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診療報酬改定セミナー2024 2024年度版ぽんすけリリース

病院間の転院での救急車利用、ガイドラインで「高度医療が必要な場合」などに限定を―総務省消防庁

2016.4.4.(月)

 2014年の救急車による救急出動件数は前年から1.2%増加の598万4921件で、救急搬送人員は同じく1.1%増の540万5917人。いずれも過去最高を記録し、119番通報から病院に収容するまでに要した時間も過去最長の39.4分となっている。限りある救急搬送資源を、緊急性の高い事案に優先投入するため、例えば「転院搬送について、医療機関の保有する患者等搬送車(いわゆる病院救急車)を活用する」など、救急車の適正利用を推進する必要がある―。

 総務省消防庁は、3月29日に公表した2015年度の「救急業務のあり方に関する検討会」報告書の中で、このような提言を行っています(総務省消防庁のサイトはこちらこちら)。

 転院搬送については、消防庁と厚生労働省が連携してガイドラインを作成することも求めています。

転院搬送、全救急搬送件数の1割弱を占め、「下り搬送」での救急車利用も目立つ

 冒頭に示したように救急需要の増加が続いており、今後も高齢化の進展によって需要増が続くと考えられます。そうした中で、限りある救急搬送資源を、緊急性の高い事案に優先投入するための方策を策定するための、総務省消防庁の検討会で議論が続けられてきました。

 検討会では、次の7項目について議論を重ね、具体的な提言を行っています。

(1)消防機関以外の救急救命士の活用

(2)救急車の適正利用の推進

(3)緊急度判定体系の普及(ワーキンググループの設置)

(4)個別事案の分析により、搬送時間延伸要因の解決

(5)救急業務に携わる職員の教育(ワーキンググループの設置)

(6)蘇生ガイドラインの改訂への対応・救急隊の編成基準の見直しに伴う応急処置の範囲などの検討(ワーキンググループの設置)

(7)東京五輪への対応

 このうち注目される(2)の「救急車の適正利用」に焦点を合わせてみましょう。

 救急出動件数・救急隊の現場到着時間・病院収容時間が増加・延伸傾向にある中で、搬送人員の半数超が高齢者であり、うち相当数が軽症・中等症であることが分かっています。このため「救急車の適正利用」が急務となっており、報告書ではまず、救急車の頻回利用など「不適正な利用の抑制」が必要と指摘します。

救急搬送患者(特に高齢者)が増加し、救急搬送に要する時間も長くなっている

救急搬送患者(特に高齢者)が増加し、救急搬送に要する時間も長くなっている

 さらに報告書は、全搬送件数の約1割を占める転院搬送(2014年は約50万件)に注目。全国消防長会は2015年6月に転院搬送の適正化を要望しています。

 転院搬送については、1974年の消防庁通知で「一般的には救急業務に該当しないが、『当該医療機関において治療能力を欠き、かつ、他の専門病院に緊急に搬送する必要があり、他に適当な搬送手段がない場合』は、救急業務の対象になる」旨の解釈が示されています。

 一時期に比べて転院搬送の救急搬送全体に占める割合は若干低下していますが、「管轄区域外への転院搬送」や「医師・看護師などの同乗要請に関する協力度」「緊急性のない転院搬送」が問題視されています。緊急性のないものとしては「検査目的」や「下り搬送」(容体が安定した患者の、回復期や慢性期の機能を持つ病院への搬送)などが挙げられます。

転院搬送が全救急搬送件数に占める割合は、1割弱となっている

転院搬送が全救急搬送件数に占める割合は、1割弱となっている

 地域によって転院搬送における救急車の適正利用を進めるための取り組み(ガイドライン作成など)が進められていますが、検討会はこれを全国レベルに拡大すべきと提言しています。

 具体的には、消防庁と厚生労働省が連携して「救急業務として行う転院搬送」のガイドラインを作成し、都道府県・各消防本部に示すとともに、各地域で実情に合わせたルール化を進めるよう求めています。またガイドラインには次のような事項を盛り込むことも提案しています。

●以下の要件を医師が確認した上で「転院搬送依頼書」を提出してもらう

▽緊急に搬送する必要があること

▽高度医療が必要な傷病者、特殊疾患などの専門医療が必要な傷病者、または緊急に手術もしくは検査が必要な傷病者であること

▽患者等搬送事業者、医療機関が所有する救急用自動車など、他の搬送手段の利用が不可能であること

▽要請元医療機関が、あらかじめ転院先医療機関を決定し受け入れの了解を得ておくこと

▽要請元医療機関が、その管理と責任の下で搬送を行うため、原則として、医師または看護師が同乗すること

 

 なお、この点に関連して「消防機関の救急車」以外の資源を有効活用することも考えられます。例えば「患者等搬送事業者」(2015年4月1日現在、全国に1174事業所)や「医療機関が保有する患者等搬送車(病院救急車)」などを、転院搬送などに活用していくべきともしています。

救急業務の一部有料化、「慎重な議論が必要」

 また、かねてから「軽症患者が救急車を利用した場合、特別料金を徴収してはどうか」との指摘がなされています(関連記事はこちら)。

 このような救急業務の一部有料化については、▽料金徴収の対象者の範囲▽医師による判断の必要性(つまり事後にしか判断できない)▽料金の額▽徴収方法―などといった課題について、国民的な議論と合意が必要であるとし、「引き続き慎重な議論が必要」と述べるに止めています。

 なお、この「軽症」の傷病者を詳しくみると、救急搬送が不要な患者もおれば、例えば骨折などで「救急搬送が必要だが、後には通院治療で足りる」患者もいるなど、「重症、中等症、軽症」という分類は、緊急搬送の必要性を判断する「緊急度」とは異なる概念であることを確認。そこで報告書では「呼称の変更」についても検討の必要があると指摘しています。

 

 一方、最大の課題である頻回利用者に対しては、▽家族、親族への説明と協力要請▽自治体の保健福祉部局や医師による説得▽関係機関との対策会議、情報共有―が特に効果的であることを紹介。

 報告書では「頻回利用に陥る事情はさまざまで、事案の性質に応じた対策が重要なため、日頃から地域の医療機関や保健福祉部局など、関係者と情報交換を行い、それぞれの事案について効果的な対策を検討しておくなど、きめ細かな取組が必要である」と提言しています。

同一人が1年間に50回以上も救急搬送を要請するケースがある

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