16年度の社会保障費は6700億円増、診療報酬の大幅マイナス改定の可能性も―厚労省16年度予算概算要求
2015.8.28.(金)
厚生労働省は8月26日に、2016年度(来年度)予算概算要求の概要を公表しました。
年金や労働保険などの特別会計を含まない一般会計は30兆6675億円を要求する構えで、前年度当初予算に比べて7529億円・2.5%の増額要求となります。
このうち年金・医療など社会保障に係る経費については、前年度に比べて6748億円の増額要求を行っていますが、社会保障費の伸びを抑えるために、年末の予算編成過程で「大幅な診療報酬マイナス改定」となる可能性もあります。
厚労省の16年度予算概算要求の枠組みを見ると、公共事業関係費などを10%削減する一方で、社会保障関係費を2.4%増額し、さらに「新しい日本のための優先課題推進枠」(推進枠)で2252億円を要望するとしています。
厚労省は16年度予算において、▽予防・健康づくりの推進▽総合的ながん対策の推進▽医療分野の研究開発の推進▽地域の福祉サービスに係る新たなシステムの構築―など8項目の「戦略的な重点要求・要望」を行う考えです。
まず「予防・健康づくり」に関しては、(1)データヘルスの効率的な取り組みの推進(2)後発医薬品の品質などに対する信頼性の向上・使用促進(3)歯科口腔保健の推進、患者のための薬局ビジョンの推進―という3つの柱を立てています。
具体的には、医療保険者の策定した「データヘルス計画」や計画に基づく成果について評価分析などに推進枠から50億円を要望。さらに医療保険者による「糖尿病性腎症患者の生活習慣改善による重症化予防」事例の横展開をするための経費として3億4000万円を推進枠から要望します。
また、重複・頻回受診者(レセプトから選定)に対して保健師などが訪問指導を行うことで「適正受診」を促進したり、重複・多量投薬患者に対して薬剤師などが訪問指導を行い、その結果を処方医や薬局にフィードバックするなどの「医薬品の適正使用」推進に、推進枠から14億円要望します。
また後発品の使用促進に向けて、推進枠を一部活用して9億1000万円を要望し、▽学会などで品質に懸念が示された品目の検査実施方針の決定▽原薬などの海外製造所における品質管理などの実地調査に必要な人員をPMDAに確保▽後期高齢者に対する後発品差額通知の送付支援―などを行います。
ちなみに後発品割合については、数量ベースで「17年中に70%以上」「18年度から20年度末までの早い時期に80%以上」に引き上げられます。DPCの後発医薬品係数などに影響する可能性もあります。
さらに、かかりつけ薬局の機能を明確にし、将来に向けた薬局再編の姿を示す「患者のための薬局ビジョン」の実現に向けて、▽24時間対応▽在宅対応などの薬局連携体制構築に向けたモデル事業を実施するための経費として、推進枠から2億3000万円を要望します。
「がん対策」については、推進枠を一部利用して250億円を要望し、「予防」「治療・研究」「共生」に関する次のような事業を展開する考えです。
▽予防強化のため、「がん検診クーポン」配付を継続するほか、「個別受診勧奨の強化」「職域における受信勧奨」「若い世代への啓発」を行う
▽難治性がん、希少がんに関する医薬品などを開発するための国際基準に準拠した臨床研究や、国際共同研究などを推進する
▽希少がんに関する医療提供体制の検討、相談体制の整備などを行う
▽小児がんについての長期フォローアップ体制や相談支援体制の整備を行う
▽がん診療連携拠点病院に「臨床研究コーディネーター」(CRC)や「遺伝カウンセラー」を配置する
▽国立高度専門医療研究センターを中心とした拠点に「全ゲノム情報などの集積拠点」を整備する
▽地域の看護師ががん患者に対し「適切な緩和ケア」や「看護相談」を提供できるよう、新たな研修を実施する
このほか医療・介護については、次のような項目が要望されます。
▽地域で「かかりつけ医」を持つことを普及し、「かかりつけ医」が予防・健康づくり、病診連携、在宅医療の推進、看取りなどを幅広く担うモデル事業を実施(4億5000万円、推進枠)
▽特定行為を看護師が実施するための研修を行う機関の確保など(5億2000万円、一部推進枠)
▽認知症疾患医療センターの増設(366か所から433か所へ)、認知症医療・介護連携の枠組み構築に向けたモデル事業実施、若年性認知症支援コーディネーターの設置推進など(57億円、一部推進枠)
▽複数の医療機関が参加するクラウド型電子カルテシステムのモデル事業実施や、NDBを活用した医療情報の見える化や、DPCデータのデータベース構築など(27億円、一部推進枠)
▽国立高度専門医療研究センターが蓄積する疾患登録情報などを活用し、臨床研究中核病院を中心とした産学連携による臨床研究・治験の推進など(71億円、一部推進枠)
▽世界最高水準の医療提供に必要な研究開発について、AMED(日本医療研究開発機構)を通じた基礎から実用化までの一貫した支援など(599億円、一部推進枠)
ところで、政府はわが国の財政を建て直すために16-18年度を集中改革期間と位置付けました。社会保障関係費については、実質的な増加を「高齢化による増加分に相当する伸び」とするために、3年間で1.5兆円程度にするとの目安が置かれています。単純計算すれば、社会保障費の伸びを1年間に5000億円程度に抑える必要がありますが、概算要求時点では6700億円を超える増額要求がなされています。このため、年末の予算編成に向けて別途、社会保障費の伸びを抑える方策の検討が行われる可能性があります。したがって16年度の次期診療報酬改定では大幅なマイナス改定もあり得ると考えるべきでしょう。
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