「突然の7対1返上」に絶対ならない4つの正しいステップ、医療・経営の質向上の入口は看護必要度―GHCがセミナー開催
2016.5.13.(金)
GHCは5月10日、大阪府吹田市で「これだけは知っておきたい!『看護必要度ショック』を乗り切る方策とは?」と題したセミナーを開催しました。講師を務めたマネジャーの湯浅大介は、病床戦略を見直して年換算6000万円超の増収に導いた病院の事例などを紹介。対応を誤れば、7対1入院基本料の算定返上にもなりかねない「重症度、医療・看護必要度」の分析を入口に4つのステップに分けたコンサルティング・プログラムを解説した上で、「看護必要度は、医療と経営の質向上の重要なポイントであり、入口。今後の戦略的病床戦略・病床管理のカギになる」と強調しました。
まずは「データ精度」に問題ないか着目を
厚生労働省は現状、「急性期病床数が過多、回復期が不足」と考えており、医療提供体制の需給ミスマッチを問題視しています。2016年度診療報酬改定でも、病床の機能分化と連携をさらに推進。中でも急性期病院が着目すべきは、看護必要度の改定です。
主な改定は2つ。7対1入院基本料の算定要件である看護必要度はこれまで、重症患者割合の基準値は15%でしたが、これが25%(200床以下は23%の経過措置あり)へ引き上げられました。さらに、看護必要度の生データの提出が義務化されました(図表1)。
重症患者割合の引き上げは、A項目の見直しと新設のC項目追加で重要患者とカウントする間口が広がったため、実態は「10%の引き上げ」というイメージとは異なります。ただ、改定の影響がありそうな手術なし症例など個別疾患ごとのチェックは必要です(図表2)。
急ぎ対策が必要なのは、看護必要度の生データの提出義務化と言えます。GHCはこれまでのコンサルティング経験を通じて、多くの病院で看護必要度の生データは精度に問題があると考えています(関連記事『看護必要度、「データ監査」に衝撃 相澤病院、教育と仕組み化で精度を大幅改善』)。
例えば、GHCがシミュレーションしたA病院は、重症患者割合の総計が16.0%(図表右端「総計」の「現行」)と15%をぎりぎりでクリアしており、新制度では21.9%(同「新規項目考慮」)と新基準をわずかに満たせないように見えます(図表3)。しかし、看護必要度データとDPCデータを突合して精度を確認したところ、実際は11.3%(図表右端「総計」の「A項目補正」)で基準値を満たしておらず、新制度では17.6%(同「補正後新規」)と基準値との差が大きく、7対1入院基本料の維持はかなり難しいことが分かりました。
16年10月以降、看護必要度の生データ提出が義務化されます。A病院のように、看護必要度データの精度の問題を放置したままでは、急性期病院としての経営計画の前提が大きく崩れてしまうばかりか、当局から指摘を受け、7対1入院基本料の返上という事態に発展する可能性も考えられます。
正しい看護必要度データ記入6つの要点
湯浅は、こうした事態に陥らないよう、看護必要度のチェックを入口に、7対1病院を想定した新制度対応の4つのステップを紹介しました(図表4)。
最初のステップは、新制度の基準値25%を「大幅に」上回るかの確認です。大幅に上回っているのであれば現状(7対1の)維持ですが、そうでない場合は次のステップに進みます。ここで重要なことは、ただ単に重症患者割合を計算するのではなく、「現状を正しく知り、適正な対策を知ってから次のステップに進むべき」(湯浅)ということです。
現状を正しく知る最適な手法は、看護必要度データとDPCデータを突合して精度を確認することです。それが難しい場合には、(1)看護必要度データの漏れ(2)DPCデータの請求漏れ――の2つの視点でのチェックが有効です(図表5)。それぞれ、(1)については「チェック時点の評価ではなく、0時からチェック時点までを振り返る」「電子カルテの詳細画面で実施した項目を必ず確認」「前日の評価をコピーしない」「前の勤務者の評価を『参考』にする」――の4つ。(2)については、「実施したすべての項目は必ず入力する」「医師への声がけも積極的に」――の2つあり、計6つのポイントを順守できれば、データ精度が向上する可能性は高いです。
また、「看護必要度セミナーを複数回開催する」「いつ、誰が、どのように、など採点方法のフローを病棟間で統一する」などの手法もあります。ただ、これらは精度を向上するための具体策の一部であり、現状を正確に知るための手法ではありません。
GHCではこれまで、看護必要度データの精度向上プログラムをコンサルティングサービスとして提供してきましたが、この4月に「病院ダッシュボード」のオプションサービスとしてシステム化した「看護必要度分析」をリリースしました。湯浅は、「データ精度の分析に汗をかくのではなく、こうしたツールを活用するなどして、戦略立案や改善の実行に汗をかくべき」としました。
「何を守りたいか」が最終的な判断基準
次のステップでは、在院日数の短縮で基準値を満たせるかを検証します。
重症度割合を高める方法は大きく2つあります。重症度割合は、延べ評価日数を分母に、基準を満たす日数を分子にすることで決まります(図表6)。したがって、重症度を高めるためには、(1)いかに分母を小さくするか(2)いかに分子を大きくするか―という視点が欠かせません。(2)の分子を大きくする手法の1つには、先ほど紹介したデータ精度の向上などがあります。
(1)の分母を小さくする具体的な方法は、「在院日数の短縮」がその一つです。例えば、内科系救急は入院早期の退院調整が重要で、きちんと対策すれば在院日数の短縮につながります。B病院の事例で見ると、肺炎は3日目以降で評価対象になりにくいことが分かります。ほかにもクリティカルパスの再構築などで在院日数の短縮が見込める疾患があるので、これらをしっかりと分析して検証することで、どれだけ重症度割合を高めることができるかのポテンシャルと現実的な目標数値が見えてきます。
3つ目のステップは増加の見込みで、4つ目のステップは病床再編となります。2つのステップを、C病院の事例で同時に見ていきましょう。
C病院は400床前後の公的病院で、強みは主に内科系疾患。この医療圏で唯一のDPC病院です。回復期リハビリテーション病院(民間)との地域連携パスを構築しており、療養病院や介護施設が周辺に複数存在しています。C病院の内部環境と外部環境を精査した上で、地域における役割と自病院の強みと弱みを検証した結果、地域連携の視点と自病院の将来像を考え合わせると、「地域包括ケア病棟を1病棟創設する」という選択をしました(図表7)。
結果、在宅復帰に対する病院全体の意識が向上し、在宅医療や介護との連携もよりスムーズになり、医療の質が大きく向上しました。経営の質においても、DPC算定病床における1日単価は4700円増加し、総収益は年換算で6000万円超の増収となりました。看護必要度においても、A項目2点以上の症例割合が3ポイント向上しました。
最終的に病床再編のステップにならざるをえなくなった場合、C病院のようにケアミックスの道を選択するか、病床削減で急性期病院としてダウンサイジングする選択の2つが想定できますが、湯浅は「『何を守りたいか』によって選択結果は全く異なる。しっかりと自病院(内部環境)と周辺地域(外部環境)の状況を分析した上で、今後の病床戦略をジャッジする必要がある」としました。その上で、「看護必要度は、医療と経営の質向上の重要なポイントであり、入口。今後の戦略的病床戦略・病床管理のカギになる」と講演を締めくくりました。
好評のため都内で追加セミナー
この日のセミナーでは、「看護必要度分析」を直接触って試すことができるコーナーを設置。参加者の皆様に実際の操作や分析方法などを体験していただきました。同様の内容のセミナーはご好評につき、東京都内で5月16日、23日に追加開催いたします。