保険料設定や補足給付の基準見直し、持ち家処分での一時的な収入増は「所得」から除外―社保審・介護保険部会
2016.2.18.(木)
震災の被災地などでは、高台に移転するために土地を処分し、一時的に収入が著しく増加するケースがあります。現在の仕組みでは、こうした場合、介護保険料も高くなってしまいます。しかし、土地を処分しても、新たな家屋を購入する費用が発生するため、手元にお金が残るわけではありません。にもかかわらず高い保険料が設定されるのは不合理ではないか―。
こうした指摘が被災地の自治体などから挙げられているため、不合理を是正するための見直し案が、17日の社会保障審議会・介護保険部会で了承されました。今年8月から順次、見直しが行われます。
介護保険制度では、所得に応じて保険料や利用者負担が決定されます。負担能力に応じた負担を設定し、可能な限り公平性を担保するためです(応能負担)。
ところで、例えば東日本大震災の被災地などでは、自治体が被災区域の住民を安全な場所(高台など)に集団的に移転させる事業(防災集団移転促進事業)などが行われています。この場合、それまでに住んでいた宅地などを売却することになりますが、その売却収入は保険料設定の基準となる「合計所得金額」に計上されます。
すると、一時的に「合計所得金額」が著しく増加するため、翌年度の保険料は高く設定されます。また増加した費用が多ければ、利用者負担が2割に引き上げられるケースや、補足給付がストップされるケースも出てきます。補足給付とは、特別養護老人ホームなどに入所する低所得者に対して、福祉的な観点から光熱費などを保険財源から給付する仕組みのことです。
しかし宅地などを売却して収入(合計所得金額)が増加しても、新たな家屋などを購入するための費用が発生するため、手元にお金は残らないのが実際です。にもかかわらず利用者の負担は増加するため、被災地自治体などからは「不合理である。制度の改善をしてほしい」との要望が厚生労働省にあげられていました。
また、道路などの公共財整備のために土地収用が行われる際にも同様の不合理が生じます。
厚労省は、こうした不合理の原因は、保険料などを設定する際の目安となる「合計所得金額」の計算方法にあると考え、介護保険部会に次のような見直し案を提示し、了承されました。見直し内容は税法にならったものです。
●低所得者などの判定に用いる指標を、現在の「合計所得金額」から「合計所得金額-税法上の長期譲渡所得・短期譲渡所得の特別控除」に見直す
「税法上の長期譲渡所得・短期譲渡所得の特別控除」とは、土地や建物の譲渡に係る所得から一定額を控除するという税法上の仕組みです。
土地・建物の譲渡には、前述の「被災地のケース」や「土地収用のケース」のほか、一般的に土地や建物を売却する事例も広く含まれます。すると「一般的な事例を含めるべきだろうか」という疑問がわきますが、厚労省老健局介護保険計画課の竹林悟史課長は「税法などを制定する際に十分に議論したもので、大きな問題はないのではないか。一般に土地・建物を売却した場合でも、新たに住居などを購入する費用が発生する。賃貸に移る場合もあろうが、それは『緊急に現金が必要』なケースなのではないか」と説明しています。
この見直しによって次のようなところに影響が出てきますが、竹林介護保険計画課長は「約3300万人いる第1号被保険者のうち保険料については多くても約13万人、補足給付については多くても約2000人が対象になる(不合理が是正される)と考えられる」と見通しています。
(1)第1号保険料の設定(現在、65歳以上の第1号被保険者の保険料は「合計所得金額」などに基づいて設定される)
(2)自己負担割合(現在、原則1割負担だが、「合計所得金額」が160万円以上の場合などには2割負担となる)
(3)高額介護サービス費(自己負担が所得に応じて定められた水準を超える場合に、超過分が保険から支払われ、自己負担が過重になることを防止する仕組み。所得を判断する際、一部に「合計所得金額」が用いられている)
(4)補足給付(低所得者が特別養護老人ホームなどに入所する場合、福祉的観点から光熱費などを補填する仕組み。所得を判断する際、一部に「合計所得金額」が用いられている)
ところで、介護保険では3年を1期とした「介護保険事業(支援)計画」を策定し、この計画に基づいた運用が行われます。そこでは、要介護者がどれだけ発生し、サービスをどれだけ整備するかを考慮して支出(給付費)を見積もり、その費用を賄うために保険料をいくらに設定すればよいかを定めます。つまり保険料の額は、基本的に「3年間(介護保険事業計画期間)同一」に設定されるのです。
現在、2017年度までの「第6期介護保険事業(支援)計画」が運用されているため、(1)の保険料に関係する部分についての見直しは、原則として「2018年4月施行」となります。ただし、自治体の判断によって「2017年4月施行」とすることも可能です。
また(2)-(4)の利用者負担に関係する部分についての見直しは、システム改修などに時間がかかることなどを考慮し、やはり「2018年4月施行」となります。ただし、(4)の補足給付のうち「特例減額制度」については、システム改修期間が不要であるため、「今年(2016年)8月施行」となります。
補足給付は、原則として「市町村民税非課税」世帯が対象ですが、預金が少ないなどの一定の条件を満たした場合には、市町村民税が課税されていても「特例減額制度」として補足給付の対象となります。この特例減額制度は、現在「手作業で判定」が行われており、対象者も限定されていることから、施行が早められるものです。
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