大事なのは、“大事なことを大事にすること”―スモルト氏インタビュー(下)
2014.11.21.(金)
全米で最も優れた病院の一つに数えられているメイヨークリニックの名誉最高経営管理責任者、ロバート・K・スモルト氏(写真)。インタビューの前編では、日本の医療に対する印象、厚生労働省の医系技官との勉強会の一幕を紹介しました(前編はこちら)。後編では、スモルト氏の経歴、「医療の価値」についてお聞きします。
メイヨークリニックが提唱する医療の価値の概念はGHCの経営理念の一つでもあり、「医療の質/医療のコスト」で算出します。「質の高い医療を最適なコストで」という視点は、高齢化が急速に進む中で、最適な医療提供体制を構築・維持していくために欠かせない考え方だと、GHCでは考えています(詳細はこちら)。
――これまでのキャリアは、医療経営一筋だったのでしょうか。
そうです。大学の経営学部を卒業して、MBA取得後、1969年から米空軍に就職しました。ちょうどベトナム戦争が行われていて、米空軍の医療経営を手伝いたいと思い、72年まで米空軍で働いていました。その年にメイヨークリニックに就職し、家庭医療、外科などの管理、戦略的な経営計画などに携わってきました。
――メイヨークリニックでのこれまでの最も大きい成果を挙げるとしたら、何でしょうか。
そうですね、メイヨークリニックでは医療経営・管理のみならず、医療政策分野でも活躍してきたことが大きいでしょうか。また、フロリダとアリゾナでメイヨークリニックの大規模な医療センターを立ち上げるプロジェクトに携わったことも大きな成果だったと思います。
――医療経営の魅力は何だと考えていますか。
今まで、本当に良いキャリアを歩んできたと思っています。メイヨークリニックに就職したとき、上司から次のようなことを言われました。
「待合室に行って、患者たちが何気なく話している会話を聞きなさい。そうした実際の話を聞くことで、医療機関に対する本当の満足度を知ることができる」
わたしだけではなく、医療経営に携わるすべての人もそうだと思いますが、患者を助けることがわれわれの最大の喜びです。より多くの患者を助けて、医療の発展に貢献し、そして実際の現場で患者の喜びの声を聞くことが最大のやりがいであり、医療経営の仕事を選んで良かったと思うポイントです。
医療経営に携わっていると、さらにより多くの患者の声が聞こえてきます。実際の声を集めて毎月行われるミーティングに、患者も招待し、実際に経験したことを語ってもらうことなどもしました。そうすることで、気付かなかった課題や発見に驚く一方、自分たちの仕事にやりがいも感じ、自分の病院をより深く理解し、改善に努力するようになります。その原動力となるのは、やはり患者の声です。
こうした声の中には、治療を行った医師に直接は届かず、間接的なフィードバックとして届くものも含まれます。医師では直接知り得ない、特定の患者のこうした生の声を毎月、直接聞けることは、医療経営に携わる人たちにとって大きな魅力(刺激)だと感じています。
――ひと言で言い表すのは難しいのでしょうが、メイヨークリニックが全米有数の優良病院になり、今もそうあり続けられるポイントは何でしょうか。
2つ理由があると考えています。まずは、より品質の高い医療を低いコストで提供できていることです。そしてもう一つ重要なことは、その医療を統合されたチームで提供していることだと思います。
2013年の冬に行われた世界経済フォーラム(ダボス会議)で、日本の安倍晋三首相は「日本にもメイヨークリニックのような、ホールディング・カンパニー型の大規模医療法人ができてしかるべき」と述べられました。これを聞いて、「日本にも統合された医療がやはり必要だ」と思いました。メイヨークリニックはこれまで、品質の高い医療を低いコストかつ統合されたチームで提供してきました。このことを誇りに思い、これまで本当に良い仕事をしてきたと感じました。
――GHCに何かメッセージがあればお願いします。
先ほどの日本の医療経営に携わる人たちに向けたメッセージと変わりはありません。みなさんには、これからも医療の価値を高め続けていってほしい。大事なのは、質の高い医療を最適なコストで提供することです。
わたしは「大事なのは、大事なことを大事にすることだ」という決まり文句が好きで、医療経営に当てはめると「質の高い医療を最適なコストで」が大事なことで、これを日本に伝え続けているアキ(よしかわ米国グローバルヘルス財団理事長)とさちこ(渡辺幸子グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン社長)を応援しますし、これからも大事なことを大事にし続けるよう、励んでほしいと思っています。
【連載ラインナップ】
(上)◆国内で5年以内にDRG導入なるか、行政担当者の反応は?
(下)◆大事なのは、“大事なことを大事にすること”