの処方せんが90%を超えるような薬局では、処方される薬剤が限定されるため、後発品の備蓄品目数・備蓄金額が少ない(つまり低コスト)ことが分かっています。
そこで厚労省は、こうした薬局について後発医薬品調剤体制加算を減額などしてはどうかと考えているのです。具体的な内容は明らかにされていませんが、支払側の幸野委員は「十分検討する余地がある」と述べ、厚労省提案に賛意を示しました。
一方、診療側の安部好弘委員(日本薬剤師会常務理事)は「医療資源の少ない地域(例えば過疎地)では、特定の医療機関からの処方せんが過度に集中してしまう」と述べ、細かい配慮を求めています。
たしかに「地域による特殊事情」は存在しますが、その場合でも「低コスト」である点に変わりはなく、安部委員の要望を、支払側委員や厚労省がどのように判断するのか今後の議論を待つ必要があるでしょう。
なお(B)は、後発品の使用促進がまったく評価されていない「院内調剤を行うクリニック」について、何らかの評価を行ってはどうかという提案で、診療側・支払側の双方が賛成しています。
ところで、診療側の委員は「後発品の使用促進や新目標値に反対しているわけではない。後発品使用は進めるべきと考えている。しかし、医師だけでなく、患者・国民や薬局・薬剤師の中にも『後発品に対する不信感』があり、これを解消する方策が必要である」とも訴えています。例えば中川委員は「後発品メーカーの整理統合」を行い、高品質な後発品のみが市場に出るようにすべきと求めています。
この意見には支払側の花井十伍委員(日本労働組合総連合会「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)も一定の理解を示し、厚労省に対して「後発品と先発品の同等性や、安全性、有効性について、より分かりやすく説明すべきではないか」と進言しました。
この議論は診療報酬改定の度に繰り返されていますが、今回は、厚労省がどのような説明を行うのか注目されます。
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