新専門医制度、専門委員会設置して再検討、来年4月スタートの延期を求める意見も―社保審・医療部会
2016.2.19.(金)
新専門医制度によって地方の中小病院から医師が引き揚げられるなどし、地域医療が崩壊する可能性がある―。18日に開かれた社会保障審議会の医療部会では、委員からこのような意見が噴出。永井良三部会長(自治医科大学学長)は、部会の下に専門委員会を設置し、開始時期(現在は2017年4月スタート予定)を含めて検討することを決定しました。
中川俊男委員(日本医師会副会長)らは「開始を延期すべき」とまで求めています。
専門医の認定と養成プログラムの評価・認定を第三者機関で統一して行い、より質の高い専門医制度を目指すべく新専門医制度がスタートします。第三者機関である「日本専門医機構」(以下、機構)では、来年(2017年)4月から養成を開始すべく、プログラムの指針やモデルプログラムを関係学会や日本医師会、四病院団体協議会などと連携して策定し、現在、大学病院などからプログラムの申請を受け付けています。
しかし18日に開かれた医療部会では、新専門医制度に対して委員から厳しい意見が相次ぎました。特に多かったのは「地域医療が崩壊してしまう」という指摘です(関連記事はこちら)。
新たな専門医の認定を受けるためには、機構で養成プログラムの認定を受けた一定の症例数を持つ研修施設群(いわば医療機関群)で研修を受けることが必要です。このため専門医を目指す20代の医師が長期間、その養成プログラムの中で囲われ、地域の中小病院に若い医師が来なくなると懸念されているのです。
また、養成プログラムの認定を受けるためには、指導医を一定数確保する必要があり、地域医療の現場から医師が引き抜かれてしまうという懸念もあります。
機構でも、こうした点について配慮をしており、例えば次のような仕組みが設けられています。
(1)19の基本診療領域の専門医制度においては、「地域で研修を行い、地域医療の経験を積むことの重要性」を指針に明確に記載
(2)研修施設群の形成にあたっては、地域での連携を推進し、「専門医制度地域連絡協議会(地域連絡協議会)」などの設置を求める
(3)基準を満たす病院が取り残されないよう、養成プログラムの申請に当たっては地域連絡協議会で議論し、施設群の分布などに配慮する
(4)都市部の募集定員は「最大でも現状維持」とし、地域から都会へ専攻医(専門医を目指す医師)が移動しないように配慮する
(5)募集定員は、都道府県の人口・指導医に比例することが望ましい
(6)複数の養成プログラムを連携させ、専攻医が地元で研修できるようにするとともに、リサーチマインドを涵養し、地域医療全体に視野を広げてもらう
(7)養成プログラムの審査においては、「都道府県内の中小病院が組み入れられているか」「特定の医療グループに偏っていないか」なども重要なポイントする(大学・大病院のみの連合は不可とする)
(8)養成プログラムの作成にあたって圧力(例えば自グループに入らなければ医師を引き揚げるなど)などがあった場合には不服申し立てを受け付け、機構から是正・改善を求める。改善がなされない場合にはプログラムの認定を行わない
しかし医療部会の委員からは、こうした取り組みでも不十分との意見が出されました。
中川委員は、「機構による配慮は地域包括ケアシステムレベル(中学校圏域)では機能しない。現在、2次医療圏をベースとする地域医療構想区域で地域医療構想が策定されつつあるが、そこに重大な支障が出る」と指摘。
邉見公男委員(全国自治体病院協議会会長)は、「(2)の地域連絡協議会はほとんどの地域で機能しておらず、準備不足である」「指導医の基準を満たせるのは地域で大学病院だけというケースがある。これでは、どこの病院で研修を受けるべきかが自動的に決まってしまう。第3次医療崩壊(第1次が新臨床研修医制度、第2次が小泉改革)の始まりとなる可能性がある」と強調しました(関連記事はこちら)。
また相澤孝夫委員(日)本病院会副会長)は、「自院(相澤病院)でも養成プログラムを策定しているところだが、期限が迫りあわてている。こうした状況の中で新制度を進めてよいのだろうか」と疑問を投げかけています。
一方、荒井正吾委員(全国知事会、奈良県知事)は、「統一した基準で専門医を認定すること自体は良い方向だと思う」と評価しながらも、「奈良県では地域連絡協議会は動いていない」と現状を説明しました。
さらに中川委員は「わが国では地域・診療科による医師偏在で苦しんでいる。現在の仕組みで新専門医制度がスタートすれば、偏在がより強化される。延期すべきではないか」と提案。邉見委員や荒井委員らも延期案に賛意を示しました。
これに対し、機構の池田康夫理事長(早稲田大学特命教授、慶應義塾大学名誉教授)は、「現場に混乱が生じることは避けたい」と述べ、当初予定どおり来年(2017年)4月からの養成開始を行いたい考えを強調しました。例えば養成プログラムの申請を行っている病院などでは、専攻医の受け入れ体制の整備を進めており、延期となれば、病院の計画が大きく狂い、経営にも影響する可能性が考えられるためです。
こうした議論は平行線を辿ったため、永井部会長は「医療部会の下に専門委員会を設置し、開始時期を含めて、関係者の顔が見える中で集中的に議論する」ことを提案。あわせて医療部会でも新専門医制度の議論を継続していくことで場を収めました。専門委員会の構成や開始時期などは未定です。
ところで、新専門医制度は法律事項ではなく、専ら機構が詳細な制度設計などを行っています。開始時期についても法令上の決まりはなく、「専門医の在り方に関する検討会」(座長:高久文麿・日本医学会長)がまとめた報告書にある「第三者機関における認定基準等の作成や、各研修施設における養成プログラムの作成を経て、平成29年度(2017年度)を目安に開始することが考えられる」との記述を受けたものに過ぎません。
このため、新たに設置される専門委員会で仮に「延期すべき」との意見がまとまっても、それに強制力はありません。
しかし、新たな専門医制度は国民・患者に対してより質の高い医療を提供することが目的であり、医療関係者による一定の合意の下でスタートすることが望まれます。専門委員会で膝を突き合わせた議論を行って、合意形成し、大学病院・大病院・中小病院・診療所が一丸となってのスタートとなることが期待されます。
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