いまだ前例なし「社会医療法人債」で地域医療革命に道
2015.1.13.(火)
社会医療法人には、通常の医療法人に比べてさまざまな厳しい規制が設けられている一方で、ほかにはないメリットもある。「社会医療法人債」の発行が容認されている点もその一つだ。そもそも2005年7月にまとまった「医療法人制度改革の考え方―医療提供体制の担い手の中心となる将来の医療法人の姿-」では、公益性の高い医療サービスを安定的・継続的に提供するための新たな支援策の一つとして、寄附金税制や法人税制など医療法人に対する税制上の優遇のほか、証券取引法に基づく有価証券としての公募債の発行が取り上げられた。
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この公募債の発行は、元々は企業の病院経営参入への対抗手段として考えられたものだ。実は当時、企業参入賛成派からは、企業は株式の発行によって自ら資金を調達できるが、医療法人が自ら資金調達できないのは問題だという批判があった。さらに、一部の病院経営者からも資金調達の面で企業参入を認めるべきだとの意見もあった。このため、株式保有による経営権の確保という医療界が嫌う側面を取り除きつつ、新たな資金調達手段を確保する手段として、公募債の発行が急浮上した。
企業の世界では一般的な手段だが、非営利法人による公募債の発行は全く前例のない考えだった。わずかに独立行政法人で債券を発行した例があったが、社会福祉法人、学校法人といった特別の法律に基づく非営利法人では例がない。現在の医療法施行令を見ると、社会医療法人債の発行手続きに関する規定は、衛生規制を定める医療法の体系には馴染まない書きぶりであることが分かるだろう。
しかし、この社会医療法人債は地域医療を変える可能性を秘めている。例えば、地域住民や患者に直接債券を購入してもらうことで、地域の救急医療やへき地医療、小児・産科医療の設備を更新する資金を確保するとともに、債権者集会を通じて更新設備を公開し、将来の利用者への理解を求めていくというケースも出てきそうだ。
都道府県や地方銀行が債券を引き受けることで、社会医療法人が中心になって自治体病院を買い取り、経営を再建し、地域の医療提供体制の質を今まで以上高めることも可能である。社会医療法人債を通じて、病院と住民の新たな関係を築くことが期待される。
この社会医療法人債の発行手続きに関する規定は、残念ながらいまだ発動されていない。しかし、公益性が高く経営の透明性も確保されている社会医療法人の経営者ならば近い将来、このツールを使って地域医療に革命を起こすに違いない。